第6話・飲酒のセオリー
「急な飲みの誘いで申し訳ない。君とは一度ゆっくり話をしてみたかったんだ。それに元部下の様子も気になっていたものでね」
「いや、気にしないでくれ。俺も同じだ。誘ってくれて非常に感謝しているんだが......なぜ首領秘書の彼女がここに?」
秘書Kこと
「私だって別に来たくて来たわけではありません。せんぱ......
基地内でしている闇落ちした魔法少女のような服装ではなく、白のニットにブラウンのロングスカートの組み合わせ。髪を降ろし、シンプルな黒縁メガネがまた違った意味で幼さを引き立てている。
「好美だってもう二十歳なんだから、少しはこういう場に慣れておいた方がいいかなっていう、姉心的? みたいな?」
ビール一杯目からもう既にテンションの高い雪那が、枝豆をむさぼりつつ答える。
この二人が繋がっていることに驚いたが、まさか知り合い同士の関係だったとは。
「まぁいいじゃないか。K君とも一度飲んでみたかったし、私としては何の問題もない。むしろ一石二鳥だよ」
くさいセリフのはずなのに、ルークギンが言うと不思議とそんな風には聴こえなかった。
まだ飲み会が始まって10分も経過していないというのに、節々に表れる性格の良さ。それでいて妙な色気もあって......これは帝国内で人望が多いのも頷ける。
「雪那も相変わらず元気そうで、結城君に迷惑はかけていないかい?」
「何言ってるんですかルークギン様、生後一ヶ月半の
この”ドSバカ”のせいで俺はこれまで何度味方の怪人を救い損ねかけたことか。
隣で元上司に自信満々に宣言してる横っ面をひっぱたいてやりたい衝動に駆られたが、ここは我慢だ。
思考をクールダウンさせる意味で俺はハイボールを一口飲む。
「雪那には大変世話になっている。特に店舗での業務、スタッフの中でも一番若いのにしっかりしていて優秀で、良いムードメーカー的な役割を果たしている」
俺はお世辞マシマシでこちらでの雪那の様子を語った。
「そうだろう。雪那は軍団内でも人気があったからね。中でも私の両腕、
ルークギンの苦笑いに吊られて俺も苦笑いを浮かべる。
......そちらでの雪那の仕事の評価について何も答えていないのは、とりあえず無視しよう。
氷柳と炎氣とは、おそらく彼と以前基地内で会った時に両サイドにいた赤鎧と青鎧をまとった怪人のことかと。
すれ違いざまに二人揃って親の
「あの兄弟、昔から好き好きアピールが強すぎて。いくらフっても諦めてくれないんで、正直今回の移動は凄く助かってるんですよ~」
「私としてもあのままの状態が続くことは軍団としても好ましくなかった。そこに期待の新戦力のサポート役への人事の募集だ。利用する手はないじゃないか」
冷酒の入ったおちょこを小さく俺の前に掲げてぐいと飲む。
「......帝国内でそんなことが......早速明日、首領に報告します」
「いや報告しなくていいから。報告されたら恥ずかしさでその二人、何しでかすかわからないからな?」
三人の会話に置いてきぼりにされていた好美がようやく口を開いた。
黙ってずっとカシオレを飲んでいたその瞳は、すっかりとろんとしていて酔っぱらっている。
完全にお酒初心者がやってしまう失敗の沼にハマってるなぁ......大丈夫か?
「――というわけなんだ。だからもしも彼らが雪那に強引に何かしようとしたら、その時は守ってやってくれないか?」
「......俺にあんたの部下の
「粛清とはまた物騒だな。二度とお痛が過ぎないよう、ちょっと戦闘不能に追い込んでほしいだけさ」
「......あんたの方が余程物騒だろ」
にっこりと微笑んだキツネのような表情とは対照的に、その言葉には鋭さが見え隠れしている。
長年帝国を支えている軍団の一つの長だけあって、飴とムチの使い方は一級品なわけか。
差が極端だけど。
「よろしくお願いしま~す。あいつらに襲われたら位置情報送るんで、すぐ空間転移して助けにきてね~」
「俺の空間転移をストーカー対策みたいに便利に使うな」
お通しの豆腐料理を食べながら、雪那は軽いノリでボディガードを依頼してくる。
......雪那のこと、厄介払いしたくて俺の方に回したんじゃないよな?
「すいませぇぇぇぇぇぇん! カシオレお代わりぃぃぃぃぃぃ!」
ろれつの怪しくなってきた好美が通路側にいる店員に向かって呼びかける。
......この子、本当に一体何しに来たの?
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