閑話 転校前夜 side美咲

「さて・・・いよいよですね。」


 私は、明日を想像します。

 本日は夏休み最終日。

 いよいよ明日から瀬尾さんの学校に通うことになります。


 若干の緊張と高揚感。

 ふふ・・・この私がこのような気分になるとは。

 

 私は、『周防』の娘として、今まで敵と呼べる人はいませんでした。

 どの方も、私の顔色を伺う人ばかり。

 それに、能力的にも、とても私に匹敵するような方がいませんでした。

 もっとも、私もそれだけの努力をしてきたのですが。

 

 しかし、


「桜咲美嘉、異世久遠、異世ジェミニ、リリィ・グランファミリア、ラピス・グランファミリア・・・」


 彼女達は、私を上回っている可能性が高い。

 というよりも、少なくとも、物理では私は完全に負けているでしょう。

 そしておそらく、調査の結果と・・・実際相対した限り、桜咲美嘉と異世ジェミニは私よりも知恵者でしょうね。


 ・・・挑戦者という立場。

 『周防』の後継者たるこの私が。

 

 うふふ・・・なんと楽しいのでしょう!

 

 それでこそでしょう。

 そうで無くてはいけません。


 瀬尾さんは、そうして手に入れてこそ、です。


 しかし、一つ気になる事があります。

 これは、私が恋愛というものをしてこなかったから知らないだけでしょうか?

 それとも、彼女達が特別なのでしょうか?


「・・・複数でのお付き合いという事を、彼女たちは本心でどう考えているのでしょうか?」

 

 どうも、あれからも調査を続けた結果、瀬尾さん達はお付き合いを開始したように思えます。

 瀬尾さんの最近の写真や動画にある瞳に、今までには無い色の感情が見えます。


 ・・・その事実に、少し胸が痛みます。

 それに、どうも彼女達は瀬尾さんの家の隣に居住しており、また、寝泊まりも共にする仲のようです。


 私は、かなり後手に回っているようですね。

 正直に言えば、とても辛いです。

 胸をかきむしりたくなり、叫びたくなるような想いというのを味わったのは初めての事です。


 ですが、だからと言って瀬尾さんを諦める事は、私にはできそうにありません。

 調査報告の結果もそうですが、彼は、知れば知るほど魅力的です。

 少なくとも、いままで見てきたすべての男性よりも魅力的です。


 どんな権力者も、どんな優れていると言われている人も、私を惹きつける魅力を持ち合わせてはいませんでした。

 それらの方には傲慢さ、欲望がありありと見えました。

 私の容姿や家を見ているのが、丸わかりです。

 好きになれるわけがありません。


 しかし、彼は違います。

 

 どんな方にも優しく、そして、心が強い。

 他の有象無象に迎合する事無く、自分を貫く。

 それは一見傲慢にも思えますが、ですが彼のそれは、その人を助けたい、なんとかしてあげたい、そんな心持ちからきている事は明々白々です。


 見た目も、とても可愛らしと思いますし、そのギャップが私を惹きつけます。


 本当に、今まで彼の側にいた女性たちは何を見てきたのでしょうか?

 その点、桜咲美嘉達は、とても優れた眼を持っているのでしょう。

 

 ・・・もしかしたら、対等な友人となり得るかもしれません。

 まぁ、色恋が絡んでいるので、難しいでしょうが。


 ですが、もし、わかりあえるとしたら・・・


 私は、そんな未来を夢想します。


 もし、彼女達と分かりあえ、瀬尾さんに受け入れられ、共に彼を囲めたら・・・


 私は、今以上に幸せになれるのでは無いでしょうか?


 さて・・・夢を見るのはここまでです。


 まずは、明日、いよいよ宣戦布告となるでしょう。


 気合を入れます。

 いつ以来でしょうか?

 ですが、負けられないのです。

 瀬尾さん。

 あなたに彼女がいようが、なんだろうが、私はきっとあなたを惚れさせて見せる。

 そして、いつか・・・あなたが桜咲美嘉達を見るように、私にもその慈しみに満ちた目を向けて欲しい。

 ・・・愛して、欲しい・・・


 私はベランダから外に出て、星を見ながら、いるかどうかもわからない神様に祈ります。

 ふふ、これも初めての事ですね。

 どうか、瀬尾さんが私を見てくれますように・・・


 星が瞬いたような気がしました。

 神様が微笑んでくれたのでしょうか?


 今日は、良く眠れそうです。


 瀬尾さん、おやすみなさい。

 明日お会いできるのを、楽しみにしていますね?


*********************

これで、第5章も終わりです。


人間関係にも、少しづつ新しい要素が加わりました。

また一つ、瞬を取り巻く環境に変化が起こります。

どうなって行くのか、楽しみにしていて下さい。

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