第63話 めちゃくちゃにしました

ちょっと長めです

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 時は少し遡る。


「さて、まずは居場所の特定だね。美嘉、わかる?」

「ふむ・・・周防さんは魔力が無いからのぅ。少し待て・・・」

「あ、ミカ、これ参考にして?」


 ジェミニは、手に纏う魔力を変質させる。

 

「この魔力は、あの子と同質のものよ。」

「ほう?魔力を持っておったのか?」

「この世界の人も、あるにはあるみたい。ただ、限りなくゼロに近いけど。私でも、最初気がつかなかった位にね。これは、私の魔力を変質させてあの子の魔力と同質化させたものよ。」


 流石はジェミニだ。

 大賢者は伊達じゃないね。


「ふむ。ならば試して見よう。サンプルがあるのならば・・・魔眼『千里』」


 美嘉の右目が赤く染まる。


「・・・よし、見つけた。縛られており意識は無いが、まだ無事なようだ。では、行くぞ?」

「え?あ、あの?皆様は何を・・・何故、ジェミニ様の手が光って・・・桜咲様の目が赤く・・・」

「おっと、忘れておった。轟さんも共に行こうぞ。周防さんが心配であろ?」

「は、はい、それは勿論ですが・・・」

「では行こう。『転移』」


 一瞬で僕達は光に包まれ、光が収まると、そこには大きな屋敷があった。


「え?え?な、なんですか今の!?ここは・・・え!?」

「まぁまぁ、落ち着くんだトドロキさん。疑問は後で。それよりも、この建物に見覚えは?」

「は、はい・・・!?こ、ここは・・・見覚えは・・・何か資料で・・・!?この国で最大級の規模を誇る暴力団の本部!?」

「なるほど・・・クズの巣窟でしたか・・・では、遠慮はいりませんね?広域結界術『光亀壁こうきへき』!」


 リリィの結界術でこの建物周辺を覆う。

 幸い、周囲にはこの建物しかない。

 遠慮はいらないね。


「よし、じゃあ行こう。」

「え!?なんです、この光の壁は!?瀬尾様!?ちょっと・・・」


 戸惑う轟さんをそのままに、僕達は正門に堂々と歩いて行く。

 

「クォン。」

「あいよ〜!『豪破』!」


 クォンの掌打で、正門が弾け飛んだ。

 

「・・・ええ〜・・・?」


 轟さんが驚いている。

 だって、あれ、鉄の扉でかんぬきがしてあったからね。


「な、なんだてめぇらは!?」

「カチコミか!?ってガキと女!?」

「おい!正門がぶっ壊されてるぞ!?てめぇら!ここがどこだと・・・」


 喚きながら、男たちがわらわらと建物や敷地内から駆け寄ってくる。

 僕は、すぐに指示を出す。


「クォンとラピスは屋敷内の敵を!ジェミニは裏手へ!美嘉は正面を頼める?」

「あいよ!」「任された!」「オーケー」

「よかろう、ああ、シュン、周防さんは地下だ。入り口は中央の部屋にある。床を突き破っても、周防さんがいる位置には影響はない。」

「ありがとう美嘉!僕とリリィ、あと、轟さんはまっすぐ突っ切るよ!」

「え?ま、真っ直ぐって・・・」


 依然、狼狽中の轟さんをそのままに、僕は虚空に手を伸ばす。


「聖剣召喚!来い!『モーント』!!」

 

 月の名を冠する僕の聖剣。

 久々だけど、今日は頑張って貰うからね!

 僕の気持ちが通じたのか、聖剣がキラリと光る。

 なんだか、この剣ってたまに意思があるんじゃないかって思う時がるんだよね。


「え?え?剣!?どこから!?」

「行くよ!剣技『月光閃げっこうせん』!はぁっ!!」

「きゃっ!?ええ〜!?な、なんです・・・これ・・・こんな・・・」


 僕は剣を振り下ろすと、正面に閃光が放たれ、一直線に建物を両断した。


 建物内からは阿鼻叫喚の声だ。

 

「・・・何人か、やばいのぅ。リリィ。口惜しいが、奴らが死なぬようにだけしてくれぬか?シュンはかなり頭に血が昇っておるようだ。その辺りの意識が抜けておる。」

「そのようですね・・・悪人には使いたくありませんが・・・仕方がありませんね。清光結界『聖母のヴェール』」

「また・・・光の膜・・・?」

「ああ、トドロキさん、気にしないで?それよりも、行動しよう。」

「リリィ!轟さん!早く行こう!周防さんが心配だ!」

「はい。」

「え・・・ええ。」



side美嘉


「これで万が一こいつらが死んじゃっても、大丈夫だね!確か、この結界内であれば、結界が破壊されるか解かなければ魂は残って、身体さえ元に戻せば生き返る事が出来るんだっけ?」 

「その通りだクォン。だが、なるべく殺すなよ?リリィの負担は減らしたい。さっきのシュンのでは、たまたま誰も死ななかったが・・・重傷者は多数だからな。」


 クォンとラピスも走り出したな。

 さて、


「ジェミニ?裏手は頼むぞ?・・・おいおい、何やら、不穏な表情をしておるのぅ。」

「ええ・・・今回は、久しぶりに、血の力を使おうと思ってるのよ。・・・流石に、あの子に情が湧いちゃっててね・・・私も頭に来てるのよ。まぁ、そういうあなたもみたいだけど。」

「・・・まぁな。さて、始めようか。」


 ジェミニが転移で裏口側に移動した。

 

「な、なんなんだてめぇら・・・」

「爆弾か?ガキの癖にめちゃくちゃしやがる・・・それに、もう一人はどこいったんだ?・・・まぁ、でも、これでてめぇの人生は終わりだな?なかなかいい女だ・・・もう、俗世に戻れると思うなよ?てめぇは一生飼い殺しだぜ?」


 クズどもが、舌なめずりをしながら近寄ってくる。

 おお、おお、わらわらとまぁ・・・


 ・・・く。

 ・・・くく。

 ・・・くくく。

 ・・・クククククク。


「なんだ?気でも触れたか?まぁ、良い。身体も見た目も極上だし、穴があいてりゃそれで・・・」


 愚かな。


「『絶望の黄昏アルフェミニカ』」


 妾の身体を起点に黒い闇があふれる。

 

「な、なんだ!?」

「毒ガス!?」

「・・・空が・・・赤く・・・なんだこれ・・・」


 空が赤く染まり、庭に生えていた草木は枯れ落ちる。

 池の水は黒く染まり、水の中の生き物は生命活動を止める。


「・・・さて、なんだったかのう?・・・穴があいていれば、だったか?こうか?」

「消えっ・・・へ?・・・ぶへっ・・・」


 一瞬で目の前の男の前に移動し、手刀で胸を串刺しにする。

 突き刺した以上に大きな穴があいた。


「おおっと。いかんいかん。勢い余ってしまったわ。」

 

 男を投げ捨てる。


「お、おい!?」

「こ、こいつなんなんだ!?撃て!撃てぇ!!」

「無粋な・・・それ、返すぞ?」


 妾は念動力で銃弾を止め、そのまま跳ね返す。


「ぎゃあああああ!?」

「げっ・・・」

「痛え!?腕がぁ!?なんで銃弾が跳ね返って・・・」

「銃が効かない!?バケモンだ!やってられっか!!」


 踵を返した男を発見。

 一瞬で男の前に移動する。 


「・・・は?」

「知らぬのか?有名なのだろう?『魔王からは逃げられない』」


 男の頭を鷲掴みにし、そのまま握り潰す。

 鮮血が妾の顔を濡らした。


「ひぃぃぃぃ!?」

「た、助けてくれ!!」

「ほれ、いいモノをやろう。なぁに、タダで良い。」


 妾は、頭を握りつぶした男の身体を逃げている男たちに投げつけた。

 

「ぐへっ・・・ひぃぃぃ!?」

「おごふっ・・・死・・・死んで・・・」

「いたい・・・痛い・・・何も・・・見えない・・・たす・・・けて・・・くれ・・・」

「ひぃぃぃぃぃ!?喋ってるぅぅぅぅ!?なんでだ!?口より上が無いのに!?」

「たじげて〜!化け物だ〜!?」

「ほれ、その辺にもおるだろう?助けてやったらどうだ?」


 妾は、遠巻きにしているクズどもを、重力魔法で引き寄せる。


「か、身体が・・・勝手に引っ張られる!誰か!誰かぁ!!」

「いやだ〜!死にたくない!!死にたくねぇ〜!!」

「ほぅれ。よく見よ?生きておろう?」 


 クズどもが固まったところに、最初に胸を貫いた男を浮かび上がらせる。


「・・・俺、胸が・・・なんで・・・生きて・・・痛い、痛い・・・誰か・・・」

「「「「「「「「「「「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」」」」」」」」」」」」」


 くくく。

 ここは妾の固有世界。

 リリィの手を煩わせずとも、妾の固有の力で生き死には自由に出来る。

 さて、発狂するまで、つきおうて貰うぞ?

 いや、発狂させるのも生ぬるいか。


 妾の身体を黒い魔力が覆いローブとなる。

 そして・・・


「あ、あいつ・・・悪魔だ・・・角が・・・生えて・・・」


 側頭部からは、大きなねじれた角が二本。


「悪魔では無い。妾は魔王、魔王アルフェミニカ。貴様らに絶望を与えしモノだ。」


 妾は、クズどもを見て微笑む。

 こんな簡単には、終わらせんよ。

 絶望の黄昏アルフェミニカ内は外と時間の流れが違うからな。

 こやつらをかわいがってから合流するとしよう。


 せいぜい、絶望するがよい、クズども。

 


sideジェミニ


「・・・なんだか、でけぇ音がしたと思ったら、こんな色っぽい女が来るなんてなぁ。なぁ、ねーちゃんいくらだ?」


 私の目の前で、下卑た奴らがニヤつきながらそう言ってきたわ。

 自分が、これからどんな目に遭うのかも知らずに。


「あら?私は高いわよ?」

「そっかそっか!だがなぁ?ここに来たって事は、もう金は必要ねぇんだなぁこれが。わかるか、ねーちゃん?」

「「「「「ぎゃははははは!」」」」」

「・・・まぁ、確かにいらないわね。」

「だろ?」

「だって、もう貰ってるし。」

「へ?」

「よく御覧なさいな。自分の身体がどうなっているのかを。」

「は?・・・うわあぁぁぁぁ!?俺の腕ぇ・・・!?」


 目の前には、腕が切り落とされた男。

 

「な、なんだ!?なんでこんな・・・」

「次は、あなた。足を貰うわね?」

「何を言って・・・っ!?あ、足が・・・足がぁ!?」

「次は・・・」

「や、やめろ!撃て!殺せぇ!!」


 男達から銃弾が放たれる。

 私の身体を銃弾がえぐり取り、頭にも一発当たる。


「・・・な、なんだったんだこの女・・・」

「それよりも、早く手当と死体の処理を・・・」

「あら?もうおしまい?」


 私は、立ち上がる。

 頭に穴をあけたまま。


「ひ、ひぃぃぃ!?なんだこいつ!?」

「バケモンだ!?」

「酷いわね・・・こんな風にしたのはあなた達なのに・・・」

「殺せ!殺せぇ!」


 さらに放たれる銃弾。

 私の足と腕を吹き飛ばした。


「・・・はぁ、はぁ・・・流石に、死んだだろ・・・」

「あ〜あ。本当に酷いわね・・・身体が増えちゃったじゃないの。」

「嘘・・・だろ・・・」


 ちぎれた手足から、また私がかたどられる。

 最初呆然としていた男達は、すぐにハッとなり、一斉に逃げ出そうとした。

 でも、


「逃さないわよ?」

「うわぁ!?地面から手がぁ!?」

「俺の足を掴んで・・・離せ!離せぇ!!」

「近寄るな!近寄るなぁ!?ぎゃあああああ・・・ぁぁぁ・・・」


 私をかたどったモノに、首を締められ、そのまま手から生気を吸い取られてしわくちゃになる。


 そう、私は魔族。

 種族名は、夢魔・・・つまり、サキュバスなのだ。


 これは、彼らの夢の中。

 転移した直後に、全員を眠らせ悪夢を見せている。

 私は、この力が嫌いだ。

 シュンくん以外に媚を売りたく無いし、触れたくも無い。

 ただ人を害する力などいらない。


 だけど、殺さずに、残酷にと考えた時、これが一番最適だと思ったの。

 夢だから、現実世界では一瞬だしね。


 夢の中で吸い取った生気は、死ぬギリギリのところよ。

 

 さて、もう動くものはいないわね。

 シュンくんたちに合流しようっと。



sideクォン


「よっわぁ・・・よわすぎぃ・・・だっさぁ・・・」

「こ、このガキ・・・」

「バケモンめ・・・」

「え〜?自分達が弱いのを、アタシのせいにしないでくれる〜?ってそれで隠れてるつもり?ほいっと。」

「ぶへっ!?」


 アタシは、建物に突入して、壁を突き破りながら左周りで敵を殲滅中。

 逆側はラピに任せてるんだ。


「刃物をものともしねぇ!チャカも躱される!不意打ちも通じねぇ!こんなバケモンどうすりゃいいんだ!?」

「逃げろ!逃げるしかねぇ・・・って!?」

「逃がすわけないでしょー?」

「ごふっ・・・」


 さ〜ってどんどん行くよ〜?

 早く全滅させて、スオウちゃんを助けないとねぇ。

 ・・・外から、すっごくミカの妖気とジェミニの魔力を感じるし、アタシも負けてらんないなぁ。


 あ!みっけ!

 ん〜?距離があるなぁ。

 よし。


「『遠当て』」

「・・・うごっ!?・・・な・・・んで・・・?」


 にしても、弱いなぁ・・・

 トドロキちゃんってやっぱ強かったんだね。

 まだまだ強くなれそうだし、また教えてあ〜げよっと!


sideラピス


「ふっ!はぁっ!」

「ひぃ!?こ、こいつ躊躇がねぇ!?」

「当たり前だろう?何故、悪人を斬るのに躊躇がいるんだ?」


 こいつらは、バカだな。

 なぜ、そんなものを期待するのだ?

 ヤクザとは、戦闘集団では無いのか?


「くそっ!どけ!」

「おお!頼むぜ!『人斬り』」

「任せろ!今まで何人もこのポン刀で殺してるんだ!こんな女くらい・・・」

「・・・はぁ。さっさと来い。時間の無駄だ。」

「・・・っ!てめぇ!死に晒せ!!」


 ボクは、剣を横薙ぎにする。

 その人斬りとか言うヤツの刀の、上から20センチ位の所から斬り飛ばした。


「・・・は?」

「ふん。」


 再度振るう。

 今度は、更に下20センチくらいの所。


「ちょ・・・」

「ふっ」


 次は、柄の上。

 すでに、刀身は残っていない。


「嘘・・・だ・・・」

「さて、もう良いか?貴様に、腕はいらんな。魔剣『クーペー』」


 アイテムボックスから魔剣を取り出す。

 この魔剣にある能力がある。


「どこから・・・剣を・・・?」

「ふっ!」

「ぎゃああああああ!?腕が・・・ってある?」


 ボクは、一息で『人斬り』と呼ばれた男の両腕を斬った。

 しかし、腕は切り飛ばされていない。

 なぜなら・・・


「ボクの趣味は剣を集める事でな。この魔剣の能力は、『遮断』さ。今斬った貴様の腕と貴様の身体を『遮断』した。もう、どんな治療を受けても、貴様の腕は動かん。」

「嘘だ!そんなものあるわけ・・・動かねぇ!?腕が!俺の腕がぁ!?」

「邪魔だ。寝ていろ。「ぐへっ!?」・・・さて、続きと行こう。なんなら、首と身体を『遮断』してやろうかな。貴様らには無用の長物だろう?」

「「「「「「ひぃぃぃぃぃぃ!?」」」」」」


 さっさと終わらせよう。

 ミカも、ジェミニもめちゃくちゃやってそうだし、クォンの方からも轟音が鳴り響いているしな。

 さっさと終わらせないと、良いところに間に合わなそうだし。

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