第8話 やってくれました

「・・・え?」


 僕は、朝、ニュースを見ながら、呆然とする。

 そこには・・・


『昨日夜、マスコミ各関係者の所に、〇〇会社の不正記録及び、暴力事件等の隠蔽の記録が送られて来ました!詳細は全て明記されており、中には、社長自らの子供による暴行、傷害、性的暴行等の被害のもみ消しまで記載がありました!あ!?今、捜査員と思われる者達が、自宅に押しかけております!玄関で捜査令状を示していますね・・・踏み込みました!・・・ああ!只今、脇を抱えられ、男性が連れ出されました!その後ろから・・・顔を隠していますが、高校生くらいの男性が抱えられています!!おそらく、あれが関係資料にあった、城島社長の息子・・・』プツッ


 僕はテレビを消す。

 そして・・・


「美嘉さん!やったなー!?」


 絶対これ、美嘉さんだ!

 手出し無用って言ったのに!!


「ふぁぁぁぁぁ・・・朝から、騒々しいでは無いか・・・シュン。」


 あ!?

 また転移魔法で部屋に入って来たな!!

 でも、今日はしっかりと注意しないと!


「美嘉さん!なんで一人で勝手に・・・って、うわああああああ!?なんでそんな恰好なのさ!?」


 僕が声が聞こえた方向・・・後ろを振り返りながらそう言うと、そこには美嘉さんが、パジャマのズボンを履いていないまま、上のパジャマのボタンをお腹まで外して、大あくびしていた。


「なんでも何も・・・妾はいつもこの格好で眠っておるのだ。お主の声が聞こえたから、急いで来たのでは無いか・・・くああぁぁぁぁ・・・」


 幸い大きめのパジャマだからか、パンツまでは・・・ちらちらと見える程度だけど、逆に胸元はゆるゆるだ!


「き、着替えて来てよ!!」

「・・・ん?・・・にひっ♡」


 そんな声が聞こえて来た後、目を瞑っている僕に近づく音と気配がする!


「な、なんでこっちに来るのさ!?」

「ん〜?・・・な〜に、ここにうぶ男子おのこがいるからの?ほれ、目を開けよ?ふ〜♡」

「ひっ!?耳に息を吹き込まないでよ!!」

「ほれ♡ほれ♡」

「うひゃ!?ひぃっ!?くすぐらないで!!」

「可愛らしいの〜♡」

「こら〜!!早く着替えて来てってば!!」

「いっひっひ!さて、これ以上やったら本気で怒りそうだから、一度戻って着替えて来るかの。」


 ・・・気配がなくなった。

 僕はようやく一息つく。


 ・・・おのれ魔王め!

 なんて邪悪なんだ!

 まさか、色仕掛けをして来るとは!!


 でも、僕は屈しないぞ!!絶対!!


「本当かしら?」

「ひぃ!?」


 また声がする。

 僕はすくみ上がった。


「安心しなさい。もう、着替えたわよ?」

 

 僕はこっそり後ろ見ると、そこには制服を着た美嘉さんが居た。


「はぁぁぁぁぁ・・・」

「何よ?ため息ついちゃって。」

「・・・さっきみたいなのはやめてよ。僕、慣れてないんだからさぁ。」

「ん?丁度いい訓練になるわね。積極的にするわ!」

「なんでさ!!」

「んふ♡」


 こんなやり取りをした後、一緒に朝ご飯を食べる。

 これは、昨日の内に約束した事だった。

 僕が朝食を作り、美嘉さんが夕飯を作る。

 そういう約束だった。

 もっとも、今日からなんだけどね。

 昨日は用事があったらしい・・・っては!?


「美嘉さん!昨日の用事って・・・もしかして・・・これ?」


 僕は再度テレビをつける。

 まだ、さっきの事件がやっていた。


「ああ、流石マスコミね。動きが早いわ。あら?警察ももう動いたのね。いつにも増して早いじゃないの。」


 美嘉さんはなんでもない事のように言う。


「・・・動いたら僕がやるって言ってたじゃないか。」

「ええ、あいつら仕返しを考えてたからね。だから、終わらせたのよ。」


 ・・・違うんだよ。


「僕は・・・君に手を汚して貰いたく無かったのに・・・」


 僕が俯いてそう言うと、頭を撫でる感触がした。


「そんなの、あたしも一緒だよ?だから、早いもの勝ち♡」

「美嘉さん・・・」


 美嘉さんが、優しく微笑む。


「あのね?あたしは、あなたに来る悪意の全てから、あなたを守りたいの・・・だから、今回は折れて?ね?優しい優しいあたしの勇者様?」


 その表情が、余りにも慈しみに満ちていて、僕は思わず見惚れてしまった。

 頬が赤くなる。

 心臓がドキドキと鼓動を早めた。


「ん?どうしたの?」

「・・・なんでも無いよ。」

「それとさぁ、そろそろ美嘉って呼んでよ?ね?」

「・・・わかったよ、美嘉。」

「うん!」


 こうして、僕と美嘉・・・勇者と魔王は、こちらの世界で隣人兼同級生となったのだった。

 

 しかし、これはほんの始まりに過ぎなかった。

 でも、この時の僕は、知るよしも無い。

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