第66話 自己評価、千変万化、弟子
「クラウスのそーいうとこ、全然変わってないんだ」
「俺と再会した時もこんな調子でよぉ」
「変わらないのはいい事もあるけど、悪い事もあるって事だね」
……なんか、集中打を受けてる気がするんだが、気のせいか?違うよな?
ますます混乱している様子のクロンだが、流石に聞かざるを得ないということか、なんとか言葉にする。
「そういうとこって、どういうとこなんすか?」
クロンの問に3人が顔を見合わせると、この中では一番喋りが上手いであろうリカルドが代表して答えた。
「クラウスはね、自分を過小評価しすぎているんだよ、いつもね」
「過小評価、っすか」
「そう、例えば……そうだな、自分はそこまで強くない、みたいな事を言ってなかったかい?」
「あー、言ってたっすね。自分より強い冒険者はもっといる、みたいな」
確かに言ってたな。
でもなぁ、実際俺よりもギルやリカルドの方が強いぞ?
「それはある意味正解だけど、多くの意味で間違ってるんだよね」
「どういう事っすか?」
リカルドの答えに首をかしげるクロン。
「確かに、近距離での戦闘なら僕やギルの方が強いし、弓を使わせればアリアの方が上手いよ」
ほらな、その通りだろ?
俺は間違ってないぞ、と腕を組みリカルドの言葉にウンウンと頷くが、リカルドが俺の様子を見ながら、けどね、と一言を加えて続ける。
「僕やギルの方が強いといっても、それはあくまで僕やギルと比較したらの話。クラウスなら確実にゴールド級のソードマンに勝てる。もしかしたらプラチナ級にも勝てるかも」
「えっ!?すごい強いじゃないっすか!」
「スカウトとしての技能にしてもそう。比較対象がアリアだからであって、クラウスの技能はプラチナ級のスカウトにも引けを取らないよ。ありとあらゆる技能がプラチナ級に匹敵し、状況に応じてソードマンにもウォーリアーにも、スカウトやアサシンにすらなれる。それ故についた二つ名が千変万化」
「お陰で本当に実在しているのか?なんて噂になったこともあったよねー」
「あぁー、あったなぁ。ま、文字通り何でもできるなんて常識外れの奴なんか……あぁ、スカウトに関しちゃそれ以上の常識外れがここにいるか」
「ちょっと!クラウス以上の常識外れって事は無いでしょぉ!?それを言うならギルだって十分常識外れじゃない」
アリアとギルの介入で常識外れは誰か合戦が始まってしまったが、そんな事はどうでもいい。
俺に言わせればアリアもギルも十分に常識外れだからな。
それよりも待て待て。
確かにギルもリカルドもアリアも化け物みたいなもんだが、奴らと比較しただけで自己評価してるわけじゃないんだぞ。
俺だってミスリル級だって自負はあるし、ある程度の実力はあると思ってはいるが、俺にしてみれば、一つの事に特化できなかった器用貧乏って奴だと思ってる。
そんな仰々しい二つ名は半端者には似合わないと思うんだがなぁ。
「流石に買いかぶりすぎだって」
ボソリとそう呟くと、常識外れ合戦に参戦中の3人の首がギュンと周り、その後揃いも揃って再びため息。
「まぁこんな感じで、クラウス本人は認めようとしないんだけどね」
「あまり謙遜しすぎるのは嫌味になるよって散々言ってるのにねぇ」
うーん、謙遜してるわけじゃないんだがなぁ。
反論したいところだが、ここで俺の評価がどうのこうのいってても仕方ないし、いい加減話が終わらなくなる。
取り敢えず、ギル、アリア、リカルドはそもそも知り合いなので現状報告以上のことはないし、マリーについても俺の素性を知っているからそこまで混乱はしていないはず。
実際、話を聞いた上でも驚いた様子は薄い。
というか、クロンとギルの関係に一番驚いていたようだし。
そんな中、最も混乱しているのはクロンのはず。
そのクロンへの説明会……にも近いような形になったわけだが、そのクロンはどうか。
俺達のやり取りを聞きながら、はぁとかほぉとか変な声を出していたようだが、その様子はいくぶんか落ち着いてきたように見える。
未だに俺の自己評価について色々と非難している声が聞こえてくる中、彼女がおずおずといった様子でゆっくりと手を上げた。
「あのぉ……一つ気になったんすけど……銀翼の隼って、どうなってるんすか?」
その一言でピタリと言葉を止めると、俺を含め4人が一通り顔を合わせると、図らずして声を揃える事になった。
「「「「解散した」」」」
「うあぁ……やっぱりそうなんすねぇ……」
それはもう、あからさまに肩を落とすクロン。
チャームポイントの犬耳と尻尾もヘタッと萎れてしまった。
「銀翼の隼はボクの目標だったんす……。その活躍がもう見られないと思うと……寂しいっすよ」
まぁ、そうもなるかぁ。
店の常連に銀翼の隼について語っていた時のクロンの目は本当に輝いていた。
おそらくは自分の叔父に当たるギルの影響もあるのだろうとは思うが、目標だったのは本心だろう。
なんか、俺の師匠が冒険者を引退すると告げた日の事を思い出すな。
目標としていた人が一線を退くというのは、言葉に表す事が難しい、色々な感情が湧き上がってくるものだ。
そんな姿を見て、リカルドとアリアは少々バツが悪そうに苦笑を浮かべていた。
ギルは……なにやら理解できんとばかりに怪訝な顔をしている。
いや、お前の表情の方が理解できんぞ?
俺とリカルドは諸事情があるので冒険者への復帰は無いとは思うが、アリアとギルならばまだ可能性はある。
所在は知れないがヴィオラも合流すれば全盛期とまではいかないだろうが、それに近いパーティーを組む事は可能だろう。
そんな事を思っていたからか自然とアリアへと視線を向けてしまう。
そのアリアもその事に思い至ったのか、ギルを見ているが、無いな、とばかりに肩をすくめた。
……まぁ、無いか。
そういえば、アリアとしても所在を明らかにしておく、というのがベラフィア、リミューンとの約束だったし、どちらにせよ無理か。
と、怪訝な顔をしていたギルがその表情のまま、徐に口を開いた。
「いや、クラウスに稽古付けてもらってんだろ?っつーことは、クラウスの弟子って事じゃねぇか。一番近くでクラウスの技を見られるっつーのに、何が不満なんだ?」
……いや、そういう事じゃないだろ?
ほら、アリアとリカルドもポカンとしてる。
だから脳まで筋肉とか言われるんだぞ。
クロンだって……ん?
「そっか!千変万化のクラウスさんの弟子になれたって事なんすから、寧ろ喜ぶ事っすね!流石ギル兄っす!」
……脳まで筋肉になってるのが此処にもいたか。
いやまぁ、下手に落ち込まれるよりも全然良いんだが……。
「ハハッ、確かに。それじゃ師匠の責任重大だね」
ん?
「同じ職場だしアタシも……っていいたいところだけど、アタシは教えるの苦手だから師匠に任せた」
んん?
「ハイっす!よろしくお願いするっす!ししょー!」
あれぇ?
なんか、いつの間にか、師匠って事になってないか?
いや、まぁ、確かにクロンには色々と教えているが、師匠って柄じゃないぞ?
すっかり元気を取り戻したクロン。
そのクロンの姿にクスクスと笑っていたマリーがすごくいい笑顔を向けてくる。
「しっかりしなきゃですね、お師匠さん?」
あー、これは、違いますとか言える雰囲気じゃない、な。
「ほ、程々にな……」
思えば、クロンが初めて走る子馬亭に現れた時には、すでにこの未来は確定していたような気もする。
こうして俺は、人生で初めて、正式に弟子を取る事になったのだった。
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