第2話 帰ってきました。

「ふぅ。今日も学校終わりっと。」


 帰って来て一ヶ月がたって、その間に僕は高校2年生になった。

 幸い、向こうに行っていたブランクは一週間程で消えた。

 だから、学校に行って数日で、こちらの生活に慣れる事が出来た。


 学校から家に着くと、僕は帰って来た時の事を思い出す。


 僕が帰って来る時、少しだけ向こうの神様が干渉して、話をする時間が取れたんだ。


『まさか、魔王が送還の秘術を使ってしまうとは思わなかった。折角救ってくれたのに、礼も、しっかりと仲間と別れをさせる事も出来ず、本当に申し訳ない。』

『良いんですよ。これで向こうの世界が滅びる事は無いんですよね?』

『ああ、その通りだ。もし、これであの世界が、自分達のせいで滅びに向かうのであれば、流石に次は私も力を貸さないつもりだ。』

『そうですか・・・そうならない事を願います。』

『私もそう願うよ。さて・・・本来であれば、君が得た力を回収して、それをそちらの財に変えて貰う所だったのだが・・・すまない。時間が無さすぎて出来ないのだ。申し訳ない。』

『いえ、良いんです。もともと、お礼目あてではありませんから。・・・って、僕の力はそのままなんですか?』

『そうなのだ。だから、くれぐれも気をつけるのだぞ?人間は簡単に死んでしまう。世界を救ってくれた君を、罪人にはしたくないからな。手加減はしっかりと、な?』

『はい。わかりました。まぁ、そんなに暴力を振るう事は無いと思いますが。』

『さて・・・そろそろお別れだ。向こうでは、時間は来た時とそのまま変わっていない筈だ。ただし、出る場所は少しだけ干渉してズラしておくよ。その格好ではな。人気の無い近くの山にしておく。本当に、ありがとう。感謝する。』

『ええ、神様もお元気で。あ!?そうだ!最後に一つお願いしても良いですか?』

『なんだうか?』

『僕の大事な仲間達を見守っていて欲しいんです。』

『・・・良かろう。気にかけておく。』

『ありがとうございます!それでは!』

『ああ、達者でな。』


 こんな感じで、僕は自分の世界に帰って来たんだ。

 成長は止められてたから、体格は良いのだけど、来た直後は、着ていた聖鎧や聖剣を持ったままだったから、このままじゃまずいと思って、アイテムボックスという異空間に物を収納しておけるスキルを使用し、中から向こうに行った時に着ていた学生服を出して着替えた。

 向こうに行った時は、学校から家に帰る途中だったからね。


 山からは転移魔法で自宅へ直行だ。

 転移魔法を使うため、集中する。

 僕は、賢者であるジェミニのように、息をするように転移魔法は使えない。


 30秒程で転移魔法が発動した。

 光が収まると・・・見慣れた部屋の中へ・・・って靴のままだった!

 すぐに靴を脱いで玄関に持っていく。


「『クリーン』!・・・よし、綺麗になった!」


 魔法で、靴で踏み汚してしまった床を綺麗にしておく。

 時計を見ると・・・午後6時位だ。

 え〜っと・・・何すれば良いんだっけ・・・そうだ!ご飯だ!


 実は、僕は一人で暮らしている。 


 家はマンション住まい。

 一応、実家にはなる。

 でも・・・僕の両親は・・・実はもう他界しているんだ。

 交通事故でね。

 信号無視をしたトラックが、僕達が乗っていた自動車にぶつかったんだ。

 そして・・・僕だけが助かった。

 

 その後、僕の親族が、僕を引き取る為の話し合いをしたんだけど・・・ある一つの家族を除いて、みんな押し付け合いばかりだった。

 だから、もう高校生だし一人で暮らすって言って、今は一人暮らしだ。


 一番僕を心配していた親族が、かたち上の親権者にはなっている。

 その家族だけは、一緒に住もうかと言ってくれたんだけど、そこには年頃の女の子が居るし、県外の居住となる事もあって、辞退したんだ。


 だから、たまに連絡する事にはなっている。


 固定資産税なんかは、両親の残した遺産や、保険料の支払いなんかでなんとかなっている。

 それに、学費や生活費もね。

 もっとも、浪費はもともと好きでは無いから、節約して自炊しているんだけどさ。


 さて、今の僕の生活はこんな感じ。

 まぁ・・・一人は寂しくなる事もあるけど・・・それでも、そんな時はみんなの事を思い浮かべて、寂しさを紛らわしている。


 他の友達なんかと遊んで、寂しさを紛らわせれば良いじゃないかって人もいるかもしれないけど・・・実は僕は、学校ではボッチ気味なんだよね・・・

 と、いうのも、学校のクラスに、ちょっと不良っぽい人達が居て、僕はその人達に嫌われてるんだ。

 僕だけ何されても、言うことを聞かないからね。

 だから、みんなも僕を腫れもの触るような扱いをするから、親しい人は居ないんだ。


 でも・・・


「やっぱり・・・寂しいなぁ・・・一人は・・・」


 夜、寝る前にベッドに入り、天井を見ながらそう呟く。

 家の中は、僕しかいない。

 冷え冷えとしている感じがする。


 少しだけ、涙が滲んできた。


 父さん、母さん、寂しいよ・・・なんで僕だけ、助かったんだろう・・・

 一緒に死んでいたら、こんなに寂しい思いをしなくて済んだのに・・・


「うう・・・寂しい・・・寂しいよ・・・みんな・・・」


 そのまま向こうに居られたら良かった。

 みんなと共に居られたら良かった。

 魔王も本当に酷いことをしてくれたもんだよ・・・


「恨むからね?」

「誰を?」

「そりゃ、魔王アルフェミニカ・・・って、誰!?」


 僕はベッドから跳ね起き、声がした方を見る。

 そこには・・・長い黒髪の女性が立っていた。


「誰だ!」

「何?忘れちゃったの?・・・ってこれじゃわからないわね。・・・なんだ?妾を忘れたのか?つれないのう。」

「・・・え?その話し方・・・」


 僕は黒髪の女性を凝視する。

 長い黒髪。

 年は僕と同じ年くらいに見えるけど・・・ふくよかな胸とくびれた腰、すらりとした足。

 そして、凄まじく整った顔。

 かなり若くなっているけど・・・見覚えがある。

 というか、ありすぎる!


「ま、魔王!?なんで!?」

「くははは!そりゃ、転生したからに決まっておるだろうに!」

「転生!?そ、それに、ど、どうやってこの部屋に!?」

「ん?転移魔法に決まっておろう?目印は・・・お主の聖剣だ。」

「え?」


 そう言えばと、手入れしてあげる為に出して、壁に立てかけてた聖剣を見る。


「転生してから、毎晩確認していたのだがな。ようやく反応があったから、転移して来たのだ。」

「そ、そうだったんだ・・・」

「そしたら、ピ〜ピ〜泣いておるからの。本当はちらりと姿を確認して、後日、急に現れて驚かせようと思っていたのだがな。思わず声をかけてしまったのだよ。」

「う、うるさいな!って・・・なんで来たの?もしかして・・・仕返し?」

「そんなわけ無かろう。さて何故か、か・・・ふむ。妾の最後の言葉、覚えておるか?」

「え〜っと確か・・・『今度は戦いの無い出会い方を』だっけ?」

「うむ。そして、その前に言ったであろう?『妾の惚れた男』とな。」

「ああ、そうだったね・・・て、え!?ま、まさか!?」


 僕がそう言って魔王を見ると、魔王はニヤリとした。


「その通りだ。妾はお主に惚れているのだ、シュンよ。だから、お主に会いに来たのだ。つがうためにな。」

「ええ!?そ、そんな事を言われても・・・」

「む?なんだ?妾では不満か?これでも、転生してからは、学校ではモテておるのだがのう・・・この身体、味わってみとうないか?」


 そう言って大きな胸をムニムニとしながら、すらりとした腰からぷっくりとしたお尻を撫で、妖艶に僕を見る魔王。


「い、いや、僕はそんな事しないよ!?好きな人としか・・・」

「ほう?ならば、シュンの事を惚れさせてみるかの。ま、そんな経験が無いから、手探りになるがな。」

「へ!?ぼ、僕を!?」


 魔王が僕を見て、ニヤリとする。


「くくく・・・ライバルとなる、お主の元の仲間のような邪魔者はいない。お主は一人。・・・果たして、耐えられるかのう?ああ、そうそう、近い内に、妾もお主の学校に転校するから、楽しみにしておれ。」

「ええ!?」

「こう見えて、妾は株でかなり稼いでおるからの。予知魔法でざくざくだ!それに、親を説得して、近くに越してくるのも造作も無い。いや〜!楽しみだのう?」


 ・・・とんでもない事になった。

 魔王が僕を惚れさせるだって?

 そんな簡単に惚れるとか・・・


 そんな葛藤をしていると、魔王が僕に近寄って来た。

 僕は身構えたけど、魔王に殺気はない。

 拍子抜けしていると、魔王は・・・僕を抱きしめた!?


 柔らかい感触、甘い匂い、サラッとしたなめらかな髪が僕の頬を撫でる。

 何!?突然!?

 

 僕は混乱したけど、すぐにその言葉は吹っ飛んだ。

 魔王の言葉で。


「・・・すまなかった。声をかける前、お主の思考を少し読んでしまった。シュン・・・お主は、一人きりだったのだな・・・そして、嫉妬した妾の嫌がらせで、別れの挨拶もろくにさせぬままこちらに帰してしまった・・・すまぬ。」

「魔王・・・」


 魔王は、震えていた。

 目には涙が見えた。

 僕は・・・僕の視界も歪んできた。


 ・・・誰かに抱きしめられるなんて・・・久しぶりだな・・・


「・・・こちらの世界では、妾は『桜咲おうさき 美嘉みか』と言う名だ。どうか、美嘉と呼んでおくれ。シュン。」

「美嘉・・・さん。」

「さん無しでも良いのだが・・・まぁ良い。これからは、シュンは一人では無い。妾も・・・あたしも居るからね。これから普通に喋るよ。よろしくね?シュン?」

「・・・うん、よろしくね?美嘉さん。」  

「うん、よろしく。さて、今日は素直に帰るわ。やることいっぱいあるしね。転校の手続きと、親の説得、後、隣の部屋の買収・・・」

「え?なんだって?今、なんて言ったの?」


 聞き捨てならない事を言ったような・・・


「ん?気にしないで!さぁ!忙しくなるわね!じゃあ、また!」

「あ!ちょっと待って!なんで力を持ったまま転生出来て・・・って、行っちゃった・・・」


 僕の目の前から、美嘉さんが消えた。

 

「なんだか、とんでもない事になったなぁ・・・でも・・・」


 一人じゃないって言ってくれた。

 嬉しいと思ってしまう。

 ・・・相手は、僕が殺した魔王なのに・・・

 

 でも、少なくとも、罪滅ぼしは出来る。

 僕は、ベッドに入る。


 何故か今度は、心暖かいまま、眠りにつけた。

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