第61話 不測の事態に激怒しました

side美咲


 フラれた!

 フラれてしまった!

 分かっていた!

 彼の瞳に、女性としての私が映っていないのなんて!

 それに、桜咲さん達の事もある。


 だから自分で幕を引こうとしたの。


 でも、こんなに辛いなんて!


 瀬尾さんの辛そうな顔を思い出す。

 ごめんなさい瀬尾さん・・・ごめんなさい・・・あなたにまで辛い思いをさせて・・・


「お嬢様!お待ちください!」

「来ないで!お願い!一人にして!!」

「・・・お嬢様・・・」


 美玲が私の後を追って来た。

 だけど、私は一人になりたかった。

 こんな無様な姿を、いくら美玲でも見せたくありませんでした。


 美玲が立ち止まって手を伸ばしている。


 ごめんなさい美玲・・・でも、少しだけ一人でいさせて?

 思いっきり泣いたら、また元の自分に戻るから・・・ 



 走り続けて、気がついたら、庭の片隅まで来ていました。

 ここならば、誰も来ないでしょう。

 

「うう・・・瀬尾さん・・・瀬尾さん・・・」


 ・・・恋愛というものが、ここまで辛いなんて思いませんでした。

 

 ですが、後悔はしていません。

 まだ、前向きにはなれませんが、それでも、瀬尾さんを好きだった事だけは、絶対に忘れずに抱えて行こう。


 きっともっと私を成長させるから。


 ・・・桜咲さん、リリィさん、ラピスさん、久遠さん、ジェミニさん、瀬尾さんをお願いします。

 どうか、幸せに・・・して・・・あげて?


 涙が止まらない。

 口元をハンカチで覆い、必死に嗚咽を堪える。


 瀬尾さん・・・好き・・・大好き・・・辛い・・・辛いよぉ・・・






 ガサッ





「!?誰!?」


 木陰から物音がした。

 誰かいるの?警備の人かしら?


 ビリビリッ!!


 一瞬の閃光。

 身体への痛みと、衝撃。

 そして暗転していく意識。


 な・・・にが・・・?


「・・・対象、確保。すぐに離脱する。」


 男の声。

 それが、私が最後に聞こえた言葉だった。









side瞬


「周防さん、僕は、周防さんの事は嫌いじゃない。それどころか、好きだと思う。でも、それは友人としてなんだ。僕にとって、異性のパートナーというのは、美嘉やジェミニ達の事なんだ。だから・・・あなたとは結婚できません・・・ごめんなさい。」

「正直、ですね・・・分かって・・・いました・・・よ?・・・お答え頂き・・・ありがと・・・う・・・ござい・・・ます・・・ぐすっ」


 そこまで言った周防さんが、泣きながら室内に駆け戻る。

 僕はどうしようもできなくて、立ち尽くす。


 視界が滲む。

 周防さん・・・ごめん。

 ごめんね?

 でも、僕はみんなと共に生きるって決めたんだ。

 だから、君の為だけには生きられない。


 どれくらいそうしていたんだろう。

 ベランダから戻ると、みんなが近寄って・・・抱きしめてくれた。

 ふと気がつくと結界が張ってある。

 

 周りに音が漏れないし、認識が阻害されるものだ。


「・・・シュン、頑張ったわね。」

「偉いわシュンくん・・・あなたも、スオウさんもとても頑張ったわ。」


 ・・・そっか。

 みんな知ってたんだね。


「シュン様。元気を出して、とは言いません。ですが、しっかりと受け止めてあげて下さい。彼女のあなたへの想いを。その高潔な精神を。決して忘れないように。」

「ああ、スオウさんは凄いよ。ボクは、彼女を尊敬する。」

「シューくん・・・辛かったね?よく頑張ったね?」


 しかし、僕は自嘲気味に呟いた。


「・・・辛かった、は、僕じゃなくて周防さんだ。凄かったのも周防さんだ。僕は・・・そんな彼女を傷つけて・・・ただ傷つけるだけで・・・こんな僕なんか、」

「シュン!」


 パァン!


 右頬に衝撃。

 目の前には手を振り抜いた美嘉。

 呆然として美嘉を見る。


「貴様!!周防さんの想いを!気持ちを!愚弄する気か!!あの者は分かっておったのだ!お主に想いを受け取って貰えない事を!それでも!けじめをつけると言っておった!それをただ傷つけただと!?ふざけるなぁ!!」


 鬼のよう形相の美嘉。

 そしてそれはみんなも同じだった。


「・・・ミカさんの言うとおりです。スオウさんは立派でした。そんな彼女をけなすのは、聖女の名において許しませんよ?たとえシュン様だとしても。」

「ああ、同じく、聖騎士として、今のシュンの発言は認められない。彼女は高潔な人だ。そんな彼女が想いを寄せたお前が、そんな情けない事を言うな!」

「シューくん!シューくんがそんな事でどうするのさ!シューくんが自分を卑下したら、その分シューくんを好きだって言ったスオウちゃんがおとしめられるんだよ!」

「っ!!」


 ・・・そうだ。

 確かに、そうだ。

 周防さんにも以前に同じ事を言われたじゃないか!

 情けない・・・でも、違う、そうじゃない!

 僕は・・・


「・・・みんなごめん。情けない事を言ったね。でも、みんなの言う通りだ。周防さんは真っ直ぐな素敵な人だ。そんな周防さんの想いを受け入れなかったのは僕の意思だ。なら・・・僕はその責任を取らなきゃ。絶対に、僕は幸せになるよ。みんなと一緒に。周防さんの想いに恥じないように!」

「・・・うん。それで良いんだよ?」


 美嘉達はようやく微笑んでくれた。

 そして、結界を解く。


 気がつけば、ほとんどの人がいなくなっていた。

 僕達も部屋に戻ろうかな・・・



「っ!ここにおられましたか!皆様・・・どうか・・・どうかお嬢様を!!」


 取り乱した様子で駆け込んできた轟さん。

 どうしたのかな?


「お嬢様が攫われました!」

「「「「「「!?」」」」」」


 周防さんが・・・攫われた?


「監視カメラが捉えたのは、お嬢様と思われる人を運ぶ男達だけで、どこに行ったかまではまだ調査中です!私が!私が悪いのです!お嬢様を一人にしてしまったから!!」

「轟さん!落ち着いて!!」


 僕は取り乱す轟さんの両肩を掴んで叫ぶ。

 はっとなった轟さんは、悔しげに口を引き絞った。


「ですが、このままではお嬢様は・・・筋違いな事を言っている事はわかっています。ですが!皆様ならもしかしてなんとか出来るのではと・・・そんな事を思ってしまって・・・そんな訳ないのに・・・すみません、取り乱しました・・・皆様は部屋に戻って・・・っ!?」


 落ち込んだ様子の轟さんの言葉が途中で止まる。

 何故なら、


「・・・轟さん。安心せよ。その願い、妾達が叶えようぞ。」

「ええ、許せないわね・・・あんな良い子を・・・」

「はい・・・わたくし達が認めた人を・・・」

「ああ、彼女のように尊敬出来る人を、かどわかしただと?・・・地獄を見せてやる。」

「・・・トドロキちゃん、アタシ達がなんとかするから大丈夫。だって・・・アタシ達、怒ってるから。」


 みんなが凄まじい怒気を発している。

 みんな、こんなに周防さんと仲良くなってたんだね。


「み、皆様・・・それに・・・瀬尾様・・・?」


 そして、それは僕も同じだ。


 ああ、駄目だ。

 こんなに頭に来たのは初めてかもしれない。

 あんなに良い人を・・・周防さんを・・・誘拐しただって?

 ひどい目に遭わせるの?

 自分達の欲望の為に悲しませるの?


 ・・・僕に勇気を持って、好きだって言ってくれた人を?

 そんな奴等に、周防さんは渡せない!


 ビシィッ!


「ひっ!?」


 轟さんの悲鳴が聞こえた。

 僕の身体から無意識に魔力が放出されたのか、床が放射状にひび割れる。




 絶対に、許さない。




「みんな・・・一秒でも早く、周防さんを助けよう。良いね?もう力を隠すとか関係ない。」

「ああ・・・妾もこれほど頭に来るとは思わなんだ。妾の名にかけて、そやつらには絶望して貰おうか・・・」

「そうね・・・私も、思う存分やらせて貰うわ。今日だけは、種族の通りになってあげる。」

「・・・ラピス、わかっていますね?スオウさんは必ず助けます。私達の存在にかけて。」

「・・・はい、聖騎士ラピス、聖女リリィのご意思の元、スオウさんを助け、悪を斬りましょう。」

「・・・アタシも、今回はちょっと許せないや・・・スオウちゃん、待っててね?今行くから。」


 ・・・今回は僕は勇者じゃなくてもいい。

 新生魔王軍の一員だ。

 

 後悔させるだけじゃ済まさないよ。


 周防さん、待っててね?

 今、行くから。


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