第26話 いや、俺。寝取り対象(のちの彼氏)ちゃいますけど??
どうしてクソ兄貴がががかがががか!?!?
というテンプレな驚き方はしない。
やっと会えましたな、が今の心境。
「えーと、どなたが存じ上げませんが……こんちは。いい天気ですね」
「ふーん、そういう系ねぇ。名前を名乗らなかったのは悪いと思っている。俺は瀬尾辰。君の隣にいる七香の兄だ」
にこやかに微笑みながら、相手に好印象を与えるように優しく言う辰。両端には美女が2人。残りの美女たちはどうしたのだろうか。
「たーくん。なになに、知り合い〜?」「えー妹ちゃん!」
「そうそう妹。俺の可愛い自慢の妹さ。なー七香?」
名前を呼ばれた七香は、言い返さず、何か言いたげな表情で辰を見ていた。
さっきまで家族の話してたし、今は顔を合わせるのは気まずいだろう。
俺も真似して、人懐っこそうな笑顔を作る。
「お兄さんでしたかぁ〜。どうも初めまして。俺は御手洗翔太郎といいます」
「翔太郎か。よろしく」
「はいー、よろしくお願いします〜」
テメーとよろしくしてたまるか、ヤリチン、クズ、寝取りチンポ、寝取り大魔王。
原作では悪いイメージしかない辰が、トラウマを植え付けられた被害者の代表として俺は嫌いだ。
だが、一度腹を割って話をしたいとは思っていた。
すると、辰は俺をを隅々と見だした。え、なに。気持ち悪い。
「ふーん、見た目はどこにでもいそうな凡人だな。なにか飛び出たものとか、オーラとか感じねぇし……。七香ぁ、こんな男がターゲットなのか?」
んだとコラぁ。その通りだけどムカつく。
「はぁ? ターゲット……? ……っ! まさか……違うに決まってるでしょ!」
「おーおー。そうムキになって言い返すなって。……こりゃ黒だな」
「だから違うって!」
「まだ言うのかよ。たくっ、面倒なヤツ。大体、お前がこんなにもちょっかいかける男っていねぇだろ。それに今、2人っきりでいるし。ターゲットじゃなければ、こんな人通りの少ないところで2人っきりにならねぇだろ」
「ちょっかいはあっちからだし、今2人っきりなのは……ああもう! 違うってば違うの!!」
兄弟が何が言い合っている。
よく見比べると目元とか似てるな。
にしても辰の言い分が気になる。
俺は辰を原作で知っているが、辰にとって俺は初対面の男。偶然にも妹の隣にいた知り合いか、幸運にも妹に話しかけられた同じ学校のモブ。
なのに……まるで
ま、まさかな? ……ちょっと勇臣と俺の境遇を比べてみようと思う。
芳賀勇臣
・七香によく付き纏われてる。絡む。
・彼女あり
・人脈が広い
・七香の邪魔をするから、自然と絡む。
・偽造彼氏ならしたことある。(彼女あり?)
・自分で人脈広げたからまぁまぁ広い
………うわっ、結構共通点あるやん。
本当に辰は、元は勇臣の立場だった寝取り対象を俺だと勘違いしているのか?
……どうする、俺。
下手に否定すりゃ、勇臣と遙に辰の魔の手が及ぶかもしれない。
仮に、このまま勘違いしたままでいられたらターゲットが俺になる。もちろん俺には彼女なんてものはいないから、寝取られの被害はない。
未那は……いや、未那は俺の寝取クラッシャー活動のことは知らないし、巻き込まれるなんてことはない……はず。いや、ぜってぇ巻き込まない。
「だーかーら!!」
「「七香は黙ってて(ろ)」」
皮肉にも辰と声が被る。
「ちょ、アンタ……」
「悪いな七香」
ここからは俺とコイツしかわからない会話……いや、俺たちの直接対決だ。邪魔はするなよ。
「ほーう、言うなぁ。やっぱりお前が……」
「俺がお兄さんになんて認知されているかは知りませんが……俺はお兄さんのこと、結構悪い人なのかなーとは思っています」
「あ? 悪い人? ……あーもしかして昼間のヤツ、見ちゃった勢?」
「そうですね」
「昼間?」
七香と辰側の美女2人はハテナを浮かべるが、気にせず話は続く。
「あれは……まぁ俺に彼女や妻を奪われるアイツらが悪いと俺は思うぜ。大体、女1人も幸せにできないとか……無能すぎ。だから俺が代わりに幸せにしてやってんの。暮らしも、性欲も。なぁお前ら?」
「いやん、たーくんってば!!」
「もーう。エッチ♪ 私たちは辰くんの彼女になれて幸せでーす♪」
美女2人を抱き寄せ、俺に見せびらかすような態度を取る。すんごいムカつく。
「へぇーそうですか。なるほど。俺の認知が間違っていないことが改めて分かりました」
「……俺も分かったわ。お前のこと。七香に気に入られる要素、あるよお前。……そういや、男は喰ったことなかったなぁ……」
最後の方が聞き取れなかったが、背中にゾワリと鳥肌が立ったのは何故だろうか。
今度は俺から仕掛ける。
「アンタがどういう事情で人様の恋人を寝取るようになったかは知りませんが……兄の厄介ごとに妹を巻き込むんじゃねえ」
ピクリと辰の眉毛が動くのが分かった。
「テメェ……」
「と、凡人の俺が生意気に言うのを許してあげてください」
お互いしばらく睨み合う。
先に視線を逸らしたのは辰。フッと笑い、
「今日のところはここで終わりにしようぜ。会話だけじゃ決着はつかなそうだし。それに俺の女たちをビビらせたくない」
「たーくん、この人怖ーい」
「早く向こうでイチャイチャしよ〜」
「って、ことだ。じゃあな翔太郎。あと……七香。お前、見る目あるなぁ」
そう言い残し、辰は美女2人にくっつかれ去っていった。
次回はどうなるんだ! お楽しみに!! 的な終わり方になったけど……言わせてくれ。
いや、俺。
「アレはめんどくさいタイプの男だな」
舌打ちをしながら辰は呟く。
あの揺るがない瞳、態度……めんどくさいタイプだ。そして……彼女を寝取ったら、一番面白い反応をするタイプ。
くっくっくっ、と辰は楽しそうに喉を鳴らし笑う。
「んで、アイツの彼女特定できた?」
自分を囲む10人の美女に聞く。
派手な見た目をした美女が辰の腕にひっついてきた。
「あーしみっけたー。彼女というか、あの男。どっかで見たことあるなーて思ったら、湊中の可愛いいって有名な子の隣に写ってた〜」
差し出された携帯画面を辰は覗く。
そこには確かに翔太郎の姿が確認できた。他に3人写っている。
翔太郎が偽造彼氏を受けよった時、一緒に遊んだ栞と集。そして——
「ハッシュタグ、『遊園地でダブルデート』ねぇ……。この子がアイツの彼女。……ふーん。てか、この子可愛いなぁ」
まるで新しいターゲットでも見つけたように辰はニヤリと笑う。
そしてもう一度目に焼き付けるよう、その女の子をじっくりと見る。
翔太郎の妹——未那の姿を。
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