第74話 アリアの魔力、精霊、巫女の条件

「まぁ粘土細工見つける前だって普通に助かってたけどねー。特にコキュートスをまともに使えるのクラウスだけだったし」

「そうか?ギルも似たようなもの使ってただろ」

「ギルのグロウフラムは事前に魔力注入しとくやつじゃん。ヴィオラに入れてもらってたの忘れた?」


 ギルの持つグロウフラムは爆炎斧の名の通り爆炎を発生させる遺物だが、言われてみると確かにヴィオラが魔力を込めていた気がする。

 

「じゃぁリカルドはどうだ?」


 本人は使おうとはしなかったが、魔法と剣術が高レベルにまとまっているリカルドならばコキュートスを使うのも問題が無いはず。

 

「リカルドじゃショートソード使えないでしょ?」

「む、確かに」


 リカルドはツーハンドソードに近い大きさのロングソードを使っていたっけか。

 確かに、あの剣を持ちながらもう片方の手でコキュートスを使うのは難しいか。

 

「ならお前はどうなんだ?魔力はあるだろ?」

「アタシは魔力をそういうのに使えないからねー」


 と、事もなげにそう答えるアリアだが、答えた後にハッとした様子で慌てて口を噤む。


「……ん?なんだそれ、初耳だぞ?」

「あ、あれー、言ってなかったっけ?」


 あからさまに視線を逸らすアリア。

 お前、いくらなんでもわかり易すぎるだろう。

 話の外のマリーとクロンもアリアの仕草には流石に思うところがあったのか、二人して苦笑している。

 そりゃそうだよなぁ。

 3人からの視線に耐えかねたのか、ハァ、と小さくため息をついたアリアがポリポリと頬を掻いた。

 

「いやー、別に隠してたわけじゃないんだけどさ、ちょっと分かってもらいづらい事だったから言わなくてもいいかなぁとか……」

「ふーむ、まぁ別にいいたくないならそれで構わんが、気にはなるな」


 多分そんな事は無いだろう、とは思っているが、もしその言いづらい事というのがアリアが抱えているなんらかの問題であるようならば、なんとかしてやりたいという気持ちがある。

 そこに関しては、マリーやクロンも同じだろうという確信があるだけに、話してもらえると助かる。

 

「ホント大したことじゃぁ無いんだけどね。ほら、アタシって巫女だって話しは前にしたじゃない?」

「あぁ、クロンも交えてその辺の事はしっかりと話して貰っていたな」


 アリアがここで働く事になった経緯について、例の銀翼の隼大集合の後にクロンも交えてしっかりと話しをしている。

 あの日は本当に酷い日だった……。

 と、そんな事はともかく、巫女だということに何か関係があるのか?

 

「巫女って森の精霊と会話をして……みたいな話をしたと思うんだけど、あれって早い話が、森の精霊と契約を結んでるんだよね」

「ほぉ」


 精霊……というものがどういったものなのか、今ひとつ良く理解していないのだが、その契約によって森の精霊と会話ができるようになっているということなのか、と理解することにしよう。

 

「その契約の内容ってのが、森の精霊に色々と助けてもらう代わりに、自分の魔力を提供するって事なんだよ」

「その森の精霊にはアリアの魔力が必要なのか」

「必要……というか、んー、なんだろう、アタシ達で言う所の……おやつ……みたいな感じ?」

「お、おやつ……っすか?」

「ご飯を食べるのとは別に、ちょっとやる気出すのにおやつ、欲しいじゃない?そんな感じで魔力あげるからちょっと手伝って、みたいな感じ?」

「うーん……わかるような分からないような……」


 言いたい事は何となく分かるような気がするが……。

 森の精霊の話を聞く役職である巫女が、半ば王族の様な立ち位置らしいのだから、てっきり精霊ってもっとこう、厳かな物なのではないかと思っていたのだが、アリアの話を聞くと物凄く身近なもののような気がしてしまうな。


「その精霊のおやつに使うから魔力を他に回せないってのは何となくわかったが、今まで話してこなかった理由は良くわからんな」


 取り敢えず魔力がどうのこうのはアリアにとっての問題というわけではなさそうなので一安心なのだが、その点については未だに疑問が残る。

 まぁ確かに精霊って言われてもピンと来ない話ではあるが……。


「あー、それね。そうだなぁ……クロンちゃんさ、精霊って見たことある?」

「うぇっ!?精霊……っすか?うーん、多分見たこと無いと思うっすけど、それがどうしたんすか?」


 突然話を振られたクロンが慌てつつ答えると、満足行く回答だったのかウンウンと頷くアリア。

 なんだ、変に勿体ぶりやがって。

 

「精霊って人の住む場所に出てくるようなモノじゃないってのもあるんだけど、そもそも、普通の人は精霊を認識できないんだよね」

「そうなんですね……。ちょっと残念です」


 こういった話には食いついてこなそうなマリーが一番残念そうにしているのが少々意外だった。

 そういえば、この前ギルの持ってきた真鍮の隻腕についても興味ありそうだったし、意外にもこういった話が好きなのかもしれないな。

 

「あぁ、なるほど。見えないものを紹介されてもお互い困るからか」

「そうそう、正解!アタシは精霊と契約してるんだよねーって話をした所で、その精霊自体を認識出来ないから変な誤解を招いちゃう可能性もあったからね。それならまだ、魔法が使えます!ってしといたほうがマシ。で、一番楽なのはそういうの全然使えませーんって事にしとくこと、かな」


 なるほどなぁ。

 確かに自分の理解の及ばないところを説明されたところで半信半疑も良いところか。

 

「今思えば、クラウス達には普通に話しちゃっても大丈夫だったかなぁとか、ちょっと後悔してるけど」

「その辺は気にしなくてもいいと思うがな。話そうと話さなかろうと、アリアはアリアだし」

「……もう、ほんとクラウス、そういうところズルいんだよなぁ」


 ん、なんだ?

 俺なんか変なこと言ったか?

 答えを求めてクロンとマリーへと視線を向ければ、クロンは何のことは分かっていないらしく首をかしげていたが、マリーはしきりに首肯していた。

 

 ……なんなんだ。

 

「それより!精霊ってどういうのなんすか?ボクにも見えないっすかね?」


 首をかしげていたクロンはやはりと言うか、わからん事よりも精霊の方が気になるようで身を乗り出すようにアリアへと迫る。

 

「うーーん、エルフでもしっかりと姿が見える人はほとんど居ないからねぇ」


 まぁ精霊の声を聞く役目が非常に重要な位置に居るという事は、それだけ貴重な存在だと言うことなんだろう。

 あれ、でもそうなると巫女の役目って世襲じゃまずいような……?


「そういえば、ベラフィアさんの話を聞く限りでは巫女は世襲のように聞こえたんだが、アリアの話からすれば必ずしも世襲というわけではないのか?」

「あぁそれね。別に精霊の姿を見られれば巫女になれるよ。というか、母様はそういう感じだったし。でも、精霊の姿って、精霊が気に入った人とか親しい人とかには見えやすいみたいだから、世襲になることも多いみたいだね」

「あー、親が仲がいいとその子供とも仲が良くなる感じか」

「なんだか親戚の叔父さん?みたいっすね」

「その例えはどうかと思うよクロン……」


 精霊という、なんとなく神聖な者の話をしていたはずなのに急に世間話レベルに落とされたな……。

 おやつの事といい、アリアとクロンは何処か似ているところがあるなぁ。

 マリーが呆れるのも仕方ない話だが、取り敢えずクロンとギルの仲が良好であることは理解した。

 

「まぁともかく、俺も気になる事は気になる。見える見えないは別にしてな」

「んー、なら呼んでみようか?今呼び出せるのは分体……幹から分かれした枝の一つって感じのだけだけど」


 森の精霊というくらいなのだから普段本体は森に住んでいるということなんだろう。

 それにしても精霊か。

 冒険者をしていた頃にそういったモノに出会うことは無かっただけに、年甲斐もなくワクワクしている自分が居る。

 その辺はクロンやマリーも同じなようで、呼ぼうか?と問いかけるアリアに期待に満ちた目でコクコクと何度も頷いている。

 

「よし、それじゃおいで、ドリアード」

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