誰かの夢の、そのまた夢で

森 椋鳥

第1話

この世はひかり輝いている。

見上げる空は常に美しく、人生はとても有意義で満足の行くものだ。

爽やかな朝の青空を見ながらそう思った。

俺、佐藤弘樹さとうひろきは東京の大企業に勤め、素晴らしい部下と上司に恵まれながら仕事をしている。

この間三十五歳になり、次の大きなプロジェクトに関わらせてもらうことになった。

順調に出世街道を歩んでいる真っ最中だ。

友人たちとも定期的に連絡をとっており、お酒を飲んで笑いあったり遊びに行ったりもする、そして今月末には今付き合ってる彼女に結婚を申し込む予定だ。


俺の人生で嫌だと思うことはなかった。

そりゃもちろん仕事とか嫌だと思うことはあったけれども大きな事件もなく、平和な人生だ。

順風満帆とはこのことをいうのだろう。


あぁ、俺は恵まれた人生を歩んでいるんだ。


そんなある日にそれは起きた。

仕事も終わり、明日も頑張れるように早めにベッドへ入り、夢の世界へ入って行った。


「ふざけるな」


冷たい声が聞こえた。

ビクッと肩を動かし、咄嗟に顔を上げる。

そこにはみなれない顔があった。

男か女かもわからない、ただ人影だけが見える。

誰だ、しらない、みたことない。

ハッハッと息がしづらくなってくる。

自分の手を見るとその手は異様に小さかった。その手で自分の胸元の服を掴んでなんとか落ちつけようとする。

なんだ、なにがおきてるんだ。


よく見れば相手はどうやら階段の上におり、俺をただ見ていた。

しかし、その目から伺えるのは憎悪、憎しみ、怒り、そんな負の感情だ。


バッと体を起き上がらせた。

全身が汗でベタベタして気持ち悪い。

あれは、夢か。

現実の自分に起きてることではなく、夢の中でおきている出来事だった。

ホッとしたが、まだ心臓がバクバクと脈打っている。

今まで経験したことない出来事だったため、少しパニックになりそうだった。


「あれは夢だ、あれは、夢だから……」


脳裏からあの目が離れない……。

なんであんな夢を見たんだ。気分がよかったのに、なんだって言うのだろう。


そして俺は、この夢を毎晩見るようになった。

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