第20話 陰は見守る。勘違いを
「じゃあお願いね、いーくん」
レジャーシートにうつ伏せになり、ポニーテールを右に流した遙が勇臣にお願いする。
勇臣は日焼け止めを手に塗りながら曖昧な返事。どうやら照れているようだ。
普段ポニーテールに隠れて見えない、綺麗なうなじが露わになっている。
勇臣は、ゴクリと唾を飲む。
まるで、何かに耐えるように。
「じゃあ塗るぞ……」
恐る恐る遙の背中に触れた、瞬間。
「ひゃっん!」
「ちょ、変な声出さないでもらえます?」
「だって思ったよりも冷たかったから〜。ごめんね、いーくん」
「あ、そっか……。俺の方こそ、ごめん」
気を取り直すように、理性を払うように首を振る勇臣。再開する。
ヌリヌリ
肌はもちもちしていて、手に吸い付くような柔らかさ。
なるべく見ないように首を横にしながら塗っていく。
そして手が止まった。
「……」
視線は下にいく。
おそらくお尻の方は塗った方がいいのか悩んでいるんだろう。
揉むんだ勇臣! お前なら揉んでも間違いだったと言えば許され——
「翔太郎顔がうざいぞ! どうせ心の中で実況でもしれるんだろ!!」
「ははは、バレたか」
横であぐらをかきながらガン見してましたからね。
勇臣の葛藤の一部始終を目撃していた俺は、そろそろ絡んでやることにする。
「なーに照れてるんだよ〜」
「て、照れるよ! その、彼女の肌なんだし……」
「いーくん終わたの?」
「あ、ああえと。下は塗った方がいいのか?」
「あーうん。特に足とか。あ、水着着ているところはいいから」
「残念だったな、勇臣」
「ぜ、全然残念じゃじゃないよ!」
「全く、先輩と貴方はいつからそんなに仲良くなったんですか。コミュ力お化けですか」
同じく見守っていた側の七香がジト目で聞いてくる。
「へっ、このモブ太郎様を舐めんなよ」
「その顔、うざいです。べーっ」
「お前らは逆に仲が悪いな……」
それからはひたすら遊んだ。4人でボールを使って遊んだり、競走したり。青春してるって感じで良きだった。
「あー、喉乾いた」
プールから一旦上がり、身体を拭く。
勇臣と遙は楽しそうに遊んでいる。先ほどから七香の姿が見当たらないが、まぁアイツも何か買いに行ったのだろう。
自動販売機くらいその辺にあるだろうと、ぶらつく。
向こう側、すぐに自販機が見つかった。
そして七香らしき水着の人影もある。
他にも人間がいるようで、近づくにつれ、2人連れの男だった。
「え、連れがいるからダメ? 飯がダメならちょっとだけ遊ぼうよ〜」
「つか、イマドキのJKってこんなにエロカワなのかぁ〜。俺たち君のこと気い言っちゃたなぁ〜。遊んでくんないなら拉致っちゃおっかな~」
大学生っぽいチャラそうな2人組に阻まれ、七香は自販機の前で不服そうな顔をしていた。
けどこういうのに慣れているし、大丈夫だろう。
そのままスルーしてもいいかなーと思ったが、七香が一向に話さないのが不思議であった。
「ねぇねぇ、さっきから黙ってるけどどうしたの?」
「見た目清楚そうだけど、実はビッチなんでしょ。水着のサイズ合ってないし、誰とでもオッケーって感じじゃないの?」
「………」
七香は口を結んで俯いて、いつもの威勢なんて微塵も感じられねえ。
何故だ? なんか調子が狂うことでもあったのか?
理由はわからねえがこのまま行くと、アイツらに連れて行かれる。
俺の目的はあくまで寝取りを止める事であり、アイツが他の男に連れられて犯されることではない。
俺は舌打ちして足を速める。
「もしかして怖がっている感じ?」
「そうなの? そんな怖がんないでって! 傷つくじゃ~ん! ほら、ちょっと遊び行くだけだから――」
「おい、七香」
どこに触れるつもりだったのか、七香へと伸ばされた男の手を肩で弾いて、彼女に話しかける。
「もたもたしやがって、遅えんだよ」
2人組の間から七香を引っぱり出して、たまたま持ってきていたパーカーを肩へかけた。
「……んだよ、チンコ付きかよ」
「あ?」
悪態を吐いた金髪に目を向ける。
無言で、じっと睨んでいれば、金髪は明後日の方を向いて笑った。
「はは……怒んなよ。男いる女に手なんか出さないって」
「でも彼氏くん、彼女にはも少し優しくした方がいいよ? そんな横暴だから他の男を誘う格好するんじゃない?」
なんだこいつら。
俺がコイツの彼氏なわけないだろ。
男2人はそう残し去っていった。暴力沙汰にならなかったからまだマシか。
「悪かったな。せっかくの逆ナン邪魔しちまってよ。自慢の胸を放り出して誘ったのか? 相変わらずのビッチだな」
「……違うし」
なんだその気の抜けた返事は。調子狂うだろうが。
「だぁぁぁ〜〜っ!!」
盛大なため息をついてやる。コイツにはこんな姿似合わなすぎ。
ムカッときた俺は七香の頬を摘んでやる。
「いひゃいいひゃい! 何すんのよ!!」
「お前がしらけた顔してるからだろ。なんでそんな静かなんだよ。いつもの威勢はどうした? お前がそんな調子じゃ張り合いがねぇ。原因を言え」
「べっ、別になんでもないし! アンタにアイツは関係ないっ」
おっけい。そのワードだけで十分だ。恐らく兄とあったのだろう。
「分かったよ。とりあえず無理強いはしない。でも勇臣と遙さんの前で暗い顔するくらいなら、俺に言って少しはスッキリした方がいいけど思うけどな」
そう言い、自動販売機にお金を入れ、麦茶のボタンを押す。
「お前も飲む? お金余ってるし誰か押していいぞ」
七香に聞くと無言で紅茶のボタンを押した。
お互いに無言のまま飲み物を飲む。
ついに
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