第6話 天誅を与えました

「こいつが一方的にやったんです!!こいつが!!」


 城島が叫んでいる。

 そして、その側には浦崎と下切もいる。


「皆さん、この瀬尾は素行不良者です!逆に、城島達は優良者です。彼らが嘘を言う訳はありません!瀬尾を退学にしましょう!!」


 担任の林先生は僕を見下しながらそうまくし立てた。


 今、僕は職員室に居るんだ。

 周りには他の先生達と、教頭先生と校長先生もいる。


「瀬尾!なんて事をしたんだ!退学は免れないぞ!!」


 生徒指導の先生はそれを聞き、僕に詰め寄っている。

 どの先生も視線が厳しい。


「・・・僕が暴力を振るったのは間違いありません。ですが、そもそも、彼らが桜咲さんに暴力を・・・」

「嘘つけ!」


 僕を止めるように林先生が叫んだ。

 それをニヤニヤしながら、城島達が見ている。

 ちなみに、ここに美嘉さんはいない。

 林先生に追い出されたからだ。


「関係無い人は外にいるように」ってね。

 美嘉さんは、僕に目配せしてから外にでた。

 

 あ〜あ。

 このまま行くと、破滅だぁ・・・

 僕が、では無くて・・・


「さて、決を取りましょう。退学が否か。」


 校長先生を向いて林先生がそう言った。


「・・・瀬尾君。君は、本当に反省していないんだね?」

「反省する必要がありませんから。僕は、ずっと本当の事を言っていますし。」

「ほら!校長!彼は生粋の嘘つきなんです!!」


 僕の言葉に、校長先生はため息をついて、口を開いた。


「・・・では、瀬尾瞬、君を退学と・・・」

「本当に、良いんですね?」


 そこに声が響いた。

 全員が振り向く。


 そこには、美嘉さんが居た。

 

「桜咲!出ていろと・・・」


『・・・何か用?今、シュンに案内をして貰っているのだけど。』

『・・・桜咲さん、そいつから離れた方が良い。そいつはな?何も出来ないクズなんだ。それに、クラスカーストどころかスクールカーストの底辺なんだよ。君の格が下がるよ?』


 その瞬間、美嘉さんの携帯から、声が響いた。

 そう、彼女は、城島達に声をかけられた瞬間、携帯を録画で起動していたんだ。

 もっとも、この段階ではポケットの中だから、画面は真っ暗だけど。


 林先生の顔が驚愕に染まる。


「お、桜咲!それを止めなさ・・・」

『あ、そう。あたしには関係無いわね。用件はそれだけ?じゃあもう行くわ。シュン、行きましょう?』

『おい!待てよ!!お前もイジメの対象にするぞ!?』


 城島の声が室内に響く。

 先生達の顔色も変わる。

 城島達は真っ青になっている。


「やめろ!桜咲!やめないか!!」

「何をしている!林先生を止めないか!!」


 林先生が美嘉さんに飛びかかろうとしていた所を、生徒指導の先生、他数人が取り押さえた。


『・・・イジメ?』

『そうだ!俺がそいつをイジメてるんだよ。クラスからも、学校からも相手にさせないようにしてるんだ!お前もそうなりたくないだろ?だから・・・』

『死ね。クズ。』

『なっ・・・!?』


 場面はどんどん進行して行く。


『・・・大人しくしていたら調子に乗りやがって・・・!!てめぇがそんな態度ならこっちにも考えがあるぜ?おい!こいつ、連れ込んでヤッちまおうぜ?』

『・・・へへへ!良いなぁ!!』

『・・・マジで?やった!!』

『せいぜい後悔するんだな。おい!あそこに連れ込むぞ!林センコーから鍵は貰ってっからよぉ?』


 そう聞こえた瞬間、その場にいる先生の全員が、林先生を見た。


「・・・林くん。どういう事だ!!」


 校長先生が怒鳴りつけた。


「ち、ちがう!違います!!」


 林先生が顔色を真っ青にして叫ぶが、どの先生も冷ややかにしている。

 その間も場面は進む。


『僕に手を出すだけなら、まだ良かった。でも、これ以上は許せない。』

『なんだとてめぇ!!調子に・・・ぐああああああ!?は、離せ!離せぇ!!』


 浦崎の絶叫が響く。


「・・・この時、あたしに手をだそうとしたそいつを、シュンが腕を掴んで止めてくれました。」 


 美嘉さんがそう言うと、


「う、嘘だ!俺は・・・」

「黙れクズ。『お前は喋るな。』」

「む・・・ぐ・・・!?」


 美嘉さんが魔眼で、浦崎を黙らせる。


『な!?』

『浦崎!!てめぇ!!』

『下郎。下がれ。』

『ぐはっ!?』


「あたしも、この時に、そこにいるもう一人のクズが、シュンに殴りかかろうとしていたので、蹴飛ばしいています。これって、あたしも退学になるのですかね?襲われた防衛でもそれに当たるんですか?この学校では?」


 先生達が、黙り込む。

 正当性は既に充分に僕達にあるからだ。


『クズが・・・』

「この時、あたしは・・・」


 美嘉さんが音声を止めてそう呟く。

 全員がそれを聞いている。

 城島と下切は、既に倒れ込みそうになっていた。

 

「シュンに酷い事をずっとして来たであろう、こいつらを、絶対に許せなかった。なんなら殺してやろうかと思ったくらい。そして、それと同じくらい、この学校が嫌い。シュンがこんな目に遭わされてるのに、見てみぬふりをするクズ教師の言うことを信じるような教師達を、誰が信じられるものか。」


 美嘉さんの言葉に、教師が全員俯いた。

 まっすぐ見つめているのは、校長先生くらいだ。


「ですが・・・」


 そして、音声を再開する美嘉さん。


『ストップ美嘉さん!やりすぎちゃダメだよ?』

『だがな?お主の事をこれほど苦しめたクズには報いを・・・』

『美嘉さん!』

『・・・わかった。』


 また、音声を止める。


「こんなに酷い奴らでも、必要以上に傷つけようとするあたしを止めたんです。シュンはそれくらい優しいのに!なんでそんな優しいシュンが退学しなくては行けない!!」


 美嘉さんの怒気混じりの叫び声。


『あああああ!!離せ!離せぇ!!』

『ねぇ・・・浦崎くん。離して欲しい?』

『早く離せ!!離してくれよ!!』

『そう。じゃあ離すけど、次は流石に許さないよ?』

『てめぇ!ぶっ殺してやる!!』

『僕は許さないって言ったのに・・・』

『・・・は?』

『少しだけ、人の痛みを知ろうね。』

『は?がは!?』


「シュンは、警告までしているんです。やりすぎた?馬鹿馬鹿しい!それでも襲ってくる奴に、抵抗するなって事!?あんたそんな事出来るわけ!?」

「・・・」


 生徒指導の先生は、唇を噛みしめる。

 出来るわけが無いからだ。


「ちなみに・・・ここからは、映像もありますよ。既に余裕がありましたから。是非見て下さい。そこのクズが言うことを正しいとか言ってるあなた達に是非見て欲しい。」


 美嘉さんがそう言って校長先生達に近づく。

 全員が携帯を注視する。


『くっ!?クソが!!死ね!死ねぇ!!』

「ナ、ナイフ!?そこまでしていたのか!?全然違うでは無いか!林ぃ!!どういう事だ!!」

「ひぃ!?」


 校長先生に怒鳴られ、林先生は押さえつけられながらガタガタ震えていた。


『くそっ!くそっ!なんで当たらねぇ!殺してやる!殺してやる!!』

『はぁ・・・えい!』

『てめぇ!離せ・・・『ゴキッ』ぎゃあああああああ!?』

『そんなもの持ってちゃダメでしょ?』

 これで映像は終わる。

 美嘉さんは校長先生を見た。


「これは、立派な殺人未遂です。それに、あたしに対しての婦女暴行未遂。あたしは、こいつらを許せない。警察に持っていきますが・・・どうしますか?このままなら、学校は・・・あなた達は全て終わりですよ?何せ、無実な生徒を退学にして、証拠を隠蔽したと捉えられるでしょうから。」


 美嘉さんがそう言った瞬間、教師全員の顔色が真っ青になった。

 そして、被せるように美嘉さんが続ける。


「知らなかった、では済まされません。何しろ、目撃者・・・いえ、当事者のあたしを排除し、普通、聞き取りは当事者同士を離した所でやるべき事を、当事者が顔合わせた状態で行い、まるっきりシュンの言い分を聞かなかったのは、学校ですから。責任は重いです。」


 まったくその通りだね。

 おろおろする教師陣。

 流石に、教頭先生も顔色が悪い。

 

 ガタッと席を立つ音がした。 

 校長先生だ。


「・・・すまなかった。瀬尾くん。こちらの対応が間違っていた。申し訳ない。」


 校長先生の顔には、悔やむような表情が浮かんでいた。

 魔法で内心を読み取っても、謝罪に関しては誠実なものだった。

 もっとも、林先生や城島達には憤怒があるけど。

 おそらく、美嘉さんも同じ事をしているだろう。

 表情に、納得の色を見せていた。


「・・・謝罪を受け取ります。担任の林先生は、今まで僕へのイジメを黙認して、こっそりとそれをなんとかしようとした他の生徒達を脅して黙らせていました。きちんと聞き取りして下さい。今、ここで。あ、そうそう、林先生は、城島くんの親からお金も貰っていますので、そこも追求してください。」

「な!?なんだと!?それは本当か!?」


 全員の視線が林に向かう。

 

「お、俺はそんな事・・・『本当の事を話しなさい』・・・俺は!金なんて!月に5万位しか貰って無い!たったそれだけで、城島達の不祥事をもみ消すなんて割りが合わないと思ってたんだ!!それに、他の生徒を黙らせるのも大変なんだぞ!!・・・は!?お、俺は今・・・何を・・・」


 途中で、林先生に魔眼を使った美嘉さんのおかげで、証言はばっちり。

 勿論、携帯で動画撮影している。


「・・・どうやら、詳しく聞かねば行けないのは、林とそこの3人のようだ。すまない瀬尾くん。桜咲さん。今日は申し訳なかった。また、明日職員室まで来てくれるかね?我々は・・・この四人から厳しく話を聞かねばならないので、ね。」


 校長先生、そして他の先生が睨みつけるように林先生と城島達を見ている。

 四人は、ガタガタ震えたままだった。


「はい、それでは僕達は失礼します。」

「ああ、映像の提供は可能ですが、大本のデータを引き渡す事はしません。意味はわかりますよね?誠実な対応を望みます。」

「勿論だとも。その時は、よろしくお願いするよ。」 


 こうして、僕達は帰路につく事になった。

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