第62話 混乱させてしまいました

side美咲


 ・・・ここは?

 私は・・・瀬尾さんにフラれて、泣いて・・・


「・・・目が覚めたようだな。」

「むぐっ!?む!?」


 声が出ない?

 何かで口を防がれている!?


「おおっとそれじゃ喋れねぇか。おい、外してやれ。」


 目の前にいる強面の男の指示で、私の近くにいた男が、私の口を覆っていた布を外しました。


「・・・何が目的ですか?」

「お?これはなかなかに冷静なお嬢さんだ。流石は『周防』なだけはある。」

「・・・それが分かっていて、このような事をして、ただで済むと思っているのですか?」


 私は男を睨みつけます。

 どうやら、私は誘拐されたようですね。

 

「くくく・・・ああ、思っているとも。何せ、『周防』は何も言えなくなるのだからな。」

「・・・?何を言って・・・」

「はははは!流石の周防も儂らのような下賤な人種の考えまでは思い至らないようだな?なぁ?次期当主様よ?お前さんが今からどんな目に遭うか分かるか?」


 ・・・男の言葉に少し考える。

 金銭目的では無い?

 となると後は・・・『周防』を陥れる事?

 もしくは・・・復讐・・・


 何せ、『周防』は権力者の家だ。

 敵も多い。

 

「・・・私を人質にしても、『周防』は揺るぎませんよ?」

「・・・くっくっく。そうだろうな。そうだろうよ。だが、だがな?それが周防の次期当主様が、薬を使ってあられもない姿で複数の男の前で喘いでいるようなものだったらどうだ?」

「!?」


 ・・・そ、それは・・・

 

「今回の依頼人はそれが目的らしいぜ?それも、あんたを指名で、だ。どうやら、お前さんはかなり恨みを買っているようだな?」


 なんですって?

 恨み・・・私は人に恨まれるような事は・・・

 それよりも、家に迷惑をかけるくらいであれば、自死を・・・


「ああ、最初に言っておくが、自殺はおすすめせんぞ。その縛られた手足で出来るのなんざ、舌を噛み切るくらいだろうが、あれは一瞬では死ね無い。儂らは、無理やりお前さんを治療する。ただ、痛い思いをするだけさ。」

「・・・やってみなければ、わからないでしょう?」


 ・・・まずいわ。

 時間さえあれば、それも出来るでしょうけど、おそらくそんな時間は与えられない。

 

「それに・・・もう、手遅れなんだよ。」

「何を言って・・・ドクンッ!・・・えっ何これ・・・」


 男はニヤッと嗤った。


「あのな?もう、オブラートで厚めに包んだ薬をあんたの胃袋には入れてある。どうだ?効いてきたか?」


 身体が熱い!

 何!?なにこれ!?

 頭に血が昇る!?


「・・・はぁ・・・はぁ・・・ゲスめ!」

「良いねぇ?だが、どれだけ持つかな?その薬の依存度はかなりのものだ。もう、離れられないなぁ?くくく・・・」


 ああ・・・熱い・・・熱い!

 こんな・・・こんなことになるなんて・・・ようやく・・・ようやく恋を知ったのに・・・


 身体の熱が脳を融かす。

 思考がだんだんと定まらなくなってくる。

 最後の抵抗か、涙が出てきた・・・


 もう、戻れないの?

 あの、日常に?


 ・・・お父様・・・ごめんなさい・・・お母様・・・ごめんなさい・・・美玲・・・美嘉さん・・・久遠さん・・・リリィさん・・・ラピスさん・・・ジェミニさん・・・


 頭が・・・真っ白に・・・

 

 



 瀬尾・・・さ・・・ん




 ドゴォォォォォォォ・・・ン


「な、なんだ!?何が・・・」


 薄っすらと、男達が何かを叫んでいるのが聞こえる・・・

 辛うじて残っている意識でそちらを向く・・・


「周防さん!助けに来たよ!!」


 ・・・ああ・・・もう、幻覚が見えてきたのね・・・でも、瀬尾さんの幻覚なら・・・


「お嬢様!」


 美玲まで・・・


「!?これ、正常じゃない!?リリィ!」

「はい!神聖魔法『清浄なる雫』!!これで身体を蝕む何かは浄化された筈です!スオウさん!大丈夫ですか!?」


 ・・・え?

 頭がはっきりと・・・身体の熱も、視界も定まって・・・え!?瀬尾さん!?美玲!?リリィさんも!?


「な、なんだてめぇら!死ね!!」

「あぶっ・・・え?」


 男達が、瀬尾さん達に銃を向け発砲した。

 とっさに叫ぼうとして・・・何、これ・・・?



「そんなものは、効かないよ。」


 瀬尾さんが手をかざすと、光の壁のようなものが現れ、銃弾を止めていた。

 

「・・・な、ん・・・」


 唖然としている男たち。

 そんな中に、新たな声が聞こえたの。


「お〜お〜・・・派手にやっておるのぉ?ふむ?周防さん、無事であったか。」


 美嘉さん?なんだか話し方がいつもと違う・・・?


「お?シューくんえらーい!スオウちゃん、もうちょっと待っててね〜?あと、こいつらだけだから。」


 久遠さん?


「良かったわ。間に合ったのね。」


 ジェミニさん?


「ゴミ掃除もあと少しか。ああ、スオウさん。もう、怖くないからね。」


 ラピスさんまで・・・というか、それって・・・剣?


「お嬢様・・・瀬尾様達は・・・圧倒的でした・・・私は今でもこれが現実か疑っていますが・・・もう心配する必要はありません。」


 ホッとしたのか、かなり疲れた顔をしている美玲。

 一体、何が・・・


****************

ここに至るまで何があったか、この後どうなるのかは次話以降にあります。

美咲ちゃんが助かりました報告だけ一足先に(笑)

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