第25話 寝取り側の裏設定

(七香side)


 昔からああいう人だった訳じゃない。そう、昔はもっとマシだった。普通のいいお兄ちゃんだった。

 

 アイツがおかしくなったのは、間違いなく母親のせいだ。


 ある日、いや……やっと両親が離婚した。理由は母親の浮気。

 母親は浮気癖が凄かった。朝昼晩は、他の男のところに行き、セックスしたり、高級品を奢ってもらったりと、欲と豪遊の毎日。家にはほとんど帰ってこず、私と兄の授業参観や運動会などの行事には一度だって参加してくれたことはない。


 父親はそれでも何故が見て見ぬふりをしていた。惚れ人だったらからだろう。

 

 だが、我慢の限界がきたようだ。

 私と兄がまだ小学生の頃、離婚話になった。


 金銭的面でかなり支えてもらった父親に離婚を突きつけられたというのに、母親は笑っていた。そして、悩む様子などなく、離婚を承諾。


 最後に何かあるか、という父親の言葉に、母親が返した言葉が、今でも鮮明に残っている。

 

『いい男なんて、アタシにかかればいつでも手に入るわ。じゃあね、4番目のいい男さん』


 私たちは母親の方に引き取られた。というか、父親は私たちをあの人の子供だがらと薄汚い目で見るように見捨てた。


 それからも変わらない日常。いや、変わったといえば母親が家にいるようになった——どこの誰かも知らない男を連れ込んでセックスするために。


 その光景に影響され……お兄ちゃんは……アイツはおかしくなった。




「……」


めっちゃ重いなぁ、おい!!!!


 おおまかな話を聞き、思わず心の中で叫ぶ。


 家族の影響で兄が寝取り癖がつき、連

鎖するように七香に移った。というのは原作でちょろっと見たが……ここまで泥沼とは……。


「どう? ひいた? 家に帰れば毎日毎日毎日……どこかの恋人や既婚者を連れ込んでセックスしている人の姿があるの。……そんなの、頭おかしくなるよ」


「……ひいたというか、重すぎて感想が中々出てこねぇ……」


 母親イカレすぎだろ。そして辰も今では立派な寝取り魔だが、親の寝取り現場を、ずっと見てきたと思えば……そりゃおかしくなるわな?


「まぁそうよね。……アンタに『クソビッチ』って言われた時さ、すごくムカッときたの。それは、離婚を突きつけられても余裕げな母親に、父親が苦し紛れに吐き捨てた言葉だったから」


「……」


「あの人と私は同じじゃない。そして堕ちたアイツとも。……でも、よくよく考えたら私もそっち側に片足突っ込んでいる。今更気づく私って、本当にどうしようもない女だよね……」


 声が震えてきた。

 涙を流さまいと、拭く七香。次第に、目を擦る回数が増えてきた。


 生憎俺は、この重い過去を一瞬で報われた気持ちになる名言は持ち合わせてないし、行動もできない。


 ただ、言えるとしたら……


「俺が話を聞いて今言えるのは1つだけ。寝取りが関わらなかったら、お前は普通にいた奴だと思うぞ」


 だって寝取りともい、彼女なしの男相手だったら、ただの好きな人を堕とすために頑張る、積極的な美少女だし。 


 七香の瞳が揺れるのが分かった。


「……そう?」


「ああ。変わるってなら、喜んで協力するぞ。もちろん恋も。今度は彼女いない誰かカッコいい男探そうぜ!」


「……」


 俺の言葉を聞き、七香は俯く。


 涙を我慢しているからだろうか、それとも辛い過去を思い出したからだろうか。


 と思いきや、バッと顔を上げ、


「じゃあ———」


 俺に何かを告げようと——


「みーつけた」


「「っ!?」」


 男の声。七香とともに振り返る。そこには……


「探したぜ、七香と……そのターゲットくん」


 ニヤリと微笑む辰の姿があった。

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