第2話 面接官が派手過ぎる!このバイト大丈夫?

解雇になった当時、ショックは大きかったが、速攻雇用保険、俗に言う失業保険の手続きをし、しばらくの生活費は確保できる事となった。お互い今住んでいるマンションは引っ越さなければいけないため、由奈と話し合い、一緒に住んで家賃を節約させることに決めた。でも、無職だとボロボロのアパートだって貸してくれないかもしれない。失業保険が切れる前に何としてでも、仕事を確保しておきたかった。悲しんでいる暇もない。これが一番きつかった。感情を押し殺して現実に立ち向かう。何だか私、人生で一番必死かも。



バイトをするのは大学生の時以来だ。あの頃は旅行に行く費用を稼ぐために、ありとあらゆるバイトを経験した。事務系のバイトもやったが、カフェやイベントのバイトなど実際に体を動かしたり、人と接する仕事の方が楽しかった。でも、今はコロナ禍。飲食店やイベントのバイトはほぼないだろう。散々色々なサイトや、検索をかけた結果、これいいかも?という求人をみつけた。



バイトの条件は決めていた。まず時給が良いこと。これは当然の条件だった。そして、精神的に負担のない仕事。以前勤務していた旅行会社「TOKYOトラベル」で、

店舗の接客をしていた頃の悪夢の経験からきている。事故のように時々起こるクレーマーからのネチネチした攻撃。10回来店して散々相談したあげく、結局今回は予算が合わなく取りやめます、と連絡してくるお客。まだ連絡してくるだけならましだ。散々情報だけ提供した後、突然連絡が途切れることもある。それだけではない。売上にも日々追われていた。だから、バイトなんだから何も考えずにできる、その日の仕事はその日で完結のような仕事を希望した。



それともう一つ。長時間働かなくてよい仕事が条件。確かにお金には困っているかもしれない。だが、東京トラベルで勤務していた2年間は、コロナのリモート時期を除いて、散々残業をしてきた。旅行の仕事はとにかく細かい。確認事項が山のようにある。気づいたら夜9時、10時まで残業の日々が続いた。もう、長時間勤務はしたくない。コンビニ飯生活はもうやめたい。怠け者になったのではないと思う。昔がおかしかったのだ。コロナはそういった既存の概念がおかしいところを気づかせてくれているのだ。



そんな中、私はとある清掃派遣会社の求人広告を見つけた。時給が1800円プラス交通費支給という破格の金額に目が惹きつけられた。「これ、マジ内容エグいかもだけど、ちょっと行ってみるか」と、すぐに連絡したところ、明日面接となった。



その会社は見た目は本当に普通の新宿の雑居ビルにあったが、中に入ってみるとものすごくお洒落な内装だった。汚れ一つない白を基調をした、ミニマリズムのような空間には会社というイメージがなく、ますますこのアルバイトに対して猜疑心が起こってきた。何だか怪しげな会社に見えたのだ。



5分ばかり通された部屋の観察をしていると、ノックをしてその男が入ってきた。容姿が強烈だった。髪は短かったがお洒落にアレンジされている。髪色はかなり明るい茶色だ。スーツは濃い紺色と色は地味だったが、いかにも高そうな品質のよい物であるのはファッションに余り興味のない私にでもわかった。ネクタイやシャツもものすごくセンスが良い。そして、何より、顔だ。顔がメチャメチャ良いのである。ちょっと甘めではあるが、嫌みのない、万人に好かれるタイプのイケメンだ。近づいてくる時、爽やかな、でも上品な柑橘系の香りが漂ってきた。年は30位か。もっと若いかもしれない。



「これが掃除の面接?この会社おかしくない?」と思ったとたん、目の前のオーラに満ち溢れた男が微笑んだ。「これは、何だか悪い仕事かもしれない。」満面の笑みにちょっとドキドキしたが、私の警戒モードは高くなっていた。



「今日は、面接に来て頂きありがとうございます。私はマネージャーの達木たつきと申します。宜しくお願いします。」

達木さんは、私の経歴などを簡単に聞き、テキパキと仕事の説明をした。かいつまんでいうと、海外からの帰国者の待機期間に利用されているホテルの清掃者を募集していた。コロナ感染を恐れてか、余り求人に反応がないという事も言っていたが、ホテルに宿泊しているのは感染者ではなく、あくまでも陰性者である旨を強調していた。宿泊客との接触もなく、マスク、手袋、作業着、何ならバスルームの掃除用にゴーグルも用意しているらしい。



過去2年間の社会人生活で、色々な上司や先輩を見てきて、仕事ができる人の特徴というのが何となくわかってきた。説明が完結でわかりやすい。判断がすばやくきっぱりしている。これは、まず2大条件な気がする。達木さんは、見た目は超派手であったが、話し方に説得力があり、とてもわかりやすい説明をした。「へー、この人、案外できる男かも。」と納得しながら聞いていた。仕事内容も、ホテルの部屋を掃除するだけだし、時給もいいし、交通費の心配もなく、差し当たってするには悪くない気がしてきた。だんだんやってみようかな、からやってみたい!に心が傾いたのは、達木さんのおしつけがましさのないアピール力が、とんでもなかったというのも理由の一つだ。私だけじゃなく、この人に面接された女子は誰だって心地よくなれそう。



「じゃあ、黒崎さん、明日から宜しくね。」

面接が終了し、私が明日から勤務を決意すると、達木さんは敬語ではなくて、タメ語でこう言った。またビッグスマイル付き!これは、ちょっとだけキュンとした。とにかくカッコよすぎる。こんな派手な男はタイプではない、でも美女に微笑まれて悪い気がしない男性がいないのと同じで、オーラに満ち溢れるイケメンに宜しくね、と言われて嬉しくない女子もいない。



それにこの仕事は、一日6時間位で終わるらしく、4時頃にはすべて終了できるとの事だった。帰途、私はこう思った。

「この仕事、悪くないっすね。」

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