第30話 最悪の展開

(七香side)


  ——アイツが最近やけに大人しい。


 ソファーで携帯をいじる兄に、私は疑いの目を向けた。


 相変わらず帰ってくる時間帯は遅いが……ここ最近は家に女を連れ込んでヤることも少なくなった。

 

 それがなのだ。おかしいと疑問に思う私は相当毒されている。


 まぁ興味はないので、いつも通り冷蔵庫からそのまま食べれるものを取り、兄の後ろを通ってリビングを出ようとした時、ふと携帯の画面が見えた。


「っ!?」


 一瞬見て、別のところを見る。


「んぁ? どーした七香」


「な、なんでもないしっ!!」


 ほんの一瞬……だけど記憶には鮮明に残っている。


 画面には——翔太郎アイツの彼女が移っていた。



「じ、実は……アイツが————未那ちゃんを狙っているの!」




(未那side)


「なんですか貴方」


 手を突っ込みながらアタシを見下ろす男。金髪にピアスにサングラス……いかにもチャラい、遊んでますよーとアピールしている。


「やぁ初めてまして」


「初めてましてさようなら」


「あはは、釣れないな〜。もう少しお兄さんとお話しようよ」

 

「嫌です。貴方なんですか? ナンパですか、口説きですか、何か企んでいるですか?」


「俺は瀬尾辰って言うんだ。そうだね、君が可愛くて声をかけてしまった。嫌な気持ちにさせてしまったらごめんな」


「ふーん。その対応だとこういうのに慣れているみたいですね」


「君こそ慣れた対応だ。そのツンツンな感じ、惚れ惚れするよ」


「貴方に言われても嬉しくないです」


 お互いに見合う。コイツと視線なんか合わせたくないけど。


 自分で言うのもなんだが、容姿はいい方だと思う。なのでこういう口説き文句系の人の対応は慣れているが……コイツはちょっと厄介そう。

 

 初対面なのに「みーつけた」と話しかけきて、それからは「今1人?」とか「誰かと来てるの?」などと聞きにこない。


 これは……


「アタシ、貴方とこれ以上弛む気なんてないのでどこか行ってください」


「そんな〜。じゃあ言いたいことだけ言って帰るね」


 チャラ男は馴れ馴れしく、アタシの対面。つまりは先ほどまでお兄ちゃんの席に座ろうとしてきた。

 

 やめて、お兄ちゃんが座った席に座らないで——


 アタシは反射的に。


「やめてッ!!!!」


「!?」


 叫んでハッとした。


 ファミレスの客がなんだ、なんだとアタシたちに視線を向ける。


「未那っ!!!」


 タイミング良くお兄ちゃんが帰ってきてくれた。後ろから控えめに来る七香さんの姿も丸見えである。


 ……時間稼ぎができて良かった。


「おいおい……こりゃ随分と手強いなぁ……」


 チャラ男が苦笑しながら何やら呟く。


 すると、お兄ちゃんがアタシを庇うよに前に出て、チャラ男に詰め寄った。


「辰……お前未那に何した……?」


「よぉ翔太郎。今日はいい天気だなぁー。俺が彼女に何したって? ただ俺はに話しかけていただけだよ」


「……信用できねぇ。もし未那を狙ってんなら……俺はお前に何をするか分からない」


「おーおー怖い怖い。随分と彼女想いなことで。まぁ当然か。大切な存在だもな。お前にとって」


「お前……」


「だが、狙っているのは彼女とは限らないぞ。視野を広くするんだな。じゃあな〜」


 居心地が悪くなってか、チャラ男はそそくさと店を出た。

  





 "翔太郎の知り合い"


 俺は辰に未那の存在を明かしたことはない。七香も遊園地で会ったものの、ああやって忠告するってことは、彼女が告げ口した訳でもない。


 ということは……辰が自分で調べたんだ。七香の言っていたことは本当だ。


『じ、実は……アイツが————未那ちゃんを狙っているの!』


 よりにもよって未那を。

 

『兄の厄介ごとに妹を巻き込むんじゃねえ』


 俺が言えたことじゃねぇ。


 最悪……最悪の展開だ……。







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