第36話 俺のルートは

「ぁ、ぁ……ぁ」


「あれ、壊れちゃった? まぁ俺としては気持ちよくなるだから使えればそれでいいんだけど」


「おい辰、そんなに良かったのか……?」


「マジでよかった。お前らも使ってみたら?」 


 死んだ動物に群がるハゲワシのように、未那の周りを他の男たちが囲う。

  

「………お兄ちゃん……たす、けて……」


 鼓動が早まる。

 嫌な汗が止まらない。

 吐き気がする。

 鳥肌が立つ。

 寒気がする。

 目眩がする。


 最悪の展開がになっていたのなら———







「え……」


 俺が今見た光景は……


「あ、うぅ……」

「い、てて……」

「っ……」


 男たちに襲われて今頃は涙ながらに俺に助けている——と思っていたが……


「……お兄ちゃん遅い」


「え、あ……未那……? ぶ、無事なのか?」


「無事だよ。全く……この人たちも詰めが甘いって感じだよね」


 拉致られたはずなのに……未那は端の方にある椅子に何事もなかったように座っていた。


 逆に辰含める男たちは、地面に倒れて何やら腹や股間を痛そうに抑えている。


「こ、これは一体……」


 なんか急に身体が痛くなったのか?


「お兄ちゃん今バカなこと考えるの顔してるよ。アタシ、昔から男に言い寄られることが多々あったの。だから……習ってたの」


「……なにを?」


「護身術」


 あー…なるほど……なるほど……?


 理解が遅くなり自分にも混乱している。


『心配しないで2人とも。こう見えてアタシ強いから』


 ファミレスで未那が掛けてくれた言葉。あれは精神が強いとかじゃなくて、本当に強かったのね。


「翔太郎ちゃんたち大丈夫だった?」


「店長! はい大丈夫っす!」


 外回りを見てくれたオネエ店長。ここに来たってことはもう仲間はいないのだろう。


 それから近くにあったロープで逃げられないようにぐるぐると辰と男たちの身体を縛り上げ拘束。ムキムキ筋肉の店長が2人ずつ外に出した。それと、警察に突き出した方がいいとのことで俺は電話。


「でもさ、警察に電話して逮捕されるのか?」


「ああ、それなら」


 何やら携帯を取り出した未那。画面を見せてきて……


「これは……」


「そう、玄関前の映像。実は家にペット用の見守りカメラつけててさぁー。あ、高いからそんな本格じゃないけど。スマホと連動して見れてさ」


「つまり……辰たちと分かっていてここまでついてきたのか?」


「そーゆーこと。あの人たち、ヤるまでに色々脅し文句?言ってきてさ……。おかげで手を縛っていたロープ解けたし。結局携帯も取られなかったし、録音もばっちりよ。あとはまぁ倒れている通り。あんまり女を舐めないでってことを思い知らせわ」


 ドヤ顔をする未那に俺は思わず口を開けポカーン。


 ……すごい。俺の妹めっちゃつよーい!! 


 だが、いくら未那が強いからって危ないことに巻き込まれたのは変わりない。


 胸を撫で下ろし、俺は未那を抱きしめた。

 

「ん、くっつくな。暑いし……」


「……ごめん。もう少しこうさせて」


「……心配したの?」


「めっっっっっちゃっな! 妹が拉致されて心配しない兄がどこにいるんだよっ。それに巻き込まれたのは俺のせいだし……」


 言葉が詰まる。

 俺の寝取りクラッシャー活動のせいで、恨みを買って皆にまで被害が及んだ。だからこそ、罪滅ぼしじゃないが……俺が助けるへぎだった。


「ねぇ」


「な、なに?」


「責任感じてるの?」


「……わかる?」


「そりゃそんな顔してるもん。申し訳なーい、自分のせいで巻き込んで〜って顔してる」


「……」


「アタシ思うんだ。他の女の子やその彼氏さんのことは知らないけど……アタシとお兄ちゃん、それと七香さんは無事だった。それでいいじゃん」


 未那が抱きしめ返す。

 スッとその言葉が俺の罪悪感を包み込むように入ってきた。


「……未那」


「アタシはそう思っていいと思うよ。というか、そう思わないとキリがない。でも七香さんはお兄さんが逮捕されてどう思うか……」


「それなら事前に七香にはそうなってもいいと言われている。本人は元々絶縁するつもりだったらしい。今回のでそれが絶対に変わったとか。


「そ」


 しばらく抱き合った後、未那から離れた瞬間。


 パンパカパーン!!!!


―――――――――――――――――――

おめでとうございます!!

貴方はハッッピーエンドルートに進みました。


ルート:未那と幸せになる

――――――――――――――――――——


 

「………あ?」


 愉快な電子音と共に、目の前に現れたのはテレビ画面のようなウィンドウ。アニメやファンタジー小説で出てくるクエストボードみたいだ。


「どうしたの?」


「いや、ここにさ文字が出て……」


「なんもないよ? お兄ちゃん寝ぼけてるんじゃないの」


 未那に呆れ顔をされる。


 え、なに? これ俺だけ見えてるの? 騒動が終わった後で突然現れるの?


「……未那と幸せになるルートって……妹とこれからのほのぼのってか?」


 思わず呟く。

 小さな声だったと思う。多分未那には聞こえないくらいの呟きだったはず。


 なのに……未那は何故か真面目な表情。そして、


「ねぇお兄ちゃん」


「なに?」


「お兄ちゃんはアタシのことと思ってるの?」


 意味深なワード。「家事万能で物理的に強い妹だよ!」なんて冗談を返せない。それくらい真剣な雰囲気。


 俺はゆっくりと首を縦に振る。

 すると未那は深呼吸……続ける。


「実はアタシは……ふぅ……アタシはね、貴方ので貴方のことがな女の子……なのっ。アタシはお兄ちゃん……翔太郎くんが好き! だから……今日から妹じゃないからっ!!」

 

 告げられる。

 言い終わったものの、衝撃で未那から目が離せず、言葉も発せず……。


 しばらくして、心の中でゆっくりと整理し始める。


 え、あ、え……未那が義妹で俺のことが好き?


 ……………。

 …………………。


 告白、色々と告白されたよな……。


 ……………。

 …………………。


 告白は嬉しいし、初めてされた。


 ……………。

 …………………。


 どっちにしろ俺は、俺は……


 これからどうすりゃあいいんだぁぁぁ!!!

 



2つから選べます


▷▶︎後日談

▷▶︎バットエンド(?)

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