第71話 現役冒険者、セットメニュー、確定

「はいはい!ちょっといいっすか!」


 そんな事を考えていると、会話に割り込むようにして手を上げたのはクロンだ。


「なんだクロン」

「カーネリアの冒険者ギルドの依頼って、大体カーネリアの森あたりまでの依頼が多いんす。あそこなら1日あれば依頼をこなしてから帰ってこれるっすから、帰ってきた時にご飯が食べられると嬉しいっす」

「あぁ、なるほどな」


 カーネリアを拠点にした冒険者が此処に居たの忘れていた。

 確かに、うちで扱っている中級までの依頼は遠くてもグワース山までで、概ねカーネリアの森で達成できる依頼が多い気がする。

 

「探索から帰ってきた時って色々あってごはんが遅くなっちゃったりするっす。そうすると早いところだとおもうお店が閉まっちゃってたり、満席になっちゃってたりで食べられない事もあるんすよ。だから、晩ごはんも宿で食べられるとすごい助かるっす」


 実際、クロンは今のところ薬草採取の依頼がメインのようだが、時々帰ってくる時が遅い事がある。

 その場合は俺かマリーで簡単なものを作っているが……なるほどな、それは確かに有り難い話だ。

 

「あまり遅くなるようなら困るが……いや、その場合は作り置きしておけばいいか。肉類やパスタなんかは厳しいが、パンとスープくらいは用意しておけるな」

「なら、朝食と夕食をつけて大銅貨4枚ですかね」

「いやいや、ちょっと待った。冒険者なら外に出て一晩明かすことも多いし、朝食は欲しいけど夕食はいらないって事も多いと思うよ」

「でもその場合ならその日の分はお部屋取っておかないんじゃないですか?」

「拠点にするなら部屋を確保しておく事もあるんじゃないかなぁ」

「なるほど。うーん……難しいですね」


 うーん、色々と意見が出てくるのはいいが、ちょっとごちゃごちゃしてきたな。

 一度整理をしたほうがいいかもしれん。

 

「とりあえず、食事無しで大銅貨3枚は確定するとして、食事をどうするか、だな。食事無し、朝食付き、朝食と夕食付きの3パターンになるか?」

「あ、でも初日も夕食食べるお客様もいますよね」

「それは考えてなかったが……確かにありえる話だ」


 折角宿に泊まるのであればそこで食事が取れるならばそれに越したことはない。

 うーん、それを考慮するとパターンが増えすぎる気がするなぁ。

 どうしたものかと3人で頭を抱えていると、抱えていない一人がスッと手を上げる。

 

「あのー、宿泊の料金に含めるんじゃなくて、泊まってる人は食事を安くするんじゃダメなんすかね?」

「あぁ、なるほど、その都度食べるか食べないか選択出来たほうがいいな」


 それならば連泊する際でも事前に連泊分をまとめて受け取る事ができる。

 いちいちこちらで確認を取る必要もない。

 うん、いい案だ。

 

「よし、その方向で考えよう。割引幅は……どうするか」


 やる気になれば半額くらいでも元は取れるが……3割くらいが妥当なところだろうか。

 可能であれば食事も一緒にとってもらえればその分収入も増えるが、あまり割引しすぎても苦労の割に儲けが少ないということになる。

 見極めが重要だな。

 

「私から提案なんですけど、小銅貨5枚を目安に宿泊客専用のセットメニューを作ったらどうでしょう」

「ふむ?具体的にはどんな感じだ?」

「例えば……パスタとスープのセット、シチューとパンのセット、香草焼きとパンのセット、とかでしょうか。普通に注文するよりも小銅貨2,3枚くらい安くなるような感じがいいかと思います」


 なるほど、それぞれ単品で注文するよりも少々安くなるようにするって事か。

 宿に泊まっている客としても安く食べられるのならそれに越したことはないだろうし、限定されるとはいえ朝食と違い自分で食事を選ぶ楽しみもある。

 金の無い冒険者ならばセットメニューの中から選んでもらえればいいし、そうでないのならば通常の料金で好きに頼めばいい。

 いい折衷案だな。

 

「アタシもその方が助かるね。別に計算できないわけじゃないけど、いちいち計算してるの面倒くさいもん」


 ふむ、確かに。

 人数が増えれば増えるほど割引だと計算も面倒になってくる。

 お得感も出るし、計算も楽。

 採用しない理由が無いな。

 

「よし、採用!細かいメニューについては後ほど考えよう。この際だ、セットメニュー用に新しい料理を追加してもいいかもしれないしな」


 正式に店を開店させてから追加した料理はエルトワールケーキとキッシュだけだ。

 もう少し種類を増やしたいと思っていたところだし、丁度いい機会になったかもしれん。

 

「それじゃ、食事抜きで一部屋毎に大銅貨3枚。朝食付きの場合は一人毎に追加で小銅貨5枚。他の食事はセットメニューの中から選んで小銅貨5枚って事でいいのかな?」

「概ねそれでいいだろう。朝食については前日の閉店までには朝食分の金を払ってもらう必要があることだけが注意だな。まぁ、宿泊関係の受付は俺がやることになると思うが、客に聞かれた時に応えられるようになっておいてもらえると助かる。後は、アリアとクロンには宿泊客の顔を覚えて貰う必要があるが、大丈夫か?」

「任せろー」

「了解っす!」


 二人してグッと力こぶを作るように腕を曲げてやる気を見せたところで、一先ず宿についての方針については確定したな。

 宿での収入はさほど多くならないと予想しているが、それでも広く浅くお金を落として貰うためには必須、早めに方針が固まったのはいいことだ。

 朝食やセットメニューなんかの細かい所は後ほど相談するとして、本日店を臨時休業にした本当の目的に取り掛かる事にしよう。

 

「よし、概ねの方針が決まったところで、本日の最大の目的、掃除に移るぞ!」

「「「おー!」」」

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