第25話
「」
「喋れないわね。喋れるわけないか。あなた、ここに来た理由、わかる?」
「わかりません」
「ここの店先にある花は、国で未認可の成分を含んでいるの。精神に作用して、ちょっとした催眠効果を起こすのよ。いずれ軍事転用されるかもしれないからって、私に調査の依頼が来たの」
「」
「普通の人間では精神的に耐えられないような、圧倒的なストレスにさらされている人間。しかし、そのストレス下でもなんとか自我を保ち冷静な思考を行える人間。そういう人間が、引き寄せられる効果よ」
「早い話が、強い人の強い悲しみを引き寄せるの。そのひとの磁覚に影響を及ぼす、と言っても分からないか」
「いえ。分かります」
「そう」
「わたしが、ここに来たということは。彼も、いつか」
「ストレスが耐え難いものになったら、来るでしょうね。そして、死ぬ」
「そんな」
「それが普通よ。この成分に引き寄せられている時点で、死んだほうが幸せなほどの苦しみだってのに」
「」
「あなたも、生きているのがつらいでしょ。うまく話せないのに地頭が良いとか。地獄以外の何者でもない」
「たしかに、つらいです」
でも。
「」
言葉が出てこない。
でも。
笑うことぐらいは、できる。
「あら。いい笑顔じゃないの」
「これが、わたし、です」
「いいわね。いい笑顔。客寄せになるわ。店先に立って、にこにこ笑ってなさい。いつか、彼が来て死ぬ、そのときまでに」
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