死因に関する謎

死体検案書

『その他及び不詳の外因』


お母様

『自閉スペクトラム症の薬の影響でウトウトしてしまった時』


爽彩さんの死体検案書

『薬物血中濃度は治療域』


 前回、薬について検証した。

 爽彩さんは元々、自閉スペクトラム症の薬を服用していた。

 そこに加えて、PTSDの薬を服用していたのか、或いは薬自体を切り替えたのか、詳細は不明である。

 しかし、いずれの薬にしても、多くの場合に、ガイドには以下のような記述がある。


『危険作業は中止……本剤を服用すると、眠け、意識レベルの低下・意識消失などの意識障害がおこることがあります』


 死体検案書では、外傷なし、窒息なし、疾病なし、と記載されている。

 死因については、『自殺か事故死か』は判断出来ない状況だ。

 『薬物血中濃度は治療域』なので、処方されていた薬を普通に服用していたと考えられるようだ。


 死因と場所に関しては、未だに自殺か他殺か論争が続いている。

 しかし、薬の副作用という要素を考えると、不慮の凍死という線も、充分にあり得るように思える。


 2月13日に、通常通り薬を服用する。夕方に上着を着ないで出かける。-1.8℃(アメダス)の低温下で、薄着で歩き回る。ウォーキングやトレーニング後の体温低下で眠くなるのは広く知られている。

 薬の副作用、冬の旭川での低温、そして歩いた後の体温低下といった条件が重なり、眠り込むことによって、そのまま凍死に至ったのではないだろうか。


 ちなみに、文春オンライン及び本の中に、『2021年2月13日、マイナス17度の極寒の夜に失踪するまでの』とあるが、これは近親者が証言された、深夜の話である。

 失踪時の気温が、-17℃と氷点下付近とでは、話が大分違ってくる。氷点下付近だと、上着を着ていなくても、何とかならないことはないであろう。


 『薬物血中濃度は治療域』だとすると、条件にもよるが、薬を服用してから亡くなるまで、それほど、日にちが経っていないと考えるのが妥当である。

 もし何週間も誰かに連れ回されていたとすれば、その間、律儀に薬を服用していたということになる。処方自体が二週間分くらいだろうから、その間に病院で受診しなければ、薬は入手出来ない。

 自宅から薬を持ち出していないとすれば、失踪後1日~2日で亡くなったと考えるべきであろう。


 薬の処方記録。

 自宅に残された薬の量。

 本人が所持していたかどうか。

 これらの点を検証することで、陰謀説を払拭出来るのではないだろうか。


 薬物血中濃度と、薬を服用した時刻から、死亡時刻を推定することは可能だろうか。


 眠ったまま亡くなったとすれば、それほど苦痛は感じなかったであろう。

 彼女が最期に見た夢が安らかなものであったことを願うばかりである。

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