第6話
「完治だね!」
「はぁ・・・。」
「言ったでしょ!私の手に掛かればすぐに退院出来るって!」
「・・・そうですね、今までどうも。」
この病院での生活から一か月半経ち、すっかり体力が戻った僕は退院宣告をされた。ようやくここから抜け出せる。これで二度とあの医者の顔を見ずに済む。
僕はさっさと診察室から出て、自分が使っていた部屋へと戻った。部屋に戻ると、月山薫が僕の荷物を整理して待っていた。荷物と言っても、財布と携帯しか無いが。
「あ・・・勝手にごめん。」
「いいよ。」
僕は携帯と財布をポケットにしまい、部屋から出ていく。病院の通路を歩いて行くと、月山薫が僕の隣に歩み寄り、チラチラと僕の表情を伺っている。
「・・・何ですか?」
「え?あ、えと・・・明人とこうして一緒にいられるのも最後だなーって・・・。」
「は?どうしてそうなるんだ。」
「だって・・・今まではお見舞いって言う理由があったから・・・。」
「・・・そっか。」
理由が無ければ会えないのか?と言いかけたが、なんだか僕が会えなくなって寂しいと思われそうで言えなかった。
今日までの間、彼女はほぼ毎日会いに来ては、僕の話し相手になってくれていた。会話は毎回盛り上がりはしなかったが、彼女が隣にいてくれたのは正直助かった。あの部屋は僕だけが使うには広すぎる。そんな部屋でずっと一人では、孤独感が強まって鬱になりかねない。
だから、孤独だった僕に毎日会いに来てくれたのは助かった。一言でも、ありがとうと言葉にすればいいが、どうにも口に出す事が出来そうにない。
そう考えている内に、僕達は病院の外へと出ていた。
「それじゃあ・・・その・・・。」
彼女は俯いたまま、その場から一歩も動こうとしない。何か言いかけているようだが、言葉が見つからないのか、ボソボソと何かを呟くばかりだ。
「・・・僕の家、分かる?」
「え?」
「久しぶりだから家の場所が分からなくなった。だから、もし知っているなら、案内をしてくれないか?」
自分が言った事に驚いた。なぜなら、自分の家なんて憶えているからだ。つまり、僕は彼女に嘘をついた。
どうしてかは自分でも分からない。僕の心の何処かでは、彼女とまだ別れたくないとでも思っていたのだろうか?
「うん!こっちだよ!」
さっきまで暗い表情のまま俯いていたのに、彼女は満面の笑みを浮かべながら僕の前を歩き始めた。その後に続くように僕も足を動かし、彼女と隣合わせで歩いて行く。
道を歩いて行くと、自分の知らない建物や道が出来ていたのに驚いた。
「ここ、前まで何も無かったはずだったが。」
「少し前に出来たんだよ。ここら辺、明人が知らない内に結構変わってるからね。」
なんと・・・彼女に声を掛けず、一人で家に帰ろうとしていたのなら、もしかしたら今頃途方に暮れていたかもしれない。彼女に声を掛けたのは正解だったようだ。
「あ、けどね。変わってないのもあるよ。」
そう言って、彼女が案内する道に従って進んでいくと、森の中に入る落ち葉まみれの階段の前に行き着いた。
「どこに行くんだ?」
「行けばきっと思い出すよ。」
正直、行きたくない。だけど、この階段を上った先に、大切な何かがある気がしてならない。
陽はまだ上っているし、このまま家に帰っても暇な時間が出来るだけだし、行ってみようと思った。
彼女が先に上っていき、少し遅れて僕も階段を上っていく。上れば上る程、周りの木から落ちた落ち葉で階段が見えなくなり、途中転びそうになる事が何度もあった。それでも階段を上り続け、遂に上りきった。
そこは広く開けた場所で、その中央に廃れた神社が建てられている。
「こんな所に神社?」
呆然と神社を見ていると、誰かが僕の隣を通り過ぎて行ったような気がした。月山薫が通り過ぎたのかと考えたが、すでに彼女は僕の隣に立っている。
その時、神社の方から鈴の音が聴こえてきた。
「今の聴こえたか?鈴の音が–––––」
すると、また鈴の音が神社の中から聴こえてくる。僕は神社の方へ歩いて行き、扉をゆっくりと開いていく。
中は特に荒らされてはいないが、畳が腐りかけていて、天井には穴が開いている所もあった。
そんな中、一際目立つ物が、その奥に置いてあった。それは棺桶の様な錠前が付いた木箱。その木箱に近づき、手を当てると、中からあの鈴の音が聴こえてきた。
「なんだ?」
木箱を開けようと錠前に手を近付けていくと、触れてもいないのに錠前が床に落ちていった。
恐る恐る、箱を開けていき、ギ―という耳障りな音を立てながら箱が開けられていくと、箱の中身を見た僕は思わず声を失った。
箱の中には玩具や本が詰め込まれており、その中央に置いてあったのは、誰かの頭蓋骨であった。
いや、僕はこの頭蓋骨を知っている。けど、それは絶対にありえない事なんだ。
だって、この頭蓋骨は、夢の世界に存在する澪の物であるからだ。
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