第3話 引っ越して来ました

 魔王アルフェミニカ・・・もとい、桜咲美嘉さんと再会して、一週間が過ぎた。

 その間に、特筆すべき事は無い。

 美嘉さんとも会っていない。

 

 そして、今日の朝、それは起こった。


「なあ、お前、いい加減うぜぇんだよ!」

「そうだ!てめぇ、さっさと学校辞めろよ!」

「それとも、イジメて辞めさせてやろうか?ああ!?」


 教室で、僕の目の前に、不良チックなクラスメイトが朝から恫喝して来た。

 というのも、彼らが他のクラスメイトの机を蹴飛ばし、それが当たった女の子が泣いてしまったので、謝るように言ったからだ。


 前々から彼らは他人の迷惑を考えない。

 だから、たびたび注意していた。

 その度に、彼らは僕を恫喝してきたし、時には殴られたりもした。

 勿論、僕は手を出したりはしない。

 でも、僕は、力を持たない以前から、決して屈する事は無かった。

 

 そんな僕に彼らは、クラスメイトを脅して、無視するように言ったんだ。

 そして、クラスメイトは僕と話さないようになった。

 まぁ、それは別に良い。

 みんな、僕に申し訳無さそうにしているからね。


 許せないのは、担任だ。

 僕以外の誰かが、担任に相談したらしい。

 すると、その担任は、『そんな事つげ口したら、君もイジメられるかもよ?』と、そいつらの肩を持つような事を言ったらしい。

 そして、更に、『あまり余計な事を言うと、内申に響くかもしれないね。』とも。


 どうも、担任は、彼らのうちの一人の親と知り合いのようで、かばっているらしい。

 そこそこの金を貰って。


 これは、こちらに戻って来てから、読心の魔法で確認したから間違いない。

 よっぽどの事が無いと使うつもりが無い魔法だけど、流石におかしいと思って、確認したら・・・出るわ出るわ。

 酷い先生だよねぇ。


 ま、僕には関係無いんだけどね。

 何せ、こんな恫喝されてもなんとも思わないし、僕が殴られても、今は痛くもかゆくも無いし。

 でも、クラスメイトは駄目だ。

 これは許せない。


 これ以上するのであれば・・・僕にも考えがある。


 僕は、彼らを睨みつける。

 

「てめぇ!なんだその目は!」


 彼らのうちの一人が、僕の胸ぐらを掴もうとした時だった。


「何をしてるんだ。席につけ。」


 担任が部屋に入って来た。

 ええ・・・生徒が胸ぐらを掴まれそうなのを見て、その対応は無いでしょう?


「チッ!命拾いしたな!放課後、覚えとけよ!」


 そう言って離れていく、彼ら。

 

 僕は黙って席に着く。


「え〜・・・本日から、転校生が来る。みんな、仲良くするように。では、入りなさい。」

「はい。」


 とても綺麗な声。

 その声は・・・聞き覚えがあった。


「おお・・・」

「うそ・・・綺麗・・・」

「・・・うわぁ・・・」


 ざわつく教室。

 それもそうだろう。

 そこに入ってきたのは・・・


「桜咲美嘉です。皆さん、よろしくお願いいたします。」

「「「「「「「おお〜!!!!」」」」」」」


 美嘉さんの挨拶で、男子生徒は歓声をあげた。

 まぁ、美嘉さんは魔王の時の美貌そのままだもんね・・・転生前にあった角は無いけど。


「はいは〜い!桜咲さん、この席開いてるよ!!先生、良いよね!?」


 彼らのうちの一人・・・リーダー格の城島がそう叫ぶ。

 クラスメイトの大半が、その言葉で肩を落とす。

 おそらく、それが通るのは明白だからだ。

 でも・・・


「先生?」

「なんだい?桜咲君の席は・・・う”・・・」


 ・・・魔眼、か。

 洗脳に近いヤツだね。

 ・・・本当に、なんで使えるんだろ?

 魔眼はまぁ・・・膨大な魔力があって、意図して術式を組めば宿せるはずだけど・・・・


「私の席は?ボソッ(シュン・・・瀬尾瞬の隣で。)」

「・・・桜咲君の席は、瀬尾の隣で・・・」

「「「「「「「「「え!?」」」」」」」」」


 クラスメイトは驚愕する。

 担任が、城島の言うことを聞かなかったのは初めてだからだ。


「な、なんでだよ先生!」

「・・・これは、決まった事だ。」

「くそっ!なんで・・・」


 城島は僕を睨みつけた。

 僕を睨まれても・・・


「・・・おはようシュン君。お久しぶり。」

「・・・おはよう、桜咲さん。久しぶりだね。」


 知り合いスタンスで行くんだね?


「な、なんで瀬尾と・・・」

「知り合いなの・・・?でも、名前で呼んでるし・・・」

「もっと深い関係・・・?」

「・・・チッ!瀬尾ごときが・・・」


 色々聞こえてくる。

 特に、城島が酷い。

 ごときって・・・

 しかし、そんな状況でも、美嘉さんはまったく動じなかった。


「もうっ!ちゃんといつものように呼んでよ!」


 そう言って、僕の肩を軽くパシッと叩いて、ふくれっ面を見せる美嘉さん。

 ・・・その顔で、その仕草は、あざといよ・・・


「いつものって・・・美嘉さん?」

「・・・ええ、そうね。それで良いわ。これからよろしくね?クラスメイトとしても、ね?」

「・・・うん、よろしくね。」

「ボソッ(そして、お家のお隣さんとしても、ね?)」

「ええ!?」


 僕は思わず叫んでしまった。

 だってそうでしょう!?

 まさか隣に引っ越してくるなんて・・・というか、お隣さんはどうしたの!?

 あそこ、賃貸じゃなくて、分譲マンションだよね!?


「どうした瀬尾?」

「・・・な、なんでもありません。先生すみませんでした。」


 担任が目を細めて僕を呼んだけど、それどころじゃない! 

 謝って、僕は美嘉さんを見る。

 まさか・・・


「ボソッ(安心して?相場の2倍で売ってくれたから。ここ数日、大きな音、してなかった?)」

「ボソッ(・・・してた。まさか引っ越しの音だったとは・・・)」

「ボソッ(大喜びだったわよ?家が建てられるってね。)」

「ボソッ(なんでそんなにお金持ってるんだよ!)」

「ボソッ(予知魔法で株やってるって言わなかったっけ?おかげで大儲けよ?大金持ちなの、あたし。)」

「ボソッ(うわ・・・ズルい・・・)」

「ボソッ(くくく・・・勝てば良いのだよ勝てば。誰にも迷惑かけておらぬしな。)」

「ボソッ(ていうか、なんで元の能力そのままに転生できてるんだよ。)」

「ボソッ(ああ、それはのう?・・・って話し方が引っ張られるわね。後で話すわ・・・)」


 僕達はコソコソと話し合う。

 驚いた顔や笑顔になったりして。

 そして・・・そんな僕達を、面白くなく睨みつける視線が多数・・・一際ひときわ厳しく睨みつける視線が3つ。


 当然、城島達だった。

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