閑話 とある家庭での一幕 side???

「なんで行っちゃいけないのよ!!」

「瞬ちゃんが忙しいって言ってたでしょ?迷惑掛けちゃうから駄目よ。」

「でも!!」

「駄目ったら駄目!良いわね?」


 わたしはママを相手に交渉したけど、駄目だった。

 

 わたしは、さっき電話した従兄弟の瞬の様子に、居ても立っても居られなくなり、瞬の家に突撃しようと思っていた。

 それを、ママに交渉したんだけど、全然話にならなかった。


 部屋に戻って考える。


 ママは、瞬に甘い。

 本当に甘い。

 ママは、瞬の母親の妹だ。

 とても可愛らしい見た目で、素直な性格の瞬を、昔から猫可愛がりしていた。

 

 でも、パパは、口では言わないものの、そんな瞬が気に入らないらしく、あまりいい顔をしない。

 普段は優しいパパも、瞬の事だけはすんなりと納得してくれないんだ。

 まぁ、ママの手前、きつい事は言わないけれど、やんわり拒絶している。


 ママは気がついていないけれど、瞬がわたし達と同居しなかったのは、それもある気がする・・・まぁ、わたしのせいかもしれないけど。


 わたしは、瞬を前にすると、どうしても照れくさくなって、きつく当たっちゃうんだ。

 そして、その後凹む。

 それはもう凹む。

 凹み倒す。

 

 だって、わたしは・・・瞬が好きだから。

 瞬は優しい。

 わたしがどれだけきつく当たっても、優しく接してくれる。


 瞬は強い。

 昔、小学生の低学年の頃、二人で公園で遊んでいた時に、わたしが高学年の男子に絡まれた時に、殴られながらもわたしを守ってくれた。

 瞬も怖かった筈なのに、震えながらでも、わたしの前に立って、絶対にどかなかった。


 瞬は可愛い。

 本人はコンプレックスみたいだけど、瞬のあの可愛らしい見た目は、わたしは凄く好きだ。


 だから、わたしはいつも瞬のそばにいようとして・・・でも、素直になれなくて、いつもきつく当たっていた。

 瞬に迷惑をかけているのはわかっている。

 でも、瞬を一人で放ってはおけない。


 だって、そんな瞬を好きになる女の子が、絶対に出て来るから!

 瞬は知らないんだ。

 すれ違う時に、瞬を見る他の女の目が、瞬を狙っている時がある事を。

 こっちに遊びに来たり、向こうに遊びにいった時に、一緒に遊んでいると、そういう女とすれ違う事がある。

 そういう時、いつもわたしがそれとなく瞬に距離を詰め、守ってきたんだ。


 だからわかる事がある。

 

 今回の瞬の友達ができたという話。

 わたしは、怪しいと思ってるんだ!

 

 なんとなく、電話でも瞬が今までの瞬と違う感じがしていた。

 なぜかはわからないけど、瞬が大人に感じたんだ。

 人間が急に変わるわけがない。

 変わるとしたら・・・


「女・・・かな・・・瞬、彼女とか作って無いよ・・・ね?」


 目尻に涙が浮かぶ。

 不安なんだ・・・わたし。

 何故なら、それを裏付けるかもしれない事があったから。


 瞬との電話の時、かすかに聞こえた女の声。

 お風呂がどうとか言ってたような気がする。


 そして、瞬はそれに普通に受け答えしてた・・・多分。

 

 どうしよう・・・瞬が取られちゃうかもしれない・・・

 いえ、もう、取られてるかも・・・

 まさか、一緒に暮らしていないよね?


 ポロポロと涙が落ちる。

 わたしの瞬なのに・・・誰よ・・・どこの誰なのよ・・・


「入るわよ〜・・・って何泣いてるの!?どうしたの!?」

「・・・なんでも、ないわ。」

「なんでも無いって・・・まぁ、良いけど、何かあれば言いなさいよ?それと・・・」

「何?」


 わたしは、ふてくされたように返事をする。

 だけど、


「・・・泣く位に好きなら、もっと瞬ちゃんに素直になりなさいな。」


 呆れたように続いたママの言葉に声が詰まる。

 その通りだからだ。


「・・・だってぇ・・・」

「・・・まぁ、それはあなたの人生だから好きにしたら良いけど、でも、明日お仕事なんでしょ?撮影あるんじゃないの?」

「・・・うん。」

「だったら、きちんと目元をケアしてから寝なさい?腫れぼったいまま写真に写ったら、どこで瞬ちゃんが見るかわからないんだから。」

「・・・うん。ありがと。」

「どういたしまして。ああ、そうそう、お風呂空いたから入っちゃいなさい?それじゃあね?」


 ママはそう言って出ていった。


 そう、わたしは、実はモデルをしているんだ。

 瞬には知らせていない。

 だって恥ずかしいし。


 結構前にスカウトされて、悩んだけど、女を磨こうと思ってやる事にしたんだ。

 何度か、ちょい役だけど、ドラマにも出た事がある位には知名度がある。

 

 ・・・まぁ、そもそも瞬は雑誌も、テレビも見ないから、全然気がついていないんだけど、さ?

 仕事でも、瞬の事や従兄弟がいる事は、一切言っていないから、誰も知らないと思う。


 ・・・うん。

 取り敢えず、夏休みに会いに行くのは諦めた。

 でも、確か9月にはシルバーウィークがあった筈。

 その時に・・・絶対会いに行ってやる!!

 

 わたしは、そう心に決めるのだった。


 



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