第三章
第28話 待つ者
夏休みに入って一週間が経った。まだまだ休みは1ヶ月くらいある。あるはずなのに……俺は制服を着て、学校に着ていた。
「お前ら、なんで夏休み一週間後に呼ばれたのか分かってんのか?」
ジャージ姿の体育教師。加藤センが言う。
照りつく太陽の光。青空を自由に泳いでいく入道雲。蝉の鳴き声と外から聞こえてくる野球部の喧しいくらいの掛け声が聞こえてくる。
空調の効いてない教室には空いた窓から吹き込んでくる風だけが命綱。
汗でじわじわと制服が張り付くのが不快で仕方ない。
夏……夏だ。夏休み中だ。なのに何故か教室にはチラホラと生徒がいた。
シーンとした教室に加藤センがため息。
「……はぁ、誰か答えろよ。……御手洗、お前は呼ばれた理由、分かってるよな?」
「この前のテストでちょっと赤点が多かったからっすね」
「そうだ。お前らは赤点を取ったんだ。分かっているな? うちの高校は1つでも赤点を取ったら夏休みは補習だ。……まぁ4つも取ったバカもいるがな」
俺っすね、はい……。だって勉強苦手なんすもん!!!!
「残念だが、お前らの夏は今日から一週間、この補習で潰れる。まぁ夏休み初日に補習を始めなかったのに感謝をしてほしいな」
夏休み一週間後というと、身体が休むのに慣れ、徐々に日にち感覚が麻痺したり、宿題をそろそろしないとなーと思いながら昼間に起きている頃だ。こんな時に補習をするなんて……チクショウ!!
それからみっちり3時間勉強をして……
「今日の補習終わり! お前らは来年は赤点取るんじゃねーぞ。じゃないと大事な夏がなくなるからな〜。じゃあまた明日〜」
また明日という言葉にこれほど憎さを感じたことはない。
冷たいアイスを求め、急いで教室を出る。
こんなに辛い思いをするなら、未那に勉強を教われば良かったなー、中3で受験生だけど。未那は頭が良くて学年もいつも5位以内をキープしている秀才だから心配はないが。
校門を出ると、見覚えのある人物がいた。
「え、未那?」
「あ、やっと終わったの? 遅い」
「ご、ごめん……てか、こんな炎天下の中待ってくれていたのか! 未那の白いお肌が焼けてしまうぞ!」
「ひ、日焼け止め塗ってるから大丈夫だし。ベタベタ触んな! そ、それにずっと待ってたわけじゃないからっ! た、たまたま学校の前を通りがかったから……」
と、照れたように顔を逸らす未那。
首筋に汗をかいてあることを見逃さない俺でない。
「帰り、アイス買いに行こうと思うんだけど……奢ろうか?」
「ありがと。もちろんハーゲンダッツね」
「任せておきなさい」
2人して歩き出す。
こうやってゆったりとした兄妹の日常っていいよな……。
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