第82話 最後の一人、生態、金の行き先

 あまりに予想外の人物の登場に言葉もない一同。

 そりゃそうだ。

 昔から何考えてるのかわからんやつだとは思っていたが、まさかドラゴンの友人になっているとは誰も思うまい。


「皆揃ってる。驚き」


 あぁ、この眠たげでやる気のなさそうな声、やっぱりヴィオラだ。

 いやまぁ、あの誰しもが目を引くような銀色の長い髪に子供だと言われれば信じてしまうような小さな体格はヴィオラくらいしか見たこと無いんだが……直ぐには信じられなかった。


「それはこっちの台詞だよヴィオラ。まさか僕達と分かれた後にドラゴンの友人になってるなんて」


 うむ、一言一句同意見だ。

 思わず素が出てしまっているリカルドに相変わらずのぼんやりとした顔で首を傾げるヴィオラ。

 

「リカルドわかってない。私の目的、魔法の解明。それにはドラゴンが一番」


 何を当たり前のことを、とでも言いたげなヴィオラにもはや掛ける言葉もない。

 うん、このマイペースさは正しくヴィオラだなぁ……。

 

 ん?そういえばヴィオラはリカルドを見ても驚いていないな。

 今は領主代行としてのリカルドの姿だからてっきりわからないかと思っていたんだが。

 

「良く僕だってわかったねヴィオラ」

「リカルドの魔力はわかりやすい。わからない方がおかしい」


 ……そんな判別方法あってたまるか。

 魔法についても一流であるリカルドですら苦笑しているのだから、やっぱり一般的ではないな。

 

「ふ、ふん!アタシだってすぐ分かったし?」


 何故張り合おうとするんだアリア。

 わからない方が普通だと思うぞ?

 というか、少なくともヴィオラも仮面の下の顔を見たことは無いはずなのだから、そこに驚くとかはあってもおかしくないはずだろうに。

 

「そういえば、仮面外してる」


 そう、それ!

 そこは驚いてほしい。

 じゃないと街に戻った時に膨れっ面してるアリアからどんな八つ当たりをされるか分からないんだ。

 

「あ、あぁ、実はあの仮面は――」

「呪われてるって嘘ついてまで外さなかったから、顔見られたくないと思ってた。イケメン」

「あ、あはは……」


 ……最初から呪いなんて掛かってないって分かってたのかよ。

 何故それを言わないのか、と言われればそれはヴィオラだから、としか答えられないんだろうなぁ。

 リカルドも思わず声に出して苦笑してしまっているぞ。

 あぁいかん、いかんぞ、アリアの不機嫌さが目に見えてわかるようになってしまった。

 何故不機嫌なのかはさっぱりわからんが、蛇の巣穴を突くような真似はしないのが賢明だ。

 ギルもこっそりアリアから離れてるし……うん、それが正しい。

 

 それにしても、ヴィオラの登場には驚いたが改めて考えればグラシエラスよ、それでいいのか?

 

「あー……グラシエラス。一応、知っているとは思うが、ヴィオラもお前を討伐しに来たメンバーの一人なんだが、友人でいいのか?」


 俺達の事を思い出すやビビりまくっていたグラシエラスがその一員だったヴィオラを友人としているのが良くわからない。

 何よりグラシエラスと戦った時に一番効果が出てたのヴィオラの魔法だぞ?

 

「ふふん、我が友は我の偉大さを良く理解しておるからな。昔の事など水に流したわ」

「グラは凄い。なんでも知ってる」


 流石、偉大なるドラゴン様は懐も深いということか。

 ……いや、いくらなんでもチョロすぎやしないかこのドラゴン。

 ベベルが弄りたくなるのもよく分かる。

 

「ヴィオラがなんでドラゴンと友達になってるのか気になるけど、それよりもどうしてアタシ達を呼んだわけ?その辺を先に聞いておきたいんだけどさ」


 おっと、完全に忘れていた。

 多少は落ち着いたであろうアリアの問いに俺達が此処に来た目的を思い出した。

 元々はドラゴンの客人……つまりヴィオラが俺達を呼んだからこうしてここまで出向いていたんだった。

 単純に久しぶりに会いたいから、というだけの理由ではない気がする。

 ……ヴィオラがそういう考えになるのは想像しづらいしなぁ。

 

「うむ、そこは我が友が説明するであろう」


 いや、それ胸を張って言う事じゃないとグラシエラス。

 お前この……ダンジョン?の主なんだろうからもっと色々と知っておくべきじゃないのか。

 一同の視線がグラシエラスからヴィオラへと集まると、ヴィオラは少しばかり自慢げな顔で口を開いた。

 

「ドラゴンにはお金がいる。だからダンジョンにする」


 ……いやわからんって。

 その理由が知りたいって話なんだよヴィオラ。

 まぁこの言葉足らずなところがヴィオラらしいと言えばらしいんだが。

 当然というべきか、他の3人も良くわからんという顔をしているのだが、一人、リカルドだけが思考を放棄せずにどういう事なのかを考えている様子。

 

「つまり、何らかの理由でドラゴンはお金が必要になるんだけど、前の様に街を襲ったりはしたくないから、巣をダンジョンに変えることでお金を得られる方法を考えついた、って事でいいのかな?」

「ん!」


 ぐっと親指を立ててリカルドに見せるヴィオラ。

 どうやら正解らしい。

 よくそこまで理解できたな……。

 その答えを聞いてからでさえ、ギルとアリアは理解できてないぞ、あの顔は。

 

「我が主。宜しければ私が詳しく説明させて頂きますが宜しいでしょうか?」

「うむ、任せた」


 流石にこのままでは話が進まないと思ったのか、ベベルが説明役を買って出てくれた。

 執事の姿をしているのは伊達ではないようだな。

 

「まず初めに、皆様はドラゴンがどの様に生まれるかご存知でしょうか?」


 と、説明の前に唐突なドラゴン問題が発生した。

 うーん、ドラゴンは生態そのものがよく分かっていないからなぁ。

 トカゲの大きな奴だと考えれば卵から生まれるとかそういう感じなんだろうけど、多分そんな答えをしたらグラシエラスに強制退去させられそうだ。

 多分、もっと違う手段なんだろうが……まぁわからん。


「あー、卵とかじゃねぇのか?」


 と、俺のグラシエラスへの配慮とかそんなの関係無しに、ギルが何気なく答えてしまう。

 おいこらやめろ、その答えは逆鱗にふれることになりかねんぞ!

 慌ててフォローに入ろうと口を開きかけたところで、先にベベルが答えを教えてくれた。

 

「その通りです。一般的な卵とは少し違いますが」


 卵であってるのかよ!

 まぁ一般的な卵とは違う、ということだからなにか特別なものなのだろうとは思うが……卵なのかぁ。

 

「ドラゴンは自らの死期を悟られると、自らの分身体を卵と言う形で作られます。その後、卵に自身の記憶を継承させることで次代へとつなぐのです」


 そう、なのか。

 確かに特殊な生まれ方をする。

 ドラゴンは遥か昔から生きている存在なのだと、そう教わってきたしそうだと思っていたのだが……話を聞く限りだとしっかりと寿命があるようだ。

 しかし、自身の記憶を継承させるということは、半ば不死に近い存在であることは間違いないのか。

 

「ちなみに、ドラゴンの寿命は大凡1000年程だと言われております」


 うん、それでも長いな。

 エルフが人の10倍くらいという話だったが、それよりも更に長い。

 しかも記憶を継承しているのだから、その記憶はエルフのそれよりも遥か昔から繋がれているということか。

 ヴィオラが話を聞きたがるのも理解できる。

 

「それで、そのドラゴンの生態がどう関係するんだ?」

「我々の想像するよりも更に遥か昔はドラゴンの数も多く、そうして生まれ直したドラゴンを他のドラゴンが守る事ができていました。しかし、そのドラゴンも数が減り、自らの身を守れる程度に成長するまでを守ってくれる別の者が必要になったのです」


 あぁ、なるほど、何となく読めてきた。

 そもそもドラゴンの従者に魔族というのも良くわからないなと思っていたのだが、なるほどそういうことか。

 

「その別の者、というのが魔族なんですね」

「ご慧眼、感服致します。まさにリカルド様の仰る通り、我々魔族がドラゴンの皆様のお世話係を承ったのです」

「そこまでは分かったんだがよぉ、金がいるってのはどういう事なんだ?」

「それは勿論、我々の賃金です」

「あー、そりゃそうか。タダ働きするわけにゃぁいかねぇよな」


 魔族がどの様な生活をしているのかは正直良くわからないのだが、仮に俺達と同じ様な経済の中で生活をしているのであれば、そこには勿論金が必要になってくるわけだ。

 うん、なんか、凄い所帯じみてきた話になったな。

 

「ドラゴンが成長するまで、大凡100年程度はかかります。その間、我々魔族がお世話をさせて頂いておりますので、少なくとも100年分の賃金が必要になるのです」

 

 100年とは、また随分と長い期間になるなぁ。

 いくらで雇っているのかは分からないが、我々という言い方をしている以上、一人ということはあるまい。

 それを100年、人の生にしてみれば4世代にも渡るであろう期間分の賃金となればそれは良い額になる。

 なるほど、それは街を襲ってでも金を集めたくなるのも頷けるところだ。

 まぁだからといって襲う事を容認するつもりは無いんだが。

 と、ここで一つ疑問が生まれる。

 ベベルは自らの身を守れるようになるまで、と言っていたが……

 

「グラシエラスはもう十分に成長しているだろう?なんでまだ従者がいるんだ?」


 俺達に撃退されたとはいえ、その強さは十分に脅威となりえる物だった。

 ならばもう従者は必要ないと思うのだが……。

 そんな俺の問いに、グラシエラスは額に手を当て俯いた。

 

「お主の言う通り、確かにもう守ってもらう必要は無い……無いが!」


 落ち着いた口調で話しだしたとおもったら、急に語気を荒らげて天を仰ぐグラシエラス。

 

「いつでも入れる風呂!何もしなくても清潔になっておる住処!湧きすぎたモンスターも勝手に間引き!何より自動的に出てくる人の美味い飯!こんな便利な生活に慣れさせられて今更手放せるはずも無かろう!!!」


 その声は魂の叫びの様に聞こえた。

 つまり早い話、自分の優雅な生活のために街を襲っていたということか。

 うん、これは討伐してしまうのが世のためかもしれん。

 

 多分、呼ばれた側全員が同じ様な事を考えたのだろう。

 ジト目8つがグラシエラスへと向かうと、慌てた様子で言葉を繋げるグラシエラス。

 

「ま、待て待て!昔の事は我も悪かったと思っておる!だからこそ我が友に人に被害を与えぬ方法を考えて貰ったのだ!だから、な!その目を止めてくれ!」


 まぁ実際のところ、また退治してくれと言われても困るのも確かだし、人に被害を与えない方法とやらがあるのであればそれに越したことは無い。

 というか、あまりにビビり散らかしているので少し可愛そうになってきた。

 

「ま、当時被害に会ってたのは俺らじゃないし、俺らがどうこう言う話でもない、か。で、その方法ってのがダンジョン計画って奴なんだろ?具体的にどういう事なんだ?」


 このまま睨み合ってても仕方ないし、何よりダンジョン計画というのが気になる。

 凄く気になる。

 ヴィオラが考えた事なのだから、どうせとんでもない発想の元に練られた計画なんだろうけど。

 

「ん。じゃ説明する」


 どうも説明する気満々らしいヴィオラなんだが、さっきヴィオラが説明したのじゃ分からなかったんだが……。

 まぁ、聞くだけ聞いてわからなかったらまたベベルに聞こうと思いながら、ヴィオラの言葉に耳を傾けた。

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