第60話 周防さんに気持ちを伝えられました

 パーティが進み、現在は各々自由な時間。

 

「皆さん、楽しんでいますか?」

「周防さん。うん楽しんでるよ。パーティに呼んでくれてありがとうね?それに、さっきも助けてくれたし。」

「いえ、あれはこちらの落ち度です。当然ですよ。」


 周防さんは、ホストとしてあちこちへの挨拶を済ませ、ようやく手が空いたようで、僕達のところに来たんだ。

 この後は、特に挨拶なんかもなくて、帰りたい人から帰れば良いんだってさ。


「それにしても・・・ようやく気が抜けますね・・・と言いたい所ですが・・・」

「え?何かあるの?」


 なんだろう?

 確かに、周防さんに張り詰めた表情が見えるね。

 何かあるのかな?


 そんな周防さんは、何故か美嘉達を見てる。


「・・・本当に、良いの?」

「・・・はい。これ以上は、私の矜持に関わるもので。」

「そう。だけど、あたし達としては、昨日の夜に言った通りよ。」

「・・・ありがとうございます。チャンスをくれて。」


 ?

 昨日?

 僕が自分の部屋に言った後、誰も来なかった事に、何か関係があるのかな?

 誰か忍び込んで来るかなとか思ってたんだけど誰も来なかったし・・・残念とか思ってないよ?

 

「瀬尾さん。少し、二人で夜風にあたりませんか?」

「え?・・・でも・・・」


 僕は、みんなを見る。

 いつもなら止めに入る筈、でも、


「行ってきたら?」

「そうね。」

「シュン様、信じておりますから。」

「ああ、シュン。きちんと話して来るんだ。」

「シューくんいってらっしゃ〜い。」


 今日は止めなかった。

 というか、口調とは裏腹に、みんなにも緊張感が漂ってる。

 本当に、なんなんだろ?


「・・・うん。じゃあ、行こっか?」

「はいっ!」


 僕達は、そのままベランダに出た。



「・・・夜風が、気持ちいいですね・・・それに、お月様もとても綺麗です。」

「うん。そうだね。晴れてて良かったよ。」

「はい・・・」


 周防さんと見る夜空は、とても綺麗だった。

 そして、そんな景色を見る周防さんも。


 でも、やっぱり周防さんには何か張り詰めたものを感じる。

 そんな時だった。


「・・・ふぅ。よし・・・」


 そんな呟きとともに、僕に向き直る周防さん。

 自然と、僕も周防さんに正対する。


「・・・瀬尾さん。私の話を聞いてくれますか?」

「うん、勿論。」


 真剣な表情で僕を見る周防さん。

 僕も真剣に聞こう。


「私は、周防財閥の次期当主として、様々な人間に会いました。優れている者、力を持つ者、天才と呼ばれる者、そして、見目が整った者。色々な人に出会う事で、私には一つある事が見えるようになりました。」


 周防さんはそう言って、視線を月に向けた。


「それは、その人の欲望です。今お話した、世間的には成功をしている人達の、その瞳の奥、身に纏う空気、どれだけ隠しても、私には分かってしまいます。そして、それは私が『人』に期待を抱かない要因になりました。」


 目を伏せる周防さん。

 その表情はとても悲しげだ。


「中には、美玲のように、その限りでは無い者は確かにいます。ですが・・・男女の仲として見た時、やはり、その欲望が透けて見えてしますのです。私を見ているようで、私を見ておらず、『周防』という家を見る者や、私の容姿を自分の物にしたいという者・・・先程の輩など、良い例だと思います。」


 ああ、ジェミニに声をかけた人か。

 確かに、そうかもね。

 でも、何を言いたいんだろ?


「そんな中、私はある出会いをしました。その方は、ただ通りがかっただけにも関わらず、何も求めず、連れ去られそうになっていた私を助けてくれた人。」


 ・・・僕の事、だよね。


「その方は、知れば知るほど私を虜にしました。とても優しく、自分を曲げず、それでいて、相手を思いやれる、そんなその方に、私は尊敬の念と・・・異性としての愛情を持ってしまったのです。」


 !?

 僕の顔は多分驚いた表情をしていたんだろうね。

 周防さんは、そんな僕を見て、ふんわりと微笑んだんだ。


「その様子では、気づいておられなかったのですね。ですが、それでこそ、あなたという人だと思います。下心無く、私に接してくれる・・・瀬尾さん、」


 周防さんの瞳に吸い込まれる。


「私は、あなたが好きです。短い期間でしたが、この愛情は減る事無く、より一層私の中で燃え盛り、もう、気持ちを我慢できなくなってしまいました。どうか、私と一緒に、人生を歩んで頂けませんか?」


 ・・・プロ・・・ポーズ?


「ご存知の通り、私は『周防』です。中途半端な事はできません。恋人、では無く婚約者となって欲しい。どうかお願い致します。」


 周防さんはじっと僕の目を見る。

 普通だったら、頭を下げてお願いするんだと思う。

 でも、周防さんは、違った。

 自信があるわけじゃないのは、その震える手が物語っている。

 それでも、周防さんは逃げずに、真っ直ぐにぶつかってきているんだ。


 ・・・逃げちゃいけない。

 僕も、真っ直ぐに。

 曲がりなりにも、勇者と呼ばれた者として!


「周防さん・・・」








side美嘉


 あたしは、少し離れた所で、ベランダの方を見てる。

 あそこで、今周防さんがシュンに告白している筈。

 結果は気になるけれど、でも、ここで邪魔しちゃいけない。

 

 何故なら、あの子にはそれだけの覚悟があったから。


 それは昨夜の事だったわ。




「・・・皆様、夜分にも関わらず、集まって頂きありがとうございます。」

「どしたの?何かあった?」


 あらかじめ、寝る前にリビングに集まるよう周防さんに言われていたので、シュン以外のみんなが来ている。

 なんというか・・・すっかり打ち解けてしまったわね。

 この子の真っ直ぐさは、どうもあたしが嫌えるものでは無かったみたいなのよね。

 それは、ジェミニ達も同じみたい。

 

「明日・・・私は瀬尾さんに告白しようと思います。」

「「「「「!?」」」」」


 ・・・そう来たか。

 でも・・・


「・・・良いの?正直に言って、勝ち目が無いわよ?」


 そう、ジェミニの言う通りだ。

 シュンは、やはりあたし達と周防さんを別に見ている。

 周防さんは異性の友達、そしてあたし達は、異性のパートナー。

 そこには、明確に差がある。


「・・・認めたくないのですが、分かってはいます。ですが・・・」


 周防さんは、悲しそうに目を伏せた。

 

「・・・気づいていらっしゃったと思いますが、はじめ私は、あなた方から瀬尾さんを奪おうと考えていました。その為に共に過ごしていました。ですが・・・」


 一筋の涙が、周防さんの目からこぼれる。


「あなた方と気のおけない関係を続けていく内に・・・一方的かもしれませんが、あなた方にも、友愛の念を覚えてしまいました・・・」

「「「「「・・・」」」」」


 それは、あたし達も同じ、ね。


「ですので、そんなあなた方から奪うという事に、抵抗を覚えるようになってしまいました。『周防』の者として情けない限りですが・・・瀬尾さんを狂おしい程好きな気持ちと、あなた方との友情・・・測りにかけたくはありません。」


 この子、本当に良い子ね。

 

「ですから!」


 強い眼差しで、瞳から溢れる涙を隠しもせずに周防さんは宣言したわ。


「明日、瀬尾さんに婚約を前提に告白します。そして、受け入れられなかったら・・・私はあなた達の前から姿を消します。勿論、瀬尾さんにも二度と会いません。それが、けじめですから・・・」

「「「「「!!」」」」」


 ・・・強いわね。

 でも、あたし達の求めるみんなでシュンを幸せにするという想いと、この子の自分がシュンと結婚するという想いでは違いすぎる・・・


 ままならないわね。

 人の心というものは。


 そこまでの覚悟なら、仕方がない。


「わかったわ。邪魔はしない。みんな、良いね?」

「ええ」「うん」「はい」「ああ」


 みんなも神妙にしている。

 だって、行く末は見えているから。





 そして、今、彼女は一世一代の勝負をしている。

 ・・・思えば、こちらの世界に来てから、初めてこちらの人を尊敬したかもしれない。

 ・・・友達に、なれたのになぁ・・・




 カチャッ!バタン!


 ベランダに通じる窓が開けられ、周防さんが飛び出して来て、そのまま外へ走っていく。

 周防さんは泣いていた。


「お嬢様!」


 轟さんも後を追って駆け出した。


 ベランダを見る。


 シュンが、辛そうな顔で俯いている。

 私の『眼』には距離は関係ない。


 その目は、涙で滲んでいた。






*****************

一応言っておきます。

私は、ハッピーエンドが大好きです。

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