第79話 決別しました side美玖

「嘘だな」

「え?」

「・・・は?」

「・・・なんですって?」


 わたしも、パパも、ママもフォーティちゃんを見る。


「・・・なるほど。これは・・・美玖、ちょっと手を出すのだ。」

「?」


 わたしがフォーティちゃんと手を繋ぐと、彼女の思考が流れ込んできた。


『美玖、これは駄目だ。明らかにしたら家族関係が壊れる。それでも、望むか?』


 ・・・一体何が原因なのかな・・・でも・・・


「・・・ねぇ、ママ?もし家族が壊れても、知りたい?パパが瞬を嫌う理由。」

「美玖!?何を言ってる!?理由はさっきから・・・」

「知りたいわ。」

「なんだって!?だから何度も理由を言って・・・」

「あなた?私と何年一緒にいると思ってるの?あなたが嘘ついてるのくらいわかるわよ?」

「っ!!」

「美玖にはわかるのかしら?」

「・・・わたしじゃなくて、フォーティちゃんがわかるみたい。」

「え?」


 みんなでフォーティちゃんを見る。


「・・・美玖の父親は、瀬尾瞬の母親に横恋慕しておったのだ。」

「!?」

「え!?」


 その言葉に、わたしとママが固まった。


「お、お前!何を言って・・・」


 明らかにパパが狼狽している。


「まだ、美玖が赤子の頃、美玖の父親は瀬尾瞬の母親に関係を迫った事があるようだ。しかし、夫を愛していると断られた。それで逆恨みしているようだ。元々瀬尾瞬は父親の面影があったらしく、年々似てくる彼をますますと嫌うようになった。」

「「・・・」」

「貴様!!何を言うんだ!!デタラメを言うな!!」


 いけない!

 パパが激昂し、フォーティちゃんの胸ぐらを掴んだわ!!


「『動くな、静かにしろ』」

「・・・っ!?・・・っ!?」


 パパがそのまま動けなくなってる。

 そんなパパの腕をフォーティちゃんが掴んで・・・顔を顰めた。


「貴様、最低だな。それを娘に向けたのか?幼い美玖を脅したな?美玖の記憶からは消えているが、それは美玖が自分を守るために自ら消したのか・・・『自分で自分の罪を晒せ』」

「お・・・俺は・・・緋美あけみさんが・・・好きだった・・・」

「「!?」」


 パパがそのまま口を開いた。

 出てきたのは緋美さん・・・瞬のママの名前。

 しかし、表情は驚いたままだ。

 自分の言葉に驚いているのね。


「だが、緋美さんは俺の気持ちは受け取らないと言った・・・あの憎い寛之ひろゆきしか愛さない、と・・・何故だ!なんでだ!どうして俺はこんな事を口走っている!?止まれ!止まれぇ!?」

「『続きを』」


 寛之というのは、瞬のパパの名前だ。

 

「や、やめ・・・!?あの小僧は・・・その寛之によく似ている。許せるわけがない!!ママが・・・翠があの小僧を可愛がれば可愛がるほど、忌々しい寛之に俺の翠が惚れているようにも感じるんだ!あいつ!緋美さんだけでなく翠にまで・・・二人とも俺のものにするつもりだったのに!!その上美玖まで!?・・・俺の娘まで持っていく気か!だから、あの小僧を好きだって言う美玖を叩いて脅して二度と言わせないようにしたんだ!ママには絶対に言わないようにってのもな!幸い、美玖は恐怖からかその記憶を封じこめたみたいで、その事は忘れてるみたいだがな。はっ!あんな小僧、さっさとのたれ死ねば良い!!誰が家に住まわせてやるものか!!・・・はっ!?ち、ちが・・・」


 パァンッ!!


 大きな音。

 ママだ。

 ママが、パパの頬を張った。 

 その頬には涙が流れていた。


「・・・別れましょう。出ていって。」

「ち、違う!そんなヤツの嘘を・・・」

「出ていって!そんな人だったなんて・・・ごめん・・・ごめんね美玖・・・気がついてあげられなくて・・・」


 知らず知らずに涙を流していたわたしをママが抱きしめた。


 その瞬間、蓋を取ったように記憶があふれ出てきた。


 ・・・思い、だした・・・パパにたれた記憶・・・怖くて、痛くて、でも、瞬の事を言わない時は優しくて・・・どうしたら良いかわからなくなって・・・気がついたら忘れて・・・違う、記憶に蓋をしたのね・・・


「ま、待ってくれ!俺よりもそんな奴を信じる気か!?」

「当たり前よ!あなたが姉さんに惹かれてたって事、知らないとでも思ったの!?」

「なっ・・・!?」

「でも、あなたは私の事も愛してくれていると信じていたから、だから何も言わなかったのよ!それなのに・・・それなのに瞬ちゃんを逆恨みするだけでなく美玖に手まであげていたの!?私も姉さんも自分のものにするつもりだった!?信じられない!早く出ていって!!手続きは、後日弁護士経由でするわ!二度と顔を見せるなあ!!」

「そんな!?美玖!美玖からも何か・・・」

「・・・全部、思い出したわ。パパ。」

「なっ!?」

「何度も、何度もたれた・・・瞬の名前を口に出すたびに何度も・・・」

「まっ・・・それは・・・」

「あんたなんかパパじゃない!自分の欲望が叶わなかった事への的外れ復讐にわたしを利用するな!」


 わたしは真っ向からパパを・・・元パパを睨む。


「・・・くそ!!ああ、わかったよ!だか、そんなに上手く行くと思うなよ?会社で孤立させてそっちから謝らせて復縁させてやるからな!・・・それと貴様、覚えておけよ?貴様のせいで家族がめちゃくちゃに・・・」

「・・・ほう?自分を棚上げしてよく言う。それに・・・たかだかニンゲン風情に私がどうにかできると?」

「・・・っ!?ひぃ!?」


 何が起きているのかわからない。

 でも、元パパだった男が、フォーティちゃんを引き攣った顔で見ている。

 あれ?なんかオシッコ臭い?・・・まさか漏らしてる!?


「仕返ししたいなら、すれば良い。逃げも隠れもしない。だが、当然やり返さる覚悟はしてくるのだな。」

「ひっ・・・ひぃいぃぃぃ!?化け物〜・・・・」


 ドタドタ!バタンッ


 元パパは逃げていった。


「・・・それで、この子は一体何なのかな?」


 落ち着いた後、ママがそう言った。

 どうしよう・・・


 ポン


 フォーティちゃんがわたしの頭を撫でた。


「正直に言えば良い。」

「フォーティちゃん・・・わかった。」


 わたしは、全部話した。

 瞬の事も含めて、今日、何があったのかも。


 ママは、驚いていたけれど、納得したみたい。


「・・・普通なら信じないけど、さっきまでの出来事を考えたら、ね?それで・・・フォーティちゃん、あなたにおうちはあるの?」

「・・・実は、無い。かの者・・・瀬尾瞬に、事情を話して、住まわせて貰おうと思っていた。」

「なるほど・・・あ、じゃあこうしたらどう?」


 その後のママの言葉は驚きのものだった。

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