(本編完結済み)異世界を救って自分の世界に戻ったら、みんなに追いかけられました。

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第1章 異世界から追いかける魔王

第1話 魔王を倒しました

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」


 僕の目の前で、大きな力の奔流がぶつかり合い、周囲に衝撃波が弾け飛ぶ。

 僕の聖剣からは光の波動が、相手の・・・魔王の手の平からは漆黒の波動が。


「お願い!これで決めて!!」

「頑張って下さい!負けないでぇ!!私達の勇者!!」

「くっ・・・!動け!ボクの身体!!まだ勇者が頑張ってるんだ!少しでも力に・・・!!」

「もう少しよ!頑張りなさい!勝って!!」


 僕の後ろには、仲間である、斥候兼武道家である獣人のクォン、聖女であり、僕が召喚された世界のお姫様で人族のリリアーヌ、リリアーヌの騎士であるエルフのラピス、大賢者と呼ばれ、魔王と同じ魔族であるジェミニ。


 召喚されてから、僕を助けてくれた大事な仲間。

 みんな女の子なのに、ボロボロで傷まみれになっている。

 一緒に苦難を乗り越えて来た僕達の絆は強い。

 僕が撃ち負けたら、みんな死んじゃうのに、誰一人として逃げようとはしない。

 

 それどころか、みんな僕に魔力を集めてくれている!

 絶対に・・・絶対に負けられない!!


「おのれぇ!よもやコレほどとは!!まさか妾がここまで追い詰められるとは!!」


 魔王・・・魔王アルフェミニカ。

 とても美しく、それでいて恐ろしい魔王。

 そんな彼女が、必死の形相で力を放出している。


「僕は・・・僕達は負けない!絶対に・・・勝つんだぁ!!あああああああああ!!!!」

「っ!!・・・おのれ・・・勇者ああああぁぁぁぁぁぁァァァァ!!!!・・・・・・」


 最後の力を振り絞り、僕の・・・みんなの力をのせた剣を、全力で振り抜く!

 その瞬間、拮抗していた波動の天秤が傾き、そのまま光の波動が闇の波動を押し込み、更には魔王をも飲み込んだ。


 そして、光が消えた後、ボロボロな状態の魔王が倒れ伏していた。


「はぁ・・・はぁ・・・や・・・った・・・のか?」


 魔王の力・・・命の火は今にも消えそうだった。


「今・・・まで・・・何人・・・も・・・の・・・勇者・・・を、退け・・・て・・・きた・・・が・・・まさか・・・こん・・・な・・・若・・・造・・・に・・・まける・・・とは、な・・・」


 息も絶え絶えの魔王。

 僕は、ズリズリと足を引きずり、魔王に近づく。


「僕達の・・・勝ちだ!・・・でも・・・ごめんね?せめて安らかに眠って欲しい。」


 僕は知っている。

 何故、魔王が、魔王と呼ばれるようになったのかを。

 

 元々、魔族は、血の気が荒い。

 そんな魔族は、これまでに何度も、世界を相手に戦争をしていた。

 当時は、魔王と呼ばれる者はおらず、魔族の国のただの国王だったらしい。

 しかし、今の魔王、アルフェミニカの代になって、戦争は無くなった。

 この魔王は、戦争は無意味だと分かっていたらしい。


 だけど、一部のそれに反発する魔族達が、とある国を攻め滅ぼしてしまった。

 当然、アルフェミニカは指示に従わなかったその魔族達を粛清した。

 でも、各国はそれでは許さず、魔族を糾弾し、魔族の国と世界で戦争が始まってしまった。

 戦争となった以上、アルフェミニカには女王として、魔族を守る義務がある。

 アルフェミニカは魔族の国を常に勝利に導き、いつしか、魔族の国の王、魔王と呼ばれるようになった。

 魔王は、自分からは戦争をしかける事は無いが、攻めてくるのであれば、倒すしか無い。

 戦争は終わらなかった。

 そんな状況を憂いたこの世界の神様は、魔王討伐の為、僕が召喚された国であるディセルドに、勇者召喚の秘術を授けた。

 これは、召喚された時に、予備知識として、神様に聞いたから間違いない。


 神様は言った。

 魔王は悪くないかもしれないが、討伐して欲しい。

 彼女は、世界の人々を殺しすぎた。

 彼女が死ななければ、戦争は終わらない。

 今まで何人もの勇者が敗北している。

 もう、世界に力は無い。

 これが最後の召喚になる。

 だからなんとかお願いする、と。


 当然、僕は納得がいかず、そんなのは断ると言った。

 聞く限り、その魔王が悪いと思えなかったからだ。

 神様は必死に僕に頭を下げた。

 神様は、傲慢とは程遠い方だったんだ。


 そして、神様は言った。

『彼女が死んだら、その魂は必ず救済する。だからお願いする。』と。

 このままだと、世界は均衡が崩れて滅び、結局はみんな死んでしまうらしい。

 だから、僕は召喚に応じた。

 そして、ここまで来たのだ。

 この世界に召喚され、3年が過ぎた。

 神様から力を貰い、そして鍛え、仲間を作り、辿り着いたのだ。


 僕が、魔王に言った言葉に、魔王は微笑んだ。

 

「甘・・・い・・・男・・・め。泣く・・・で・・・ない・・・わ。だが、見事・・・だ・・・。お・・・前・・・達の・・・勝ちだ・・・妾・・・に・・・勝つ・・・とは・・・な。それ・・・に・・・優し・・・く・・・強・・・き・・・良・・・い・・・男・・・よ・・・。惚・・・れて・・・し・・・まった・・・ぞ。」


 僕はその言葉に、涙を拭う。

 

「・・・ありがとう。あなたの魂は、救済されるって神様は言ってた。だから、安心してね?」

「・・・ふ・・・ん・・・。ま、あ・・・よい・・・。も・・・う・・・時・・・間・・・が・・・無・・・い。お主・・・名は?」

「僕は、シュン。瀬尾 瞬せお しゅんって言うんだ。」

「そ・・・うか・・・」


 ニヤッと魔王が笑う。

 

「で・・・は・・・、シュン、さら・・・ばだ・・・最・・・後に・・・ちょ・・・っと・・・嫌・・・がら・・・せ・・・を・・・させ・・・て・・・貰う・・・ぞ。」

「え?」


 その瞬間、光が僕を包む。


「なんだ!?」

「それ・・・は・・・送還の・・・秘術・・・だ・・・くくく・・・妾が・・・惚れ・・・た・・・男・・・が・・・仲間の・・・おなご・・・と・・・逢瀬・・・する・・・の・・・は・・・許・・・せんから・・・の・・・かか・・・か」

「ええ!?逢瀬って・・・そんなわけ無いでしょ!?」


 魔王の言葉に驚く僕。

 何を言ってるんだよ!

 みんな僕を男としてなんか見てないって!!


「シューくん!?嘘でしょ!?」

「そんな・・・シュン様・・・行かないで!!」

「くそっ!シュン!ボクを置いて行くなぁ!!ボクと姫様も連れて行けぇ!!」

「アルフェミニカ・・・なんて事を!シュンくん!シュンくん!!」


 みんなが必死の形相で身体を引きずり近寄ってくる。


「みんな!!」

「・・・ふん・・・そら・・・見た・・・こと・・・か。・・・では・・・な・・・シュン・・・今・・・度は・・・戦いの・・・無い・・・出・・・会い・・・を・・・願・・・うぞ・・・」


 魔王は、目の前で笑顔で光となって消えた。


 ぼくの身体もだんだんと透けてきている。

 ・・・これは、お別れだなぁ。 

 僕はそれぞれに最後のお別れをする。


「クォン、今までありがとうね。」

「シューくん!ダメェ〜!!いっちゃやだ!!」


 泣きながら近寄るクォン。


「リリアーヌもありがとう。君のおかげで色々助かったよ。感謝します。」

「シュン様!シュン様!ああ・・・なんで・・・」


 同じ様に泣いているリリアーヌ。


「ラピス、みんなで仲良くね?後、リリアーヌを守って?今までありがとう。」

「ううう・・・シュン・・・なんとか・・・なんとかしろ!・・・なんとかしてよぉ!!」


 表情を歪めて涙を浮かべるラピス。


「泣かないでジェミニ。魔族のあなたはこれから大変かもしれないけど、みんなのお姉さんとして助けてあげて?今までありがとう。」

「シュン・・・くん・・・も・・・元・・・気・・・で・・・」


 もうどうにもならない事をよく知っている為、悲しそうに涙を流すジェミニ。

 

「みんな!大好きだよ!元気でね!!」

「「「「シューーーーーーーーーン!!!!」」」」


 そして僕はその世界から消える。

 目から出る涙はそのままに。


 こうして、僕は自分の世界に帰る事になった。

 そして、一ヶ月が過ぎた。

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