第2話 女性物理学者として生きる………後編
つづく旦那さんのミューヨーク転勤。
そのうち旦那さんがニューヨーク転勤になる。で、彼女も旦那さんを追ってニューヨークで職探しを始める。ヤシバ大学で2年間、ニューヨーク市立大学で1年間の研究生活を送る。
なんの伝手もないところで仕事を勝ち取るところが素晴らしい。その頃には彼女の論文も世界中で知られていたことが就職につながったらしい。
アメリカでは車が無いと生活が出来ない。彼女は路上で車の練習を数回して試験に臨んだ。今の日本のように自動車学校も無い。「あんたは度胸がある」と運転の先生から言われ、あっさり合格した。
やれば出来るの信念だけである。その後中古車を手に入れ、大学の通勤や子供の送り迎え、その頃子供は3人、買い物から郵便局までフル稼働である。
そのうち隣の州で米国の物理学会が開催されることを耳にした。せっかくアメリカに居るのに行けないのは誠に残念ということで、旦那さんに相談した。まだ市内を走るだけでハイウエーには乗ったことがなかったので「俺が連れて行ってやろう」の言葉を期待したのである。
旦那さんの言葉は「出来ないわけはないだろう」だった。
しかし旦那さんが口にした言葉は「出来ないわけはないだろう」だった。彼女は「出たー!」と心の中で叫んだ。数年に一度の旦那さんの名言がまた飛び出したのだ。思わず笑ってしまった。
「自分に限界を引かない」というのは彼女のモットーであったが、運転歴の短さとかハイウエーの治安とか、命に関わる事態を前にして躊躇していたのだが、この旦那さんの一言で単独ドライブを敢行し学会に参加した。
「出来ないわけはないだろう」は運転に限った話ではなく、夫は自分自身についても、彼女や娘達に対しても、現状に甘んずることを決して許さず、いつもひとつ上のことを厳しく求めてきた。
彼女の人生の困難な場面でいつもこの言葉が現れて、勇気を与えてくれたのである。
アモルフェス物質の研究と京都サマー・インスティチュートの開催
その後京都大学に復帰し助教授となった。次の研究は、アメリカで温めてきた「アモルフェス物質の研究」である。それまでの日本のアモルフェスの研究は、応用面の研究が多く、理学的な基礎研究が不足していると感じていたのである。
4年目には世界中から200人以上のアモルフェス研究者を集めて「京都サマー・インスティチュート」を開催した。「アモルフェス半導体の基礎物理学」をテーマとした国際会議である。
彼女は組織委員長に選ばれたが、彼女得意の仕切り屋全開である。その会議は、資金集めから、運営、来場者のホテルの手配など多岐に渡るが、彼女は立派にこなし満場の拍手のもと会議は大成功であった。
その実績もあってか、その後慶応大学へ教授として招かれた。
慶応へ移ってからも野心的な研究を次々に開拓している。その一つは、従来は理論物理と実験物理の2本柱であったものに、コンピュータの進歩により加えた計算物理である。
その後「猿橋賞」を受賞。この賞は女性科学者を顕彰するために創設された賞である。その後、乳がんが発見され全摘手術を受けているが、術後3日後には職場に復帰している。5年生存率だとて彼女に掛かれば確率の話であり、全員がそうなる訳ではないと前向きに考える。
日本物理学会長への就任
その頃日本物理学会から電話があった。「今回の選挙であなたが選ばれました。受けて頂けますか?」という。会長選挙は、まず140名位の代議員が互選で3名を選出し、その後2万人全会員の直接選挙で選ばれる。そう言えば候補者に選ばれたという通知が来ていたなと思い出す。
前会長の伊達会長が電話の向こうで待っていて、思わず「ハイ」と答えた。120年近くの歴史のある学会で女性会長は初めてである。女性会員だとて3パーセント位しかいない。
その頃アメリカの国際会議に出席した日本の物理研究者が、アメリカの研究者から「日本物理学会では女性が会長に選ばれたんだって。すごいね」と言われた。当の米国だとて百年の歴史があるが、女性会長は一人しか出ていない。
「え?女性会長って誰のこと?」と聞き返した。米国人は驚いて「だって、米沢が会長になったんだろう」と言った。日本の研究者は「ああ。そう言えば米沢さんは女性だったね」と応じたのだ。
米国人は驚いて「君は今まで、米沢を何だと思ってたんだ?」と尋ねると「科学者だと思っていたよ」と答えたという。
彼女はこの話を聞いてとても喜んだ。彼女自身、女性を意識することなく果敢に挑戦してきたのである。我々から見てもとても素晴らしく、誇らしい。物理学会の人達が研究者としての彼女の実力を認め、尊敬し、切磋琢磨してきたのだ。我々のパートナーを見る目はそうあるべきなのだろうと思う。
日本の女性は、素晴らしいと思う。
最近の女性を見ていると賢く、挑戦的で、そして意欲的である。我々男性だとて、負けるわけにはいかない。自分の人生に限界を設けることなく、意欲的にチャレンジしていきたいと思う。
読書感想で、こんなに中身を書いたことは無いが、まだまだ端折ったことばかりである。本当は面白い話がもっともっと出てくる。まあ僕としては十分満足出来るくらい書き尽くした。
自分の娘も含めて思うのであるが、今後たくさんの理系女子がたくさん出てこられることを、願ってやまない。ぜひロールプレイのテキストとして一読して頂きたい。
リケジョにカンパイ!!
「女性物理学者として生きる」を読んで、すこぶる元気をもらった。・・・・・・出来ないわけは無いだろう! Ochi Koji @vietnam
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