第6章 お嬢様VS異世界組

第54話 波乱の新学期が始まりました

「・・・なぁ。」

「・・・ああ。」

「・・・ちょっと話しかけづらいわよね。」

「ええ・・・今までとちょっと理由は違うけれど。」


 遠巻きに、ひそひそと内緒話をしているクラスの人達。

 視線は、全て僕・・・の後ろにいる周防さん達に向けられているっぽいんだ。

 

 まぁ、気持ちはわからないでもないかな。

 先生のあの態度もそうだけど、明らかに上流階級な感じがするし。


 今は3時間目の放課中。

 

 だけど、周防さんはというと・・・


「美玲?こちらの書類の決済は通せません。再度担当部署に改善の計画を提出するように通達しなさい?」

「かしこまりました、お嬢様。」


 ・・・なんだか、仕事をしているらしい。

 凄いなぁ・・・


「・・・ふぅ。これで急ぎの仕事は終わりですね。休憩時間は・・・あら?後2分しかないのですか。瀬尾さんとお話しようと思っていましたのに・・・残念です。」


 なんだか、残念そうにつぶやく声を拾ってしまった。

 ・・・う〜ん・・・なんというか・・・僕とは次元の違う所で生きてる感じがする。


 僕には、とても真似できないや。


「あ、そういえば!瀬尾さん?」


 あ、呼ばれた。


「何かな周防さん?」

「次でお昼休みになるのでしょう?でしたら、一緒にお食事でもどうでしょうか?」

「・・・え?あ、ご飯?そうだねぇ・・・え〜っと・・・」


 僕はちらりと美嘉達を見る。


「「「「「・・・」」」」」


 無言で突き刺さる視線。

 何を言いたいかは、流石にわかる。


「あ、あの・・・僕はいつもみんなと一緒にご飯を食べていて・・・だから・・・」

「ああ!そうなのですか!でしたら、皆様もご一緒にどうでしょうか?」

「へ?え?そうなるの!?あ、で、でも・・・」


 周防さんには悪いけど、やんわり断ろうとしたら、明後日の方向に話が飛んじゃった!?

 

「転校初日で心細くって・・・」


 周防さんが、おどおどしながらそう言った。

 ・・・隣の轟さんは無言で無表情だ。

 でも、何か言いたげに僕を見ている。


 うう・・・ど、どうしよう?

 でも・・・


「・・・ねぇ。あのさ・・・」


 僕はみんなを見た。


「「「「「はぁ〜・・・」」」」」


 すると、みんなは、しかめっ面を隠しもしないで、ため息をついた。

 ごめんみんな。

 でも、ほっとけないよ・・・あんなに不安そうにされたら。


「・・・周防さん?あなた、本当にいい度胸だわ。」


 あれ!?美嘉が周防さんに喧嘩売ってる!?


「違うわよシュンくん?褒めてるのよ。」

「え!?」


 ジェミニの言葉に僕は、おそるおそる美嘉を見る。

 美嘉は、苦笑していた。


「シュン?この子はそんなにやわじゃないわよ。あなたもわかっているのでしょう?」


 何を?

 僕にわかるのは、周防さんは強い意思と自分を持っているって事位だよ。

 でも、不安に思うのは仕方がなくない?


「・・・うふふ。ええ、勿論ですとも。今のあなたの発言が、これ以上無いほどの褒め言葉という事も理解していますよ。」


 周防さんは面白そうに笑っている。

 え!?そうなの!?なんでそうなるの!?


「・・・シュン様。女性には女性の世界があるのですよ。」

「うん。シュンには理解できないだろうな。」

「そうだね〜。シューくんだからね〜。」


 ・・・僕だけわかんないのか。

 あ!?僕が男だから!?


「違うよシュン?シュンが鈍感だからだよ?」


 ・・・酷い。


 美嘉の言葉で、みんなはクスクスと笑った。

 その中に、周防さんもいたんだ。

 恥ずかしい・・・


 こうして、四時間目の授業を終え、昼放課。


 今日は周防さん達も一緒だから、流石にいつものようには食べないと思ってたんだけど・・・


「・・・#(ピキピキ)」

「「「「「にやっ」」」」」


 頬をひくひくさせている周防さんと、なんだか黒い笑みを見せているみんな。

 そして、僕はいつも通りの状況になってる。

 ちなみに、轟さんは無表情のままだ。


「・・・みなさん。淑女がはしたないですよ?もう少し距離をとった方が良いのではないかしら?」

「あら?あたし達は一般人ですので?平民ですので?お嬢様には難しい事もしちゃうのよ。こんな感じに。シュン?あ〜ん♡」

「へ?え?で、でも・・・」

「あ〜ん♡」

「す、周防さん達が見てるから・・・」

「・・・シュン?あ〜〜〜ん!」

【ここで食べなかったら、帰宅後に貴様を犯す!】


 なんか頭に聞こえてきた!?

 あ、念話か!

 美嘉!?なんでそんな事になるの!?


 って・・・本気だ。

 美嘉の目が本気の目をしてる。

 まるで、向こうで戦った時のような目だ・・・

 このままじゃヤバい!


「あ、あ〜ん・・・」

「・・・よしよし。」

「・・・#(ぎりぎり)」


 ご満悦の美嘉と、何故か引き攣って歯ぎしりしている周防さん。

 ・・・そんなに駄目だった?

 やっぱり、ハイソサエティな周防さんは、人前でこんな事をするのは、許せなかったのかな・・・


「はい次ね?シュンく〜ん♡あ〜ん♡」

「ジェミニ?あのね?」

【良いのかしらシュンくん?本当に、良いのかしら?】


 な、何が?


【このままだと・・・シュンくん、大変な事になっちゃうけど。】


 た、大変なことってなに?


【・・・よし、繋いだわ。みんな?シュンくんが『あ〜ん』しなかったらどうなるのか教えてあげて?】


 ジェミニが、クォンとリリィ、ラピスに目配せをする。

 みんなは少しだけ頷き、


【神様の啓示の元、シュン様の貞操を散らします。】

【聖騎士として、聖女の手助けをし、シュンが泣いてもやめない。】

【シューくん、子供作ろ?】


 な、何てことだ・・・

 みんな・・・完全に魔王に心を支配されている・・・


 愕然として美嘉を見る。

 美嘉は・・・やっぱり魔王だった。


【・・・ククク。シュン?お主の貞操はどれだけ守れるかのう?お主がどれだけ拒否しようと、新生魔王軍の総力をもって、お主に怠惰で淫靡な堕落を刻み込み、妾達の身体の虜にしてくれるわ!勇者よ!もはや貴様に仲間はおらぬ!はよう軍門に下れ!】


 ぐぎぎぎぎ!

 おのれ!魔王めぇ!

 僕の仲間をよくも!


「シュンく〜ん?早く〜?じゃないと・・・【ここで、いつも一緒に洗いっこしてるの言っちゃうかも〜】」

「!?あ、あ〜ん・・・」

「はい、よくできましたね?偉い偉い♡」

「・・・っ〜〜〜!!!」


 かなり嫉妬の視線には慣れてきたけど、流石にそれは暴露しないで欲しい!

 僕は、新生魔王軍の脅迫に屈し口をあけた。

 もう、完全に勇者失格だ・・・


 ご満悦のジェミニが僕の頭を撫で、対象的に悔しそうな周防さん。

 そして、やっぱり無表情の轟さん。


 ・・・教室内は、なんともいえない緊張感が漂ってる。

 いつもなら、嫉妬まみれの視線だらけなのに・・・なんで違うんだろう?


 僕にはやっぱりわかんないや。

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