第64話 責任を取らせました
さっきまでの轟音は止み、今は静まり返っている。
まぁ、みんなと合流したからね。
「さて、残るはあなた達だけだよ?」
「は?何を言って・・・」
「ここにおる者以外は、すでに排除した。後は貴様らだけだ。」
「・・・バカな事を!貴様ら!儂を誰だと思っとるんだ!家族共々追い込んで・・・」
「『黙れ』」
「・・・っ!・・・!?」
美嘉が魔眼で話せなくする。
いきなり口が開かなくなって狼狽している偉そうな男の人。
にしても、まだ現実が見えていないのか。
・・・そっか。
信じたくないなら、信じるようにさせてあげれば良いか。
「剣技」
僕は剣を構える。
「!?待て!シュン!お主何を・・・」
「信じたくないらしいから信じさせるんだよ?」
「待っ・・・」
美嘉がなんでか焦ってる。
でも、こんな奴らの家なんて、どうなってもいいじゃないか。
「吹き飛べ!『
「リリィ!ジェミニ!結界!」
「はいっ!」「ええ!」
僕は剣を上に向かって振るう。
美嘉が何かを叫んでる。
「きゃあ!?」
「くっ!?」
「・・・っ!?」
衝撃波が上に放たれる。
天井を吹き飛ばし、空が見えた。
すり鉢状になって、周囲を見渡せる。
これで、信じるしかなくなるよね。
「阿呆!」
「いたっ!?」
いきなり美嘉に頭を叩かれた!?
魔王モードだからすっごい痛い!!
「何するのさ!」
「何するのさ、じゃないわ!いくら周防さんの事でキレていてもキレすぎだ!!見よ!リリィとジェミニと妾で結界を張らなねば、リリィが張った清光結界ごと吹き飛ばしておったのだぞ!?」
「あ・・・」
僕は真っ青になる。
よくよく考えたら、何も考えず、ここまで来ちゃったけど・・・もしかして、何人か殺しちゃった?
「一応、殺してはおらん。トラウマは最大級に与えたがな。まぁ、腕の数本や足の数本が切り飛ばされたり、すり潰された者はおるだろうが。」
・・・いや、数本無くなったら、もう死んでるも同然じゃ・・・って僕がいう資格は無いか。
「ごめん。ちょっと頭に血が上りすぎちゃった。・・・言い訳になるけど、ここまで頭に来たのは初めてで・・・」
「・・・お主が周防さんを好いておるのはわかる。妾たちも同じ気持ちだ。なればこそ、激怒したのだからな。だが、それでも、お主がそれでどうする?勇者の称号が泣くぞ?」
「あ・・・はは・・・ここに来る前に、攫われたっての聞いた段階で、勇者じゃなくても良いやって・・・ゴメンナサイ。」
反省しなきゃ。
「あの・・・瀬尾さん・・・?」
「あ、その・・・大丈夫だった?」
「ええ、その・・・はい・・・ですが・・・」
「あ、ちょっと待ってスオウさん?色々聞きたいでしょうけど、その前に終わらせましょう?今回の件を。」
「ジェミニさん・・・はい。」
僕達は、親玉を見る。
親玉は、ようやく僕達が普通じゃない事に気が付き、冷や汗を流して固まっていた。
「『喋って良い。』」
「ぷはっ!?はー!はー!」
「さて、素直に話せ。全てを、な?」
「あ・・・あんた達は・・・一体・・・」
「世の中には、知らなくて良い事もあるのだ・・・それとも、知りたいか?貴様の命と引き換えに、な。」
「いや!いい!わかった!何も聞かない!」
顔面蒼白でそう叫ぶ親玉さん。
「では、話して貰おうか。」
「そ、それは・・・」
親玉さんは、渋い顔をした。
「ふむ・・・別に話したくないなら、それでも良い。で、あれば貴様の背後にいる者共々消えて貰うだけだ。人知れず、強制的に、な。妾は戦争は得意だしな。もっとも、我々と戦争したいのであれば、いくらでも継続してやろう。貴様らがひとり残らず消え失せるまでな。安心せよ。塵も残さぬゆえ、悲しむ者もおらぬだろうよ。」
美嘉が、威圧しながらそう言うと、親玉さんはガタガタと震えながら、少し不思議そうな顔をして、
「け、継続中?」
と言ったんだ。
「ん?すでに、交戦中ではないか。今はサービスで、命までは取っておらぬがな。しかし、続けるのであれば・・・そうさの、貴様が考える100倍は恐怖にまみれた死に方をプレゼントしよう。一歩手前の奴らは、上に出ればそこら中に転がっとるぞ?貴様も仲間入りするかの?」
「待て!いや!待って下さい!!話します!話しますから!」
「おや?別に妾はどちらでも良いぞ?たいした手間でも無いからのぅ。」
「いえ!話させて下さい!!お願いします!!」
「う〜む・・・仕方がないのぅ・・・話したければ話せ。但し、虚言は許さぬ。」
・・・流石。
この手の恫喝や脅迫はお手のものだね。
「・・・今回、『周防』の娘さんの誘拐と、その・・・脅迫の為の措置を依頼したのは・・・今日のパーティであんた達と揉めた男の会社、というか・・・その男だ。」
・・・ああ!
あの人!?
「あの男とその親は、元々うちとかなり密接な関係でな?今までにも、同じ様な事をして勢力を伸ばしてきたんだ。で、今回恥をかかされたって言って、あんたの家を出てすぐに緊急の依頼の電話をしてきたのだ。もともと、儂らに今日実行するつもりは無かった。様子見に行った時、お嬢様が一人で行動してるのにたまたま出くわしたらしく・・・元軍人で構成された実行部隊が誘拐可能と連絡をしてきたから・・・それで・・・ひぃっ!?」
その言葉を聞き、あの人のあまりの身勝手さに腹が立って仕方がない!
それに、聴き逃がせないな・・・今までにも、だって・・・?
本当に・・・本当に!!
「こら!シュンくん!怒るのもわかるけど、ちょっとは冷静になりなさいな。」
「むぎゅ!?」
頭をがしっと掴まれて、顔からジェミニの胸の谷間に押し込まれる。
ジェミニの香りに包まれて、頭がぽーっとなる。
「そうだぞシュン。スオウさんの事も、今までの事も、許せることでは無いが、今ここで暴れまわっては、君がこの世界の魔王になってしまうだろう?ボクはそんなのは嫌だ。」
むぎゅ(こくん)
「シューくんは勇者なんだから駄目だよ?そんな事したら、あっちの神様が悲しんじゃうでしょ?」
むぎゅ(こくん)
「・・・というか、瀬尾さん?」
むぎゅ?
「離れましょう・・・ね!!」
むぎゃ!?
「ぷはっ!ご、ごめんなさい周防さん!」
「い、いえ・・・良いですが・・・私はフラれてますし・・・こちらこそ、邪魔してしまいすみません・・・」
「あ、あの・・・その・・・邪魔なんかじゃ・・・」
しまった!
無神経だった!!
「はいはい、それは後で!それよりも・・・ねぇ?」
「・・・なん・・・でしょうか?」
美嘉が、親玉さんにそう話しかける。
すでに魔王モードは解けている。
いつもの美嘉の話し方だ。
「あんたに選択肢をあげる。ここで、全員消えるか・・・自分たちとその男のつながりと、今回の件を警察に暴露・・・自首して、あのバカとその会社を巻き込んで社会的に殺す事で私達に許しを乞うか、どっちが良い?」
「・・・」
「もし、前者を選ぶなら、徹底的にやってあげる。さっきも言ったけど、塵も残さない。でも、後者を選ぶのならば・・・あんたの所の奴らの傷くらいなら治してやってもいい。まぁ、心までは治せないけど、さ?」
「・・・どこまで、すれば良い?」
「勿論、そのクズを破滅に追いやるレベルで、よ。どうせ、あんた達みたいなのは、取引の記録なんかを、切り捨てられないように取ってるんでしょ?」
「・・・ああ。ある。」
「なら、世間的に二度と日の目が見えないくらいにしてやりなさい。もし抵抗しようとしたら・・・あんたの責任で潰しなさい。出来るでしょ?それくらい。手段を選ぶ必要は無いわ。あのクズは別に退場したって誰も困らないのだから。」
凄く冷たい目で親玉を見る美嘉。
親玉さんも、見た目は綺麗な美嘉の瞳の奥に、人ならざるものを見たのか、ぶるりと震えた後、
「・・・わかった。奴を潰そう。必ず約束は守る。」
と言った。
「・・・そう。周防さんも、それで良いかしら?」
最後に、周防さんを振り向いてそう言う美嘉。
「勿論です。元々、助けて貰った側ですし、あなたの案に異論はありません。」
周防さんは、ノータイムでそう答えた。
多分、周防さんも相当怒ってるんだろうね。
「じゃ、庭に全員を集めなさい?」
美嘉の言葉で、全員で庭に出る。
・・・うわぁ。
阿鼻叫喚だ。
目の前の惨状に、周防さんも轟さんも目を丸くして驚き、すぐに顔を青くして目をそらしてた。
それでも吐いたり、叫んだりしないのは、やはり二人が気丈だからなんだろうな。
徹底的にやったんだね・・・うめき声や血まみれで倒れている人、四肢のいずれかが無い人・・・頭半分無い人や、胸に大穴空いてる人もいる。よく死んでない・・・って、リリィが助けてたんだっけ。
完全に、そんなの頭に無かったなぁ。
「・・・思うに、普段優しい人がキレると怖いってのは、シュンの為にある言葉だと思うんだよね。」
「ええ、そうね。まさかの大激怒だったわね。」
「シューくんにこんな一面があるなんて知らなかったな〜。」
「まぁ、個人的には、男らしくて良いと思うぞ?」
「男らしい・・・で良いのでしょうかね?後先考えていなかっただけなような・・・」
うう・・・耳が痛いです・・・でも、僕こんな風に倒してなかったような気がするんだけど・・・
「瀬尾様が怒り狂っていたのは、お嬢様の為ですよ。勿論、桜咲様方も、ですが。」
「・・・そう・・・皆さんが・・・」
周防さんが轟さんからそう聞いて、少しだけ嬉しそうにしているみたい。
そうこうしている間に、全員が集められた。
みんな、恐怖に彩られた表情をしているね。
「さて・・・全員傾注せよ。今から、ここにおる者の外傷は治してやる。ただし!今後妾達の邪魔をしたり、立ちふさがった場合は・・・命は無いと思え。理解したら首肯せよ。」
その場にいる全員・・・多分、200人を越える人が、一斉に頷く。
がたがたと震えが止まらない人もいるみたいだ。
「では、まずは・・・リリィ?」
「はい。神聖魔法『聖母の息吹』」
リリィから全員に光が降り注ぐ。
「おお・・・腕が!?」
「足が生えてきた!?」
「目が・・・目が見える!」
ざわざわと騒ぎ始める人達。
親玉さんも、周防さんも、轟さんもぽかんと口をあいている。
「静かにせよ!・・・さて、貴様ら。この力が外に漏れたら、面倒な事になるのは、理解出来るか?というわけで、貴様らには呪いをかける。」
そう言い放つ美嘉に、またガタガタと震えだす人達。
「なに、そんな大層なものではない。妾たちに関する事を一切話したり、伝えたりする事をできなくするだけだ。それを考えるだけで・・・今日の事を、その恐怖を思い出すようにする。」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
更に震えや、うめき声が大きくなる。
どれだけトラウマを与えたんだか・・・
「そして、万が一、それを乗り越え、妾達の事をいざ伝えよう!となった時は・・・こうなる。」
美嘉は、指ぱちんと鳴らす。
すると、庭にあった大きな枯れ木が一人でに浮かび上がり・・・
バリィッッッッッッ!!!!!
真っ二つに裂かれた。
「「「「「「「「「「「「「「「「「・・・」」」」」」」」」」」」」」」」」
静まり返る庭。
「分かったか?できないと思う者はおるか?おるのであれば・・・
・・・どっちがヤクザ?
ニヤッと嗤ってそういう美嘉は、正しく悪の親玉、魔王だった。
何せ、悪者業を
こうして、美嘉はそこにいる全員に呪いをかけ、そして、最後に親玉に自分の携帯番号を教えた。
なんでかなと思ってたら、答えはすぐに分かった。
「全てが終わったら連絡せよ。ああ、そうそう、もし、妾たちに関する何かか、妾達を害そうとする誰かから話を持ちかけられたら、報告せよ。良いな?まぁ、黙っておって妾達に反撃しても良いが・・・」
「御冗談を。もう、骨身に染みました・・・徹底して、あなた方には手を出さないよう通達します。儂らは・・・あなた方に忠誠を誓います。」
ついに、魔王がこの国のトップヤクザを手下にしてしまった・・・
その後は、ボロボロの屋敷を後にし、周防さんの家に戻って今回の騒動は一段落・・・
「・・・皆様、よろしいでしょうか?」
しないよね・・・思い詰めた顔でそう話してきた周防さんと、その横にいる轟さん。
・・・全部話そうかな、ここまで来たら、さ。
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