第114話 美嘉の両親と会いました
「はじめまして。美嘉さんの母親である理沙と申します。」
「・・・父の和正だ。」
目の前には、綺麗だけど無表情に近い女の人・・・美嘉のお母さんと、ムスッとして僕をずっと睨んでいる男の人・・・美嘉のお父さんがいる。
予想はしてたけど、やっぱり歓迎されていなさそうだなぁ。
美嘉は、何かを考えているのかずっと黙ったままだ。
会話もあまり無い。
何か重苦しい空気が漂っている。
「あの、美嘉さんとお付き合いさせて頂いている瀬尾瞬と言います。」
僕は、この空気をなんとかしようと自己紹介をして頭をさげる。
「・・・瀬尾さん、ですね?娘からは聞いています。あなたは素晴らしい方だと。」
「へ?い、いえ、そんな事は・・・」
「娘が言うには、瀬尾さんは優しく強く、それでいて弱気を助け強きをくじくという高潔な精神をお持ちだとか。」
「そ、そんな事を美嘉が?」
「はい。私は娘を信用・・・いえ、崇拝していると言っても良い。娘がそういうのであれば、そうなのでしょう。よろしくお願いしますね?」
「は、はい。よろしくお願いします・・・」
・・・いったい、美嘉は何をやったんだ?
なんか、美嘉のお母さん、うっとりしながらそう言うんだけど・・・というか、自分から崇拝とか言う!?
「ところで・・・そちらの女性の方々は?」
「あ、それは・・・」
「ミカの大事な親友であり、同じく女性としてシュンくんを支える仲間ですわ。」
「!?」
「あら・・・そうなのですか?」
ジェミニが凄く真面目にそう言うと、美嘉のお父さんは目を見開き、お母さんは少しだけ驚いた様子を見せた。
「み、美嘉!間違い無いのか!?お前はそんな事を許し・・・」
「あなた!怒鳴らないで下さい!美嘉さん?どうなのかしら?」
「ジェミニの言う通りです。あたしの大事な仲間であり、親友であり、そしてシュンを支える人達です。だから、失礼な事は言わないで下さいね?」
・・・なんだろう?
美嘉がそういうと、美嘉のお母さん一つ頷いて、すぐに無表情に戻った。
お父さんはわなわな震えてるけど・・・それよりも、美嘉の事務的な感じの方が気になるね。
そういえば、美嘉の両親の事、詳しくは聞けた事がないんだよね。
いつも聞いてもはぐらかされてたから。
ん?
なんか美嘉が目で促してきた。
早く言えって事?
「・・・あの・・・僕は、いえ、僕達は、将来的に美嘉さんと一緒になろうと思っています。ですから、ご挨拶を・・・」
「認められるか!!」
美嘉のお父さんが怒鳴った。
ああ、やっぱり怒るよね・・・でも、これは僕が受け止めるべきものだろうし甘んじて受けなきゃ。
「お前のような女たらしに・・・うちの美嘉がやれるか!」
・・・ごもっともだよね。
でも、もう僕達は心を決めているし、どう説得しようか・・・
そんな風に考えていた時の事だった。
「・・・お父さん、であればあたしは家を出るわね。お世話になりました。もう、あなた方は他人です。口出しは無用です。今までの養育費は全てお返ししますから安心して下さい。」
いきなり美嘉がとんでもない事を言った。
どういうつもり!?
「な!?み、美嘉、嘘だろ!?お前がいないと我が家は・・・俺は・・・」
狼狽する美嘉のお父さん。
そりゃ、娘からいきなり絶縁宣言されればそうなるよね。
ってそれどころじゃ・・・
「あたしの存在意義はシュンと・・・今はみんなと幸せになる事。それを邪魔するのであれば・・・肉親だとて容赦はせん。切り捨てるのみ。」
美嘉が堂々とそう言ってのける。
「そ、そんな・・・嘘だろ・・・?美嘉、嘘だと・・・」
これはいけない!
「こら!美嘉!そんな言い方無いでしょ!!」
「・・・シュン、でも・・・」
「デモもテロも無いよ!なんでそうなるの!?君がそんな風に言うなら、僕は君達とは一緒にならないよ!」
「!?」
僕の言葉にショックを受ける美嘉。
・・・後ろで、みんなもショックを受けている。
でも、これは譲れない!
「なんでそんな事言うの!?」
「言うよ!だって親でしょう!?君にとって親とはこの二人なんだ。そんな二人をないがしろにしちゃ駄目だよ!」
「アタシの事、好きじゃないの!?」
「なんでそうなるのさ!好きに決まってるじゃないか!でもね?だからと言って、君が間違った事をしようとしているのを止めない訳がないだろ!いや、だからこそ止めるんだ!!」
「良いじゃないの!あたしは正妻として・・・」
「違う!それは夫になる僕の役目なんだ!大事に大事に育てて来た娘さんを貰うんだ!だったら、僕が許して貰うまでお願いするしかないんだ!!これは、いくら正妻だろうと、奥さんだろうと譲れないよ!これは僕の義務だ!!!」
「「「「「「「「「っ!!」」」」」」」」」
僕がそう言い切ると、みんなは息を飲んだ。
僕は美嘉の両親に向き直る。
僕と美嘉の口論に、少し呆気にとられた様子を見せていた美嘉の両親がこちらを見た。
「お気持ちは・・・完全にわかるとは言えません。僕には娘はいませんし、親になった事もありませんから。ですが、絶対に娘さんを幸せにすると僕は誓っています。その為には何度だってお許しいただけるまで通う所存です。」
「そ、そんなの口だけでどうとでも・・・」
「覚悟はとうに完了しています。お試しになるのであれば、どれだけでも試して頂いて構いません。」
「・・・」
僕が美嘉のお父さんにそう言うと、お父さんは無言になった。
「・・・あなた。瀬尾さんに全ておまかせしましょう。」
「理沙!!だが・・・」
「美嘉さんが決めた事です。私は、全て受け入れます。」
「ぐっ・・・!だが、お、俺は・・・」
「・・・そんなにお金や立場が大事ですか?」
「!?」
・・・どういう事?
「あなた。今まで、美嘉さんは私達夫婦の為に、色々と助言してくれました。あなたの会社のトラブルの解決方法や、生活向上の為の資金繰り、その他もろもろ。その中には・・・破綻しかけていた私とあなたとの夫婦関係もあります。」
「・・・」
「美嘉さんは、その全てをまとめてくれたのです。これ以上、私やあなたの為に生きさせるのは、可哀想でしょう?」
「・・・」
美嘉のお母さんの言葉に、美嘉のお父さんは消沈する。
・・・どうやら、かなり複雑な経緯があるみたいだ。
「美嘉さん。」
「・・・はい。」
「これまで、ごめんなさい。不甲斐ない親で・・・本当にごめんなさい。でも、これからはあなたの為にその優れた知力を使ってね?瀬尾さんがあなたがずっと前から言っていた、あなたの相手、なのよね?」
「・・・うん。」
「なら、あなたの知力はあなたが幸せになるために使うべきよ。今までありがとう。これからは、自分達でなんとかしますから。」
そう言って、美嘉のお母さんは微笑んだ。
それは、今までの無表情とは違い、心からの感情の籠もった言葉に思えた。
「・・・美嘉。」
「はい。」
「・・・すまなかった。ずっと依存していた。俺は、お前さえいれば、何があってもどうにかなると、そう思っていた。・・・これでは、親として失格だ。どちらが守っているのかわからないな。本当にすまなかった・・・」
「・・・」
「理沙の言う通り、これからはきちんと夫婦で解決していくよ。それと瀬尾くんと言ったね?娘を・・・美嘉を幸せにしてやって欲しい。その子は、優秀だ。優秀すぎて、周りはみんな頼ってしまう。親である我々も含めてな。・・・だが、君は違った。」
美嘉のお父さんは僕を見た。
「君は、美嘉が間違っているとしっかりと叱った。美嘉が離れて行くかもしれないのに、叱れたんだ。私や理沙とは違う。それだけでも、君を認める理由となるだろうね。どうか、娘を頼む。」
頭を下げる美嘉のお父さん。
僕は立ち上がって、美嘉のお父さんの肩に手を乗せ、頭をあげてもらう。
「安心して下さい。僕達は、美嘉が心から信頼するものばかりです。美嘉が間違えれば、僕だけでなくみんなも止めてくれますから。だから、ちゃんと美嘉は幸せになれます。僕の責任にかけて幸せにします。それをお約束します。」
「・・・頼む。」
僕は涙を滲ませるご両親に頭を下げた。
みんなも同じ様に頭を下げる。
「・・・美嘉。」
「・・・わかってる。」
罰が悪そうな美嘉に声をかけると、美嘉は深呼吸してから両親に向き合った。
「お父さん、お母さん、あたしは、こんな良い男と仲間に囲まれてるの。利用するのでもされるのでも無いわ。だから・・・安心して?それと・・・縁を切るなんて言ってごめんなさい。これからも力になるから、なんでも言ってね?」
「・・・ああ、だが、今までのように頻繁には言わないよ。なぁ?」
「ええ、まずはあなたを頼らず自分達でなんとかしてみるわね。だから、あなたはあなた達の事だけ考えなさい?」
「・・・お父さん、お母さん、ありがとう。」
美嘉は、涙をにじませて、ご両親と抱きしめあった。
そこには、歪な家族ではなく、愛情深い家族が見えた。
僕達は桜咲家を出た。
美嘉のお父さん・・・和正さんの
「また来なさい。」
という言葉と共に。
みんなは楽しく駅までの道を歩く。
特に美嘉は僕に怒られた事をみんなにいじられてるね。
もっとも、美嘉は口では怒ってるけど、その表情は笑顔だ。
嬉しかったのかな?
僕はというと、一人だけ少し離れて歩いてる。
そんなみんなの様子を視界におさめていたかったから。
そんな時だった。
ドンッと衝撃。
横の細路地から歩いてきたカップルの、男の子にぶつかってしまった。
携帯で何かを見ながら歩いていたみたいだ。
「あ、ごめんなさい。」
「いや、こちらこそすまない。よそ見していた。」
・・・凄くカッコいい人だね。
歳は同じ位かな?
相手の女の子も綺麗な人だからお似合いだなぁ。
「シュンちゃ~ん?なにしてるの?みんなもう進んでるわよ~?」
みんなの姿は見えない。
この先の路地を曲がったみたいた。
翠叔母さんが心配して声をかけてくれたみたいだ。
「あ、翠叔母さんごめんなさい!すぐ行くね?じゃあ、すみませんでした!」
「ああ、気をつけて。ぶつかって悪かったね。」
僕はカップルと離れて、翠叔母さんに駆け寄った。
帰りの電車の中。
美嘉は、珍しく僕に凄く甘えて来た。
いつもは凛としているか、みんなのまとめ役でいようとしているから、あんまりそういう面は見せないんだけどね。
みんなもそんな美嘉を微笑ましそうに見守っている。
美嘉が両親と縁を切らなくて、本当に良かったよ。
そんな悲しい思いはしてほしくないからね。
さて、もうすぐ新学期だ。
何があっても、僕達なら大丈夫!
こうして、僕達の冬休みは終わるのだった。
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