第7話・相棒、帰る

 飲みの時間は二時間くらいでお開きになった。

 組織の中での人間・怪人関係、まだ対峙たいじしたことのないヒーロー達の特徴や弱点等も知ることができて、なかなか有意義な時間を過せた。


「すまないが、そろそろ私はお先に失礼させて頂こう。雪那ゆきなのこと、よろしく頼んだよ」


 夜の11時を回った頃、終電が近いのかルークギンは俺達を残し、一足先に居酒屋をあとにした。 

 去り際にじゃあ割り勘でお会計をしようと財布を取り出そうとするも「会計ならもう済ませてあるから」とだけ言い残した背中に、俺の心は不覚にもズキュンときてしまった。


 アンタ......アンタカッコイイヨ!!


白亜はくあはこの後どうする~? 他の店で二次会やる? それとも白亜の家で飲む~?」


 まだ飲み足りないって顔で、雪那は俺の肩に手をかける。

 テーブルの上にあった料理のほとんどがこの女の胃袋へと消えていった。居酒屋の料理というのは一品あたりそこまで量が多くないのが一般的。だというのにこの腹ペコ青蟲は次から次へと調子に乗って注文してくれちゃって......ルークギンが払ってくれて本当に助かった。


「そんなことより......彼女どうするんだよ」


 俺の視線の先には座布団を枕代わりにして気持ちよさそうに眠っている20歳の幼女。

 結局好美は俺達の会話にまともに交じることもなく、気づいた時には一人勝手に酔っ払

い寝落ち。飲み会でお酒デビューしたばかりのうぶな女子大生か。


好美このみ~、起きろ~」


 雪那は指で好美の頬を数回つんつんすると、急に真剣な表情を浮かべ。


「ヤバイ白亜......」


 震えた声で俺を見つめる。

 ――ひょっとして、息してないとか!?

 NTRする前にターゲットご臨終なんて笑えない冗談なんですけど!?


「............好美のほっぺた、超気持ちいい! 赤ちゃん肌ってヤツだ! 白亜も触って

みなよ!」


 .........こいつ、今から空間転移の狭間はざまに置いてきてやろうか。

 にしても、隣で雪那がやかましく騒いでいるというのに一向に起きる気配がない。

 仮に起きたとして、果たして無事に一人で家まで帰れるのかも心配だ。


「お前、彼女の家の場所知ってるか?」

「知ってるけど。ひょっとして白亜、好美を家まで送る気でしょ~。そして好美にあんなことやこんなことなんかしたりして〜。あ~いやらし~」


 馬鹿にしたような目つきで、口元に手を当てながらぷぷぷと笑う。


 .........この酔っ払い、女じゃなければ光の速さでぶん殴りたい。


 でもとにかく今は我慢して話を進めよう。


「知ってるなら早く教えろ。ていうかお前も一緒についてくるんだよ。俺一人だといろいろ気まずいだろうが」

「了解~。でもその前にトイレ行ってきたら? 話しに夢中で白亜、一度も行かなかったじゃん」


 確かに。雪那の言う通りだった。

 彼女の家がここからどの程度かかるかわからないし、彼女を背負った状態でトイレに行きたくなったらちょっと面倒だ。

 珍しく気の利く雪那の言葉に不審な引っかかりを感じながらも。


「そうだな。俺がトイレから帰ってきたらすぐに店出るから、それまでに少しでも酔いを覚ましておけ」  

「は~い」


 そう言って俺は素直に席を立ち、体内に溜まったアルコールを輩出するべく男子トイレに向かった。







 数分後。

 トイレから戻って来ると、個室には好美のみで雪那の姿は無く、代わりに俺のスマホにメッセージアプリの着信が届いていた。


『急な用事を思い出したので帰ります。あとのことはよろ~☆  雪那』


 あの女............今度会ったら絶対空間転移の狭間に不法投棄してきてやる!

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