第83話 詳細、装備品、テスト

 結局、ヴィオラの説明では今ひとつ伝わらないところが多かったので詳細についてはベベルが説明することになったのだが、その話をまとめるとこういう事らしい。

 

「特殊な魔法で冒険者が死なないようにしたダンジョンを作り、そこに勝手にできる竜の涙や各所に配置した金品を餌に冒険者を呼び寄せ、入場料を取る事で利益をあげようと、そういうことか」


 いやぁ……ドラゴンの巣を観光名所の様にするとは、そんな事考えたこともなかった。

 入った冒険者が死なないとするならば、観光名所というよりも訓練所のようにも使えるか。

 リカルドは多分ヴィオラのやりたい事を完全に理解しているように思えるが、アリアとギルはもはや興味すら持っていない様子。

 ……元仲間なんだから、もう少し興味を持ってやってくれ。

 

「なるほどね……確かにそれならば人に被害は出ないけど……それだけじゃ収入は多く無いよ?」


 確かに、入場料の金額にもよるがそれだけでは大きな利益にはならないだろう。

 他にも何か利益になるようなものがなければ、今雇っている魔族の賃金ですら難しいのではないだろうか。

 

「致命傷になりそうな時、出口に強制転送される魔法を使う。強制転送は装備品は対象にしない。それを回収して売る」


 冒険者の装備品を金に変えようということか。

 確かに冒険者の装備品はかなり高い。

 新品は元より、中古であってもそれなりの価格で売られている事を考えれば、それなりの収入にはなるだろう。

 どれくらいの収入になるかは分からないが、入場料だけよりはましに思える。

 が、そう上手くいくもんかねぇ。

 

「リカルドはどう思う?」

「……そう、だね」


 俺が色々と懸念していることに気づいているのか、もしくはリカルド本人にも懸念点があるのか、俺の問いにリカルドはしばし考えるように言葉を濁す。

 こういった金の動きみたいな話はリカルドの方が確実に詳しい。

 俺の考えている以上の懸念があるのかもしれないな。

 

「色々と問題はあるかもしれないけど、やってみるのもありじゃないかな。カーネリアへ金が落ちる流れもできるだろうし、僕としては賛成」


 正直、リカルドが賛成したのはちょっと予想外だった。

 リカルドの言う通り色々と問題点があるように思えるのだけれど、それを見越してもカーネリアに利があると見たということか。

 ただの元冒険者で酒場のマスターの俺が見ている世界と、領主代行として統治する立場にあるリカルドが見ている世界では大分開きがあるのかもしれない。

 ずっと同じ冒険者だったリカルドのつもりでいたのだが、俺が冒険者から酒場のマスターになったように、リカルドも冒険者から統治者になったんだな、と改めて実感した。

 まぁリカルドがリカルドで無くなったというよりは、今まで見えていなかった一面が見えるようになった、というべきか。

 

「自分の武器が売られてるのを見て文句言いに来る奴もいそうだが、その辺大丈夫か?」


 金の動きはリカルドの考えに従うのが一番良いと思うが、取り敢えず自分が気になっているところだけでも指摘しておこうかと口に出すと、あまり興味のなさそうだったアリアとギルが珍しく顔を見合わせて呆れた様に肩をすくめた。

 ……そんなおかしいか?

 

「ヴィオラの話は良く分かんなかったけどさ、つまりは本来なら死ぬ所を助けられるって事でしょ?それで文句言ってくるような奴はほっとけばいいのよ」

「珍しくてめぇと意見が合うな。死ぬ代わりに装備品だけで済むなら安いもんだろうが」

「あー、それもそうか」


 つい商売人としての考え方で意見してしまったが、冒険者として見れば二人の言う事も尤もだ。

 冒険者として最も重要視するべき事は死なないこと。

 その点を怠った代償が装備品を失うだけならば安いものというのはまさにその通りだな。

 

「それに、万が一転送されるような事があっても、パーティーメンバー全員が飛ばされでもしなければ残りの味方が回収してくるでしょ」

「ん、それは逆に問題。装備品だけ違う場所に飛ばす様に改良しよう」


 アリアの指摘に真っ先に反応したのはヴィオラ。

 言われてみれば、入場料だけでは収入が薄い点の改善として装備品回収を考えていたのだから、仲間に回収されるようではヴィオラ側としては逆に困るか。

 ん?というか、改良するのヴィオラなのか?

 

「ところで気になったんだが、その転送の仕組みはヴィオラが作ったのか?」


 俺の記憶ではヴィオラは転移系の魔法は使えなかったはずだ。

 俺の問いにフンスと鼻を鳴らしたヴィオラが腰に手を当てて自慢げに答える。

 

「私とベベルで作った」

「1年で習得したのか?凄いな」

「ヴィオラ様の魔法に対する知識は非常に素晴らしいものがございます。魔法に関しては我ら魔族が人族を遥かに凌駕していると自負しておりましたが、いやはや、自分の視野の狭さを痛感しております」


 おぉ、魔族に此処まで言われるとは凄いなヴィオラ。

 元々ヴィオラが冒険者になった理由も、遺跡を巡る事で魔法というものを解明することが目的だったと聞いている。

 そういう意味で、ヴィオラのこれまでの軌跡は無駄では無かったということか。

 まぁ、知識欲の塊であるヴィオラがこれで満足するとは思えないけどな。

 

「ところでさぁ、その辺の難しい話は置いといて、アタシ達を呼んだ意味ってのが今ひとつわかんないんだけど、どういうことなわけ?」


 ひとまず冒険者の装備品については一段落ついたというところでアリアが声を上げた。

 そうだよ、それだ。

 ダンジョン計画とやらの全貌が中々にぶっ飛んだものだったのですっかりそちらに意識が向いていた。

 恐らくはそのダンジョン計画にかかわるところなんだろうとは思うが、まさか俺達にダンジョンを作る手伝いをしてくれとかそういう話ではあるまいな?

 

「忘れてた」


 お前も忘れてたのかよ!

 いや、落ち着け、ヴィオラはこういう奴だった。

 他の3人もガクリと肩を落としたものの、そこに怒りは無く、どちらかと言えば諦めにも近い笑いだ。

 

「ドラゴンの巣にはモンスターが勝手に湧く。それに罠も置くつもり。モンスターの強さはある程度調整できるみたいだから、丁度いい強さにしたい。アリア達には試しに潜って欲しい。感想を聞きたい」


 なるほど、俺達はお試し要員ということか。

 一種の遊技場のような形になるドラゴンの巣ダンジョン。

 どれくらいの深さにするのかは分からないが、誰も奥まで行けないようでは困るし、逆に誰でも奥まで行けてしまっても困る。

 表層はある程度……そうだな、スチール級程度が手を出せる程度にして、中層はシルバーからゴールド、深層はプラチナ級くらいが攻略できるレベルにするのが適切だろう。

 そうじゃないと人が寄り付かなくなるからな。

 その辺の調整はかなり難しいものになりそうだがとても重要な点だ。

 中々に責任のある役目だが……その前に聞いておかなくてはならない点がある。

 

「取り敢えずヴィオラが呼んだ理由はわかったが、そもそもダンジョン出来上がってるのか?」

「ん……まだ」


 じゃぁ何故呼んだ!

 と、叫びたい所だが、まぁ久しぶりにヴィオラに会えたので良しとしよう。

 それほど時間も掛かっていないし、何よりドラゴンと話せたのは大きい。

 多分ヴィオラとしても一先ず約束だけ取り付けておいて、後で正式にお願いするという事だったのかもしれないしな。


「うん、まぁそこは良いとしよう。一先ず言えるのは、現状冒険者をやっているのはギルだけだ。他はすでに別の仕事がある。4人で集まるならその辺の調整が必要になるから、今回みたいに唐突に呼びつけるのだけは勘弁してくれ」

「おいおい、まるで俺が年中暇みてぇじゃねぇか。俺だってそれなりに忙しいんだぞ?」

「いや、言い方が悪かった。冒険者は比較的調整し易いだろ?俺やアリアはまだしも、リカルドはこうして抜け出せる事自体少ないだろうから、その辺を注意してほしくてな」

「むぅ、そりゃまぁ、確かにな」


 冒険者のギルは自分で依頼を受けるのだから予定の調整は容易い。

 俺やアリアは最悪臨時休業という形も取れるが、リカルドはそうは行かないだろう。

 統治者ともなれば様々な会合などの予定もあるだろうし、唐突に依頼されても困るだろう。

 

「そうだね……、正直、僕が参加するのはちょっと難しいかもしれない。ダンジョンがどの程度の規模になるかにもよるけど、あまり不在にするわけにも行かないからね」


 まぁそうなるよなぁ。

 とはいえ、試す必要性はあるとは思うから、俺とギル、アリアそれにヴィオラも合わせての4人でやることになるかもしれんなぁ。

 近接担当のリカルドが抜けるのはパーティーのバランス的に少しキツイ。

 俺が前衛に回ってもいいんだがリカルド程前衛の適正があるかと言えばそうでもないからなぁ……。

 その辺は他の面々も理解している様で、仕方ないと思いつつどういう動きにするべきなのか、そんなことを考えているんだろう。

 リカルドが参加出来ないという話になった途端に顔つきは完全に冒険者時代に戻ったようだ。

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