1-5 悪魔の囁き声
真の
余が師曰く、絶望と恐怖の奥底で溺れ、求めてもおらぬのにその口から悲鳴が零れ出すほどに自我を
これは魔術の道へと至る最初期の試練であり、師が課す修練は今をもって理解できぬこともままあるが、これにより余の歩むべき方角が示されたことは、今では感謝に
屍食鬼どもをその
貴殿がもし同様の観察を行うなら、掘り返されかけた墓土を慎重に埋め直し、余と
屍食鬼の存在は、
日々の営みの内を出ることなくその人生を終える彼らが、なんの
それが知るべき事ならば、時が来れば自ずと知ることになる。可能な限り平穏を保つこともまた、我らの職務である。
揺らめきを捉える別の屍食鬼が追ってこぬよう、墓場から森へ入った後に風の魔物を呼ぶのがよい。
その場に貴殿の血を五滴ほど垂らし、風上を向いて出来るだけ高い音で指笛を響かせれば、しばらくの後に風に運ばれてくる二、三の揺らめきが見えるだろう。彼奴等はありふれた霊であり、魂ある者の生気の名残を
彼奴等は、肉体から離れた生気しか喰らえぬ
時に屍から立ち昇る揺らめきも喰らえてしまうほど、大きな塊となった魔物が訪れることがある。これは人の身にとって大変危うき存在であるため、すぐにその場から立ち去るべし。
力が入らぬように、荒縄で木の根元に縛り上げた屍食鬼どもをよくよく調べてみると、その肌は
夜闇の中で獲物を見つけた屍食鬼は、その目が赤く輝くと聞いたが、今もってその兆候は見られない。
主に人を喰らうと語られているが、彼奴等は存外なんでも喰らう。生肉はもちろんのこと、
あの速さの根源である両脚は筋張っており、人で言うところの上腕骨、大腿骨辺りを砕いてみても、この様子なら四週程度で元のように動かせるまで回復するだろう。薄い切り傷や擦り傷は五日、深めのものでは二週もすれば
特に、二匹を並べていると、なにやら木々に留まる鳥の
集団を形成するものは、多くの場合”言語”を介して互いの意志を伝え合う。これも、おそらくは屍食鬼の持つ言語であるということに違いない。
傷を与える際には、二匹とも同様に「ジュジュウ」と聞こえるくぐもった音を繰り返す。これが痛みを表すものなのであろう。
また二匹を放置すれば、そのうち長めの音の応酬を重ねるようになる。「ミ」というぷつりと切るような短い音が言葉の頭によく聞こえるが、これはおそらく自身の事を指す言葉なのだろう。
犬猫と違い、音の種類が豊富なことは幸いであるが、ここからも人間に近しいものを感じ、憎悪の念がふつふつと湧き上がる。
彼奴等の言語を知れば、それもって彼奴等の意志を知り、その存在を根絶やしにするだけの知恵を得られるやもしれぬ。どこから来るのかを知れば、その手段を奪うことが可能となり、どこを目指すのかを知れば、前もって罠を仕掛けることも容易である。
本職のようにはいかぬが、しばらく推し進めることとしよう。
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