第7話 もうひと押ししました

「さて、もうひと押ししよっかな〜。」

「え?何するつもり?」


 現在、二人で帰宅中、美嘉さんがそんな事を言い出した。

 もうひと押しってなんだろう?


「良い?あいつは親の力で学校にまで影響を与えていたの。だから、今回もそれで強引にもみ消しを図るかもしれないわ。」

「・・・まぁ、そうかもね。」

「だから、あいつの親も潰そうって思って!」


 笑顔でそう言う美嘉さんに背筋が凍る。

 ・・・流石魔王だ。


「い、いや、何もそこまで・・・」

「阿呆」


 一瞬で、美嘉さんが魔王モードになる。

 そして、呆れた様に言った。


「お主は本当にお人好しだの。良いか?あのクズの親は、金の力で担任を巻き込み、子供の問題をもみ消して来た。これは良いか?」

「う、うん。」

「それが、お主一人だけだと、本気で思っとるのか?」

「!?」


 ・・・そうだ。

 たまたま今は僕だけど、それ以外にもしている可能性は否定できない。


「そもそも、あのクズの親は、それが分かっていて買収しておるのだ。同情の余地など無いわ。何せ、その影で泣き寝入りした者が、確実におるのだろうからの。」

「そう・・・かもしれないね・・・」

「断言しても良いぞ?このままにしておいたら、あのクズはまた同じ事をするだろうな。次は、お主のおらぬ所で、な?」


 ・・・ダメだ。

 どれだけ考えても、それを否定しきれない。


「だから、妾が天誅を下すのだ。もう、二度とお主の様な被害者を作らぬようにな。」


 ニヤッと笑ってそう言い放つ美嘉さん。

 ・・・複雑だけど、仕方が無いのかもしれない。


「・・・わかった。でも、それなら僕が・・・」

「ならぬ。」

「・・・なんで?」

「お主が手を汚さなくても良い。お主が手を汚す位であれば・・・そうさの?あやつらが、再度お主に手を下した時で、どうか?どうせ、すぐに手を出して来るだろうがな。」

「・・・わかったよ。そうする。」

「そうせよ。ならば、それまでは手出し無用だ。良いな?」

「・・・うん。」


 ・・・そうするか。

 出来れば、美嘉さんにも手を汚して欲しくないからそれが良いかな・・・。

 

 そんな風に複雑に思っているのが分かったからかもしれない。

 美嘉さんは苦笑していた。


「(やれやれ・・・コヤツは、本当に優しい男だのう。だが、妾は許せんのだ。こんな善良な者・・・というより、シュンを苦しめるのを、手助けするような者をな。破滅に追い込んでくれるわ。この妾の名・・・アルフェミニカの名にかけてな!)」


 ・・・なんだろう?

 美嘉さんがとても怖い顔をしている。

 魔王として僕と戦った時よりも怖い顔だ。


「ん?どうしたシュン?妾をじっと見つめて。惚れたか?」


 見つめていたのがバレてしまい、ニヤニヤした表情に戻った美嘉さんにからかわれてしまった。


「ち、違うよ!?そうじゃ無くて・・・美嘉さんが怖い顔していたから・・・」

「なんだ、そういう事か。そりゃ怖い顔もするであろう?愛するシュンを傷つけるような輩だからのう?」

「あ、愛!?」


 愛するって!?

 頭に一気に血が上る。

 顔が熱い!!


「おや?なんだ照れておるのか?顔が真っ赤でい奴よ!うりうり♡」

「ひゃ、ひゃめてよ〜・・・」


 ニヤニヤした美嘉さんにほっぺを突かれる。

 ううう・・・照れくさい・・・


「時にシュンよ。妾の名、本来の名の意味を知っておるかの?」


 ・・・?意味?アルフェミニカの?

 なんでそんないきなり・・・まぁ、良いけど。

 確か、異世界・・・グランファミリアの言葉で・・・


「『絶望を与えし者』だっけ?」

「そうだな。その通りだ。」

「・・・怖い名前だね。でも、ここでは、桜咲美嘉・・・『美』も『嘉』も美しいって意味なんだから、そんな物騒に生きないでね?君に良く似合ってるんだから。」


 僕がにこりと笑ってそう言うと、美嘉さんは予想外だったのか、呆けたようにこちらを見て・・・あれ?赤くなった?


「え?え?どうしたの?」

「・・・お主・・・いきなりなんて事を言うのだ・・・」

「何が?あれ?僕、変な事言った?」

「言っておらんわ!!」

「じゃあ、なんで怒ってるのさ!」

「怒っとらんわぁ!!」

「嘘じゃん!!怒ってるし!!」

「うるさい!はよう帰るぞ!妾にはやる事があるのだ!!」

「え〜?ま、待ってよ!!」


 僕は引きずられるように手を引かれ、マンションへ向かうのだった。






side美嘉


 ・・・ふぅ。

 やれやれ・・・あやつめ!

 天然のスケコマシだのぅ!!

 大真面目にあんな事言いよってからに!!


 他の者に言わぬよう、釘を刺しておかねばな。

 ・・・ああいうのは、妾だけで良い。


 さて・・・現在は妾は単独行動中だ。

 あやつには、やる事があると言ってあるからの。


 妾のやる事、それは・・・あのクズの親に天罰を下す事だ。

 あやつは、妾の手を汚したくないと考えておるようだが・・・それはこちらのセリフだ。

 あやつこそ、あのようなクズで手を汚さなくても良い。

 それは、魔王たる妾の成すべきことだ。

 それにしても・・・妾の魔眼『千里』に写る、今の状況をあやつにも見せてやりたいわ!

 この魔眼『千里』は、魔眼『マリオネット』とは違い、操る事はできぬ。

 しかし、千里を見通す事が出来るのだ。


『クソが!』

『まぁ、ワシがなんとかしてやる。その、瀬尾とか言うのは、親も死んで既に居ないのだろう?どうとでもなるわ。』


 案の定、親の力で学校での事を、有耶無耶にしおったか。


『・・・頼むよ父さん。』

『任せておけ。可愛い息子に怪我を追わせた報いを受けさせてやるわ!それと、次は上手くやるのだぞ?その、綺麗な女をな?』

『ああ・・・任せといてよ。そうだ!その女、父さんにも回そうか?』

『ほう・・・可愛いことを言うではないか!期待して待っておるよ。』


 ・・・やはり、子供がクズなら、親もクズか!

 遠慮はいらんな。

 

 妾は転移魔法で奴の自宅に移動する。

 

「眠れ。」


 昏睡魔法で家の中にいる者を全て眠らせる。

 そして、堂々と屋敷の中に入る。

 玄関は転移で素通りだ。


 馬鹿親の部屋まで向かい、蹴り起こす。


「・・・む?ひっ!?な、なんだ貴様ぁ!!」

「『黙れ。』」

「・・・っ!・・・っ!!」

「『貴様の会社の、不正の記録を全て出せ』」

「・・・!?!?!?!?」


 妾の魔眼で、この馬鹿親は、黙ったまま、自らの不正記録を全て取り出し、妾に差し出す。


「『妾に会った事は全て忘れろ。そして、一時間程眠れ』」


 妾はそれを持って一度自宅へ戻る。

 精査すると・・・出るわ出るわ。

 横領、脱税、恐喝、傷害事件や強姦事件のもみ消しetc・・・


 妾はそれを複写魔法で複写を作成し、会社関係の物は税務署に、事件関係の物は警察署に、そして全ての複写をマスコミに直接送りつける。

 

 ・・・いくら警察や税務署に働きかけようと、マスコミは必ず食いつく。

 これで、あやつらは、終わりだな。


 ・・・妾は、シュンに降りかかる火の粉は全て排除する。

 例え、シュンが望まなかったとしても、な。

 表舞台からも、裏舞台からも消えよ、クズども!

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