第37話 後日談 ▶︎▷未那ルート
あの件から1ヶ月が経った。
結論から言うと、辰たちは逮捕された。未那のレイプ未遂と他にも色々やらかしていたようで、即逮捕。意外にも捕まる時は暴れずあっさりしたものだった。
未那が無事で何よりだが、心配ごとは他にもあった。
七香だ。
寝取りを阻止するということは置いといて、実の兄が捕まって今後のことが心配だった。
だが、こちらも対処はスムーズで元々縁を切るつもりだったらしく、祖母の家に引っ越すことになったとか。
七香にメールで
『兄の行動を見てやっと目が覚めました。転校はしますが、後輩として仲良くしてくれるとありがたいです』
とのメールをもらってそれっきりだ。
七香は寝取りが関わらなければいい奴……アイツなら大丈夫だろう。
「いらっしゃいませ〜」
夏休みが終わった後も俺はカフェで働いていた。待遇と給料が良く、居心地もいいので続けているのだ。
土曜日とあってお客さんが多い。朝からひっきりなしに働いている。だがそれもあと1分で終わり。
何故なら……
「翔太郎ちゃん、可愛い彼女がきたわよ」
店長に先に言われてしまった。
「し、翔太郎くん迎えにきたよ! べ、別に10分前から外で待ってた訳じゃないんだからっ」
お決まりのツンデレで現れたのは、
「分かってるって。未那は俺が好きだから早く来ちゃったんだよな。すぐ行くよ」
「だ、だから! うぅぅ……」
私服で軽くメイクをしている愛しき彼女——未那だ。
あの後の告白を受け、その場では答えは出さなかったものの、未那と過ごした日々や俺に献身的に尽くしてくれた姿を普段から感じているので、2日くらいには俺からちゃんとしたプロポーズをした。そして恋人として付き合っている。
速攻で着替えにいき、また戻ってくる。
「じゃあ皆さん、お先に!」
「はいはい。お疲れ様でした。この後は2人でデートかしら?」
「まぁそんなものです!」
「しょ、翔太郎くんそんな大きい声で言わないでよ……恥ずかしい……馬鹿っ」
「あら相変わらず未那ちゃんは可愛いわ〜」
「俺の彼女なので狙っちゃダメですよ。ちなみにこの後は2人でデートなんで。デートなんで」
「翔太郎の奴2回も言いやがった!」
「これが非リアへの冒涜かっ!!」
同僚の悔しそうな声が聞こえる。ふふふ、恋人マウントがこんなにも気持ちいいとは……
「んじゃ未那行こうぜ。早くしないと日が暮れちゃう。あっ、もちろん夜ご飯を作るのは手伝うぞ!」
「夜ご飯を作るのは手伝う? え、今日は自分たちで貯めたお金でホテルに泊まるじゃ……」
「え、その件は来週じゃなかった?」
俺と未那で何やら食い違いが起こる。
「ち、違うし! ちゃ、ちゃんと今日だったもん! カレンダーにも丸付けたし……。せっかく夜のために覚悟もしてきたのに……」
うっすらと涙目になってきた。
ホテルに男女が一夜を過ごす。
何をするかわかるだろう? そしてそれにはすごく覚悟がいる。なんたって、彼女の初めてを奪うわけで……
「いや、そのさ? やっぱり来週にしません? 今からならホテルのキャンセル効くと思うし、俺の方が色々と覚悟できてないので……」
「酷い……アタシが彼女が覚悟決めてるのに……翔太郎くんの馬鹿っ、ヘタレ……」
……これはマズイ。
もちろん未那もなのだが……。
恐る恐る後ろを振り返る。
腕組みして、無駄にゴゴゴ……と威圧感を放散しているのは店長。奥の方で同僚やお客さんがニヤニヤと笑っていたり、羨ましそうに血涙を流していたり、ゴキゴキと合わせた手の内側で骨を鳴らしていたり……と様々な反応。
「もう翔太郎ちゃんったらぁ乙女の誘いを断るなんてぇ、ダメな子じゃなぁい♪」
猫撫で声なのに、店長の目は笑っていない。
続けて同僚やお客たちが言う。
「美少女を抱くチャンスをフイにして彼氏名乗ってんじゃねーよテメェ―――!!」
「問答無用でホテルでせんかワレェ――――っ!!」
カフェという落ち着いた空間で浴びせられる言葉じゃない。
俺へのブーイングの嵐。ひとまずここでする話ではないので、
「もう帰る時間から5分経っているのでそろそろ店出ます! ……未那行くぞっ。それではお疲れ様でした〜。お客様はごゆっくり〜」
「え、あっ、翔太郎くん」
「「「待てこらぁぁぁ!!!」」」
未那の手を引き急いで店を出る。
幸い逃げ切り、木陰で休む。
「翔太郎くん……本当にホテル行かないの?」
「……行かないとダメ?」
「だ、ダメ! てか恋人とのお泊まりデートの日を忘れるとか信じらんない!」
プイッと未那が顔を背けた。
いや、俺だって忘れたわけではない……はず。ほら、しっかりと携帯のメモ帳に記入してある……あっ、来週って書いてる。
「未那、未那さんや」
「……さん付けは嫌」
「未那本当にすまねぇ!! こんなポンコツな彼氏を許してくれっ!! ちゃんと反省してます! こ、これからホテルにもちゃんと行きます!」
「か、覚悟はどうするの?」
「そ、そりゃお昼からのデートで決めるしかないだろっ。大丈夫だ! 俺は未那大好き星人だからすぐに覚悟は——」
「も、もうそれ以上言わなくていいからっ!」
俺の言葉を言わせないとばかりに未那がギュッと抱きついてきた。
「……ごめん。アタシもカッとなりすぎた」
「いや、カッとなって当然だ。大事な日を忘れる彼氏なんて酷いからな。俺も次はちゃんとする。……ごめんな」
「ん。反省してるなら……いい。……馬鹿っ、好き……」
「俺も好きだ」
ギュッと抱きしめ合うこと数秒。すっかり仲直りした俺たちは立ち上がる。
「じゃあ行くか未那」
「うん。今日もちゃんと楽しませてね。そして……離さないでね、翔太郎くん」
「任せとけ。未那は俺が守るからな」
俺と未那は心の底から笑い合い歩き出した。
ふと、思うことがある。
人生は選択肢でできている。
もし、俺がどこかで選択肢を変えていたのなら……また違ったルートに進んでいたのかな。
未那ルート(完)
▷▶︎IF:バッドエンド(?)『七香ルート』に進みます
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