第65話 技能、アリアとリカルド、素性
「そこで仮面の話になるんだけど、あれ、実は別に呪われてない、ただの仮面なんだよね」
「んだと?んじゃただ付けてただけってことか」
「そりゃ解呪の遺物使っても解呪されないわけだねー」
元々無いものを解こうとしたところで何の反応も無いのはまぁ当然の話ではあるよな。
「それでだけど、こうして素顔で居る時は領主代行のリカルド・エル・リンドベルグとして。あの仮面を付けている時は銀翼の隼のメンバーだったリカルドとして、接してほしい」
「あぁ、そりゃわかりやすくて良い」
「あれ、でも今は素顔じゃない?これでいいの?」
「他に誰も居ない時なら構わないよ。まぁ、あんまり度がすぎると困るけど」
そう言って再び苦笑するリカルド。
うーん、偉い人ってのは色々と制約が多くて大変だなぁ。
今日は何故か領主代行の顔で店に来たが、おそらくそれも非常に大変だったのだろうと推測する。
なにせ……。
「は~、なるほどな。それで店の外に5人ばかし待機してるってことか」
ギルの指摘通り、店の外には護衛と思われる気配が複数存在している。
おそらく3人はリカルドの護衛という事がわかるように、あえて気配を隠さずに待機しているが……残念ながら残りは2人ではない。
「おぉ~?ギルぅ~?一人数え忘れてるぞぉ~?分かんないのかなぁ~?」
そういってギルをおちょくる様にニヤリと笑って見せるアリア。
そう、6人なんだよなぁ。
ただ一人は相当手練だな。気配を消すのが上手い。
いや、上手すぎるな。
もしかしたら遺物でも使っているのかもしれないが、その場所だけが全く何も感じられないため逆に不自然になってしまっている。
まぁアリアならそれでも探知できてるんだろうなぁ。
アリアの自慢げな、俺が見ても小憎たらしいと思える顔に小さく舌打ちするギル。
「チッ、索敵でてめぇに勝てるとは思ってねぇし、俺の役目でもねぇ」
「へへーん、負け惜しみぃ~」
「アリア、その辺にしとけ」
調子に乗ったアリアを止めるのはなんだかんだいつも俺の役目だったな。
悔しい……というよりも、アリアの反応が小憎たらしいのでイライラしていると言った感じでプイッとそっぽを向くギル。
実際アリアの索敵能力はずば抜けてるからなぁ……。
そんな二人の掛け合いを見て笑いを堪えているのは話の当事者のリカルドだ。
「フフッ、その掛け合い、なんだか懐かしいね。クラウスが抜けてからまだ1年も経っていないのに、ずっと昔の出来事のような気がするよ」
「クラウスが抜けてからはなんか物足んない感じがずっとしてたもんねぇ」
「それに関しちゃ同意だな」
おっと、なんだか風向きが悪いな。
3人から視線を向けられると座りが悪い。
「俺のことよりアリアの話はいいのか?」
俺の分かりやすい回避行動に気づいていない者が居るだろうか。
居ないよな。
だが、
「確かに、僕もそれは聞いておきたいな」
それに気づかないフリをするのか、このリカルドという男がいい男である所以だ。
リカルドから話を振られたアリアが一瞬ビクンと反応した後、少しバツが悪そうにしながらも口を開く。
「えーっと……あの後に一回故郷に帰ったんだけどね、なんかつまんなくてまた出てきちゃった。で、色々とフラフラしてたらたまたま此処に辿り着いて、で今は店員ってわけ」
うん、まぁ間違ってはいないが、足りないな。
圧倒的に足りていない。
「出てきたんじゃ無くて抜け出してきた、辿り着いたんじゃなくて逃げてきた、な?」
「あーっ!ちょっとクラウスそれ内緒!」
「今更内緒もなにもあるか」
はっはっは、アリアは店員、俺はマスター。
俺の方が偉いのでこれくらいは許されるだろう。
慌てて俺の口を塞ごう……としても遠いからまぁ無理なんだが、バタバタと両手を振り回しながらチラチラとリカルドへと視線を流すアリア。
なんか、この間から妙にリカルドを気にしてる気がするが……まぁ気のせいだな。
「クラウスさん、その辺で」
少しピリッとした怒気が滲む声に目を向ければ、マリーが眉間にシワを寄せていた。
……うん、そうですね。
ちょっとやりすぎたか。
俺が黙るとなにやらマリーとアリアが目配せをしているのが目に入る。
なんだかわからんが、あれか、女性同士でなにか通じるところがあったんだろうか。
なんにせよ、あまり誂いすぎるのも良くないよな。
「聞いちゃだめな話だったのかな?でも、クラウスの話が本当なら僕の知ってるアリアのままだったから、なんだか安心したよ」
「そっ、そう、かな?ま、まぁ!まだ半年も経ってないんだから、そんなに変わらないって!」
リカルドの言葉にアハハとぎこちなく笑うアリア。
うーん、やっぱりなんか変な気がする。
少なくとも俺が抜ける前のアリアとリカルドはもっと自然な感じだったと思うんだよなぁ。
今のアリアはリカルドの事を妙に意識しすぎているというか……。
先程の女性同士で通じたもので何かわかったんだろうかと腕を組首を傾げながらマリーを見れば、マリーは呆れた様子でこちらを見ていた。
えっ、なに?何かやらかした?
マリーに呆れられるようなことはしてないつもりなんだが……。
俺がマリーの視線に硬直している間にアリアとリカルドの会話にはギルも混ざりだし、気づけばまた混乱した状況になりかけた時、唯一会話に混ざっていなかった彼女がそーっと手を上げていた。
「あのー、皆さんが銀翼の隼で、何故か偶然此処に集まったのはわかったんすけど……結局、クラウスさんって何者なんすか?」
クロンのその声に一同がピタリと手と口を止めると、視線の集中攻撃が俺に降り注ぐ。
そうだよなぁ、そういう疑問が出てくるよなぁ。
もう隠す隠さないなんて迷う時は遠に過ぎ去り、やるべきことは一つ、だな。
「あー、まぁ、なんとなく予想はついてる……よな?」
此処までの話を考えれば、おそらくその答えしか出てこないだろうな、と思う。
自分の口で説明するのは少し気恥ずかしいのもあるし、クロンにはずっと隠していたという罪悪感もある。
だからクロンにその答えを出してもらいたい。
うん、ズルいとは自分でも思ってる。
「もしかしたらそうかなぁって前々から思ってたんすけど……やっぱり、千変万化のクラウスさんなんすか?」
「まぁ、そういうこと、だな」
「はぁ〜、やっぱりそうだったんすねぇ」
あれ、なんか思ったよりも反応が薄いな?
なんか、他の面々に比べるとこう、なんだろう、クロンの目の輝きが違うというか……。
冒険者ギルドの時はもっと盛大に驚かれたんだが……。
いや、あまり騒ぎにならないならそれでいい。
「思ったよりも冷静に受け止めてくれたな」
「いや、驚いてるっすよ?でも、なんかもう驚き疲れちゃったっす」
あぁ、それはそうだよな。
アリアを前にしただけであれだけ興奮していたのに、ギル……は身内だからともかく、リカルドまで来ればそうもなる。
俺はおまけみたいなもんだし、まぁこんなもんだろう。
「まぁ、俺の知名度は俺個人というよりも銀翼の隼の名前に乗っかってるようなもんだったしなぁ」
実際、冒険者ギルドですら偽物扱いされたしなぁ。
というかだ、他の連中が目立ちすぎてる気もする。
人の街には余り出てこない獣人にエルフ、目立つ仮面男に派手な魔法使い。
うん、そりゃ埋もれるよな。
なんて自分で納得していると、アリアを始め他の面々がなにやらため息をつくやら顔を覆うやらで、一様に呆れた様子を見せる。
その理由がわからないのか、マリーとクロンは不思議そうにそれらを見ていた。
俺もわからん。
そんな呆れ顔の3人を代表するかのようにアリアがため息と共に口火を切る。
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