閑話 異世界リターンズ


 カレン達が私を探しているとも知らず……、私は眠りの中にいた。


 ――そして、目が覚めるとそこは……だった。

 

 窓から木漏れ日が差し込み、私の顔を優しく撫でる。木と土と新緑の匂いが心地よい。


 ん……もう朝かしら?昨日もカレンと雫3人で一緒に寝たのよね。一緒に寝ると暑くて狭くて、でもいろいろ気持ちいいのよね……。


 どうも今日の目覚めは何か違う。あるはずの物が無い喪失感。いつもならカレンが私に抱き着いているので、こんなに肌寒くはない。ましてや今日は雫も一緒なのだ。


「そうよ!カレン?雫?」


 ……ん?あら?ここは……あれ?どうして!?

 咄嗟に隣に寝ているはずの雫とカレンを探す。


「ええええ!?……なんで?どうして?……二人が居ないの!?」


 取り乱しながら、今自分のいる場所を再確認する。ログハウスのような質素な部屋には木製の簡素なベッド。壁際にある机には誕生日にシャルに貰った首飾り。立て掛けてあるのは、私の使っていた使い古しの短剣。


 ……と、いう事はここは


「……って!!何で異世界に戻ってんのよぉぉぉぉ!!!?」


「……え!?……カレンちゃん?」

「んぇ?」


 部屋に入ってきたのは、茶髪に猫耳が特徴の獣耳美少女のサーラだった。


「カレンちゃん!意識が……戻った?はっ!リーゼさん!カレンちゃんが!カレンちゃんが!」

 

 サーラは奥の部屋にいた銀髪のエルフ、リゼを呼んだようだ。


うるさい、サーラ。何?」

「カレンちゃんが、カレンちゃんの意識が戻ってて!」


「カレン?……起きた?そう……良かった」

「カレンちゃん、良かった、良かったよぉ」


 ……リゼとサーラには随分と心配かけちゃったみたいね。


「うん、心配かけてごめんね? ただいま。リゼ、サーラ」


 うん、私はどうやら異世界に帰ってきてしまったようね。でも、どうして契約が切れたのかしら?


 カレンとの契約が切れたら、元の世界に戻る事も出来ないのでどうしようも出来ない。


 また呼ばれたら戻ることになるかもしれないけど、こっちでの生活もあるし。


 次に元の世界に戻れるのは何年後、何十年後になるかも分からないので、今はなるべく考えないようにしないといけない。分かってはいるけど……。


 リゼとサーラとは一か月も離れていなかった気がするけど、顔を見ただけで懐かしさが込み上げてくる。


 リゼ、サーラとはもう結構長い付き合いだったわね。

 王国を脱出する際にリーゼモニカとシャルロッテが私の護衛に付いてくれたんだけど、サーラはその時に人攫いから助けた獣人だ。


 リゼはエルフなのでその縁もあり、ここエルフの里に家を構えて4人で住むようになった。


 あともう一人、魔法使いのシャルロッテがいるけど、依頼に出ている事が多いのであんまり家にはいない。


「私はどのくらい寝ていたのかしら?」

「3日?くらい?」

「もう、起きないんじゃないか?って、心配、したよ?」


 おかしい、あっちに召喚されてからまだ3日しか経っていないってこと?

 召喚されている間は時間の流れが遅くなる?

 それに、あっちの世界に召喚されているのに、体はこっちの世界で寝ていた?

 意味が分からない。向こうの世界に行っていたのは精神だけで、顕現していたって事?


「そう、心配してくれてありがとう。サーラ」

「カレンちゃんの心配するのは、当たり前にゃ。サーラは、カレンちゃんに助けられたから」

「そうなの?いい子ねサーラ。大好きよ」

「だ、大好き?……そうにゃ。サーラもカレンの事大好きにゃ」


 猫耳獣人のサーラは緊張したり興奮すると、このようにたまに猫語になる。サーラはまだ幼いので大好きと言っても友達としての大好きだと思う。恋愛とかしてなさそうだし。

 エルフのリゼは。お話しするのが得意じゃないんだけど、あれでいてSランク冒険者なんだから人は見かけによらないって感じよね。


「リゼも、リゼも、いっぱい。心配した」

「うん、リゼもありがとう」

「その……、リゼも……カレンの事」

「好きでしょ?言っちゃいなよぉ」

「な!?ちが、いや違わ……ない」

「リゼも大好きよ」

「うん、本当に、良かった」


 この二人に大好きって言ったのは今日が初めてだわ。なんでかしらね。召喚の影響なのかしら?それとも、ずっと会えなかったからの反動?


 出会った頃はこの二人と一緒に住む事になるなんて、考えてもいなかったし。



 ――私は、2年前に異世界に来たばかりの頃の事を思い出していた。


 そう、あの時は異世界に転生したのだと勘違いしていたんだった。



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