第2話

あれから何日たったのだろう。

夢を見れば、必ずあいつが出るようになってしまった。

あの目が、じっと俺を見つめているその姿が脳裏に焼きつく。

まるで全ての負の感情を俺に向けられているみたいに。


次第に睡眠を取ることが怖くなってしまい、眠れない日々が訪れた。

しかし、眠らないようにしても体は睡眠を求めて気がついたら目を閉じてしまう。

そうするとあいつが現れて、俺を睨みつける。

その目をみて恐怖のあまりに目覚めてしまうと言うのが、ここ最近の流れになってしまっていた。


「弘樹、大丈夫?」

その声にハッとした。

バッと顔をあげると、そこにいたのは俺の同い年の彼女の町田悠美まちだゆうみだった。

そうだ。俺は今、彼女とレストランで夕食を食べていたんだ。

今日はずっと前から計画をしていた彼女にプロポーズをする大事な日。

「ぼーっとしていたけど」

「いや、大丈夫。心配かけてごめんな」

なんとか悟られないように、平気なふりをした。

大切な日なんだ。俺にとって人生が決まる大切な。

こんなところで体調不良なんか言ってられない。

今来ているこのレストランは、数ヶ月前から予約をしている。

失敗なんかできない。

「悠美、伝えたいことがあるんだけど」

「なに?」

「あのな、俺伝えたいことがあって……」

言葉を続けようとした瞬間、ゾクッと背中に気配を感じた。

『お前が、幸せになるのか』

突然、あの声が聞こえた気がした。


何かが、俺の背を見ている?

この視線は、あの夢の感じと似ている。

振り向けない。怖い。

まるで「幸せになるな」と言っているような気がする。


「伝えたいことって?」

悠美は俺の言葉が続かないことに違和感を持ち、聞いて来た。

「あ、いや……」

この日のために指輪を買って、準備をして来たんだぞ。

今、言わなければ。

でも、この視線の主が本当にこの場にいたとしたら?

俺は狙われているのか……?

一気に死と言う恐怖が俺の脳内を巡る。

このままプロポーズをしてもいいのか?


「そ、そうそう!今度一緒に旅行に行こうと思ってさ!そこで悠美の行きたがっていたのホテルを取ろうと思ってて!」

「本当に?!やった!あそこのホテルなかなか予約を取れなくて有名だったから、嬉しい!」


ニコニコと彼女からの嬉しそうな声を聞きながら、俺はゆっくりと背後を振り向いた。

そこには数人の客が楽しそうに食事をしており、誰も俺を見てはいなかった。

それを確認でき、俺はホッとした。

でも、なぜあの視線をここで感じたのか。

不安が残る中、俺は悠美の笑顔を見続けた。

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