第84話 提案、結論、一番の収穫

「そこで提案なんだけど、冒険者ギルドにこの話を伝えて冒険者ギルドからパーティーを派遣してもらおうかと思うけど、どうかな?」

「おん?俺達がやらないって事か?」

「別にギルが参加してもいいと思うよ。でも早めに冒険者ギルドには伝えておく必要があると思うから、そのついでに依頼しちゃってもいいかなって」

「ふーん、そんなもんか」


 ギルは良くわからんといった様子で腕を組んでいるが、確かにこのダンジョンはそもそも人が来てくれる事が前提だ。

 そのためには宣伝も必要になるんだが、主なターゲットは冒険者。

 ならば冒険者ギルドに早い段階で介入してもらうのはかなり現実味のある話であるように思える。

 俺としてもその方が店の影響も少ないので助かるところではある。

 が、アリアはそうでもないらしく、ちょっと不満げだ。

 

「えー、せっかく面白そうな事に一枚噛めると思ったのにぃ」

 

 店としてはアリアが抜けられるのは中々に痛手なのでできれば参加してほしくないところではあるんだが、アリアが残念に思う気持ちもわからんでもない。

 

 正直なところを言えば、店の事を考えなければ、という前提付きだが俺も少し面白そうだと思っていた。

 今まで潜ってきたダンジョンの経験をもとに、自分でダンジョンを構築することができるのは楽しそうではある。

 まぁ俺達はテストなわけだから自分で作る訳では無いが、俺達の意見を全く取り入れないのであればテストをする意味も無いので多少はダンジョンの運営に口を出せるということになる。

 どの位置に罠を仕掛ければ効果的か、どういった部屋の構造ならば冒険者が戦いづらいか、通路はどうする?モンスターの配置は?

 うん、考えれば考えるほど楽しそうだ。

 ……店、休んじゃおうかなぁ。

 

「別にテストに参加してもいいと思うよ。まぁクラウスが許可すれば、だけど」

「やっぱそうなるよねぇ。うーーーーーーーん……やっぱ止めとく」

「おや、ちょっと意外だね」

「クラウスには世話になったし、マリーやクロンちゃんに負担押し付けたくないしね」


 おぉ……あのアリアがこんな殊勝な言葉を口にするとは……。

 うん、やっぱり参加は止めておこう。

 

「話、まとまった?」


 4人の会話が途切れたあたりでヴィオラが入ってくる。

 あぁなんかこっちだけで盛り上がっていて申し訳ない。

 グラシエラスとかあくびしてるし。

 

「ダンジョンのテストはカーネリアの冒険者ギルドにお願いしてみることにしようと思うけど、大丈夫かな?」

「ん……本当はクラウスとアリアにお願いしたかった。罠の対応、二人が一番上手い。でも無理は言わない。冒険者ギルドにお願いするので大丈夫」


 アリアはともかく、俺レベルであれば探せば居るだろうから大丈夫だぞヴィオラ。

 流石に本職のスカウトには勝てない……と思う、多分。

 

「よし、なら細かい話は後ほど僕とヴィオラでしようか。テスト以外にも色々と話したいことがあるからね」

「今此処じゃダメ?」

「唐突に連れて来られたからね。一旦戻って状況の説明をしたいし、何より待ってる皆が心配するから」

「ん、わかった」


 そういえば、マリーとクロンには冒険者ギルドで会議に参加してくるとしか言ってなかったっけ。

 大分時間を掛けてしまったし、心配しているだろうなぁ。

 クロン当たりは案外けろっとしてそうな気もするけど、早めに帰れるならば帰るに越したことはないか。

 

「そういえば、帰りも転移魔法で送ってもらえるのか?流石に歩いて帰るには装備品が心もとないぞ」


 帰る、という話になってから気づいたのだが、グワース山から歩いて帰るのは一苦労だ。

 何より、普段からグロウフラムを持ち歩いているギルを除き、ほぼ丸腰なんだ。

 ちゃんと装備を整えればグワース山はそれほど危険度が高い場所ではないが、流石に丸腰ではどうにもならん。

 

「転移魔法は魔力を感知できる場所じゃないと無理。誰かの魔力か、魔力で目印を付けた所しか飛べない」

「おいおい、歩いて帰れってか?流石にそれはだりぃぞ」

「大丈夫、街の近くにベベルが目印付けてくれてる。そこに飛ばす」

「おうおう、何だよ、それを早く言えって」


 一瞬ヒヤリとしたが、大丈夫そうだ。

 そういう重要な事は早く言って欲しいのは俺も同意する。

 ふむ、そうなるとダンジョンから強制転移させられた人の対応もしっかりと考えないとまずそうだなぁ。

 ……ま、その辺はリカルドが上手くやるだろう。

 俺ができるのは、恐らく増えるであろう冒険者に向けて店の対応をしっかりすることだな。

 

「ふむ、どうやら話が纏まったようだな」


 と、さっきまであくびしていたグラシエラスが尊大な態度でそう口にする。

 ……いやそれ、さっきヴィオラが言ったのと全く同じだからな?

 

「グラシエラスがダンジョンの主なんだろ?もう少し話に加わっても良かったんじゃないか?」

「ふははは!主たるもの、配下がやることに、任せる、と口にする事こそが役割というものよ!」


 完全に人任せ状態なグラシエラスに思ったことをそのまま口に出すと、殊勝な態度の一つでも取るかと思いきや、堂々と胸を張ってそう言い放つ駄ドラゴン。

 あながち間違っていない意見ではあるのだが、先程の駄ドラゴンっぷりを見るに単純にめんどくさいだけなんだろうなと思ってしまう。

 うーん、これがあの、俺達が死を覚悟する程の強さを誇っていたドラゴンなのかぁ……。


「それでは皆様、私が送らせて頂きますので先程のように集まって頂けますか?」


 グラシエラスの完全丸投げ宣言にも動じていない様子のベベルがそう切り出す。

 魔族の寿命ってどんなもんか知らないが、多分付き合いも長いのだろう。

 慣れたものだなぁ。

 此処に来た時の様にベベルの周囲に4人が集まると、前と同じ様に口の中で小さく言霊を紡ぐベベル。

 彼の詠唱が終わると同時に足元に大きな魔法陣が展開され、部屋を明るく照らし出す。

 

 一先ず、ドラゴン騒動はこれで一段落付きそうな感じはする。

 まぁまだグラシエラスが来たことによる余波に対処する必要はあるだろうが、それでも一番大きな問題が解決出来たのはいいことだ。

 こうして巣まで足を運んだ甲斐があったというものだ。

 それに……

 

「ん?」


 ヴィオラへと視線を向けている事に気づいたのか、ヴィオラがこちらへと視線を合わせて小首を傾げる。

 

「俺とアリアはカーネリアの酒場で働いてる。走る子馬亭って酒場だ。街に来ることがあれば是非寄ってくれ」

「ん、分かった」

「久しぶりに会えて嬉しかったぞ」

「ん」


 コクリと頷くヴィオラを見て実感した。

 うん、久しぶりにヴィオラに会えたこと、これが一番大きな収穫だったな。

 

「何!?走る子馬亭は薄皮包みを作っておる酒場ではないか!近いうちに薄皮包みを買いに――」

「では行って参ります」


 グラシエラスが最後何か言っていたような気がするんだが……既に俺達はカーネリア付近の平原に転送されていた。

 うん、気にしないようにしよう。

 というか、ベベル、主の話くらい最後まで言わせてやれよ……。

 

 辺りは少し暗くなりかけ。

 会議の為に出たのが昼過ぎだから、おもったよりも時間がかかってしまっていたようだ。

 まぁ徒歩で向かったとすれば2日は掛かるのだから、転移魔法ってすげぇなぁと実感する。

 

「皆様、本日は突然のお呼び出しに応じて頂き、感謝すると共にお詫び致します」


 そういって深々と頭を下げるベベル。

 別にベベルが悪いわけではないので彼に何を言うつもりは無い。

 というか、主があれではベベルも大変だろうなぁ……と同情するばかりだ。

 

「いや、これほど早く大きな問題が解決出来たのだ。逆に感謝したいくらいだ」


 転移で気持ちが切り替わったのか、領主代行状態のリカルドが皆を代表して答える。


「そう言って頂けますと大変ありがたく思います。それでは、私はこれにて失礼致します」

「うむ、グラシエラスにも宜しく伝えておいてくれ」

「畏まりました。では」


 再び詠唱するや否や、フッと姿を消すベベル。

 残されたのはつかれた顔の4人のみ。

 背後を振り返れば、遠くに明かりが灯され初めたカーネリアの城壁が見えた。

 

 今日は本当にいろいろあった。

 色々有りすぎて疲れた。

 ヴィオラのダンジョン計画も大分気になるのだが、それより今は、早く帰ってマリーとクロンに謝らないとだなぁ。

 と、そんな事を考えながら、明かりに寄せられる羽虫の様に、ゆらゆらと揺れるカーネリアの明かりへと歩みだしたのだった。

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