第5話・プロジェクトN(飲み会)の罠

 今日はプレミアムフライデー。

 いつもの華の金曜日に比べて、居酒屋の中は多くのサラリーマン客達で賑わいをみせている。


 そんな騒がしい店内で唯一、”この席だけ”は異質な雰囲気が漂っていた。

 個室の座敷にテーブルを挟んで、俺達の前に座っている二人。男の方は基地の中で数回挨拶して程度で、お互いこの姿で会うのは初めて。

 もう一人の女の方は......初対面で人を強制シャットダウンさせた因縁の女、改め首領秘書Kこと好美このみ

 この合コンのような状況に何故陥ったのか、全ての始まりは三日前のことである。







「――あの五人組、久しく見ないうちにいつの間にか七人にメンバー増やしてたんだ。でも追加するなら普通ゴールドかシルバーでしょ。なんでシアンとかスカイブルーなんて被りそうな色を入れるかなぁ」

「従来とは違う奇抜な発想で他と差別化を図りたかったんだろう。着眼点はあながち間違ってはいない」


 俺お手製のミートソーススパゲティを食しながら、雪那ゆきなはテレビモニターの画面にツッコミを入れる。

 戦闘があった週は必ず、こうして俺の家に雪那は分析会という名目で夕飯をたかりにくる。

 まぁ、こいつは戦闘現場に出ることはほとんどないので、一方的に俺かヒーロー達へのダメ出しになるのが当然なわけで。


「まだ未確認情報だが、追加メンバーはどうやらあと三人いるらしいぞ」

「え、ウソでしょ? だったらもう一組チーム作れちゃうじゃん! 十人で一人の怪人をフルボッコとか......どっちが悪役なんだか」


 流石に一人の怪人相手に十人はないと思いたい。

 だが人間にとって正義とは、どこまで残極なことをやっても許される”免罪符めんざいふ”。

 ヒーローだってその例外ではないと考えると、悪の戦士に生まれ変わった特撮オタクの俺は複雑な心境になる。


「ヒーロー側にもいろいろ都合があるんだろう」

「都合ねぇ......定期的に確実にパワーアップできる連中の都合なんて興味ないかなぁ」


 雪那は首を傾げて、サラダの付け合わせのミニトマトをフォークで刺し、口に入れる。


「私はさ、強化アイテムや強化改造で強くなる奴があまり好きになれないんだ。男だったら特訓してピンチを乗り越えてみろっての。だから白亜はくあ、新キャラブーストが完全に終わる前に今からちょっとずつ特訓しようか?」 


 含みのある笑みを浮かべながらこちらに視線を向ける。

 おかしいな、雪那はあくまで俺のサポート役で決してお〇っさんポジションではないはずなんだが。

 嫌な予感しかしないので、俺は視線を自分のミートソーススパゲティの方に外し、麺をフォークにぐるぐると巻き始めた。


「鉄球にする? それとも人里離れたお寺で100人組手でもする?」

「それ全部ヒーロー側の特訓じゃねぇか」

「バレたかー。じゃあここは悪の戦士っぽく身内に手伝ってもらいますか」


 いや、至極当然な特訓方法にみえてそれ死亡フラグ立つやつだから。

 心を入れ替えて二度目の再戦に挑むも、虚しく父上の前で消滅しちゃうから。


 海外のとある国で国民的人気のある特撮番組のことを思い出していると、雪那のスマホからメッセージアプリの着信音が鳴った。


「――噂をすれば身内からだ」

「指令か?」

「ううん。元上司からなんだけど、今度の週末に一緒に飲みませんかだって」

「なんだ飲みの誘いか」

「そうなんだけど......」

「どうした?」

「......できれば白亜、デモンギャランも連れて来てほしいみたい」

「俺も? なんでまた?」


 雪那の元上司「武鎧軍団ぶがいぐんだん」の軍団長「ルークギン」は帝国随一の剣の使い手にして、ナンバーワンの実力を持つ凄腕の戦士。

 かなりの人格者でも通っており、所属する団員の数も軍団の中ではもっとも多い。

 そんな帝国のスーパースター様が俺に会いたいとは......俺も有名になったものだ。


「どうする? 嫌なら断るよ」

「――いや、仕事終わってからで良ければと伝えてくれ」

「了解。そう伝えておくね」


 慣れた手つきで雪那はメッセージを秒で打ち込み送信する。


 俺のこの世界でのミッションはあくまで首領秘書をNTRすること。

 だがそれはとんでもなく危険な行為で、首領に気づかれれば最悪抹殺される可能性だってある。 

 どんな結果になるせよ、念には念を入れて自身の味方を少しでも増やしたほうがいい。

 ルークギンがどんな思惑で俺を飲みに誘ったのかは謎だが、こちらも利用させてもらうことにしよう。


「オッケーだって。......あ」

「今度は何だ?」

「もう一人誘っていいかな? 女子が私一人じゃアレだし、どうせならもう一人女子がいた方がいいでしょ?」

「俺は構わないが......もちろん関係者だよな?」

「当たり前でしょ。誰が来るかは当日までのお楽しみってことで」


 片方の頬にミートソースを付けて爽やかに微笑えむ雪那に、俺は若干の嫌な予感を感じとった。 







 ――とまぁ、こんな流れがあって現在に至りまして。

 涼しそうな微笑みを浮かべた年齢不詳の男と、睨みをきかせた可愛らしい小娘を迎えて

、とても愉快な飲み会が始まろうとしていた。


 あぁ.........なんだこれ。チャンスのはずなのに.........全然そんな気がしない。

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