第12話 妹の彼氏になりきれ!!①

「お兄ちゃん、早く〜〜!」


「少々お待ちを!!」


 午前9時30分。

 玄関先から、妹の催促の声が聞こえる。

 俺が遅いのではない。未那が早すぎるのだ。

 

「どれを着ていこうか……。こっちか? いやこっちの方が……。翔太郎、服のバリエーション少な過ぎだろ……黒しかないぜ」


 思い返せば、昨夜は妙にソワソワしていた。夕食も俺がベタ褒めした唐揚げだったし……。そんなにお兄ちゃんとのお出かけを楽しみにしていたのか。


 急いで服を着て髪を整えて、玄関に向かった。そこには、いつもと違う未那が居て……


「な、何よ………」


 ニットワンピースに、素肌が綺麗に見えるヒールミュール。

 ニットワンピースのスカートは広がりは少なく、長さは膝下。トップス部分のきれいなシルエットを強調している。


 髪型もいつものサイドテールではなく、肩まで下ろしていた。


 ソワソワして落ち着きのない未那の表情を見て、俺は満面の笑みで言う。


「めっちゃ似合ってぞ! 惚れたわ!」


「ほ、惚れっ!? ばっかじゃないの! 妹に惚れたなんて……」


 と言いつつ、嬉しそうにニマニマしているのが可愛い。





 目的地の駅まで雑談をしながら歩く。


「んで、どういう経緯で俺が彼氏役に抜擢されたわけ?」


「それは……その……。実は学校でさ、友達と恋人の話題になってそこで……」


『私の彼氏くんね、凄く塩対応で本当に私のこと好きなのか心配になるんだよぉ〜。未那ちゃんは彼氏さんとはどう?』


『へ? 彼氏?』


『あ、もしかして……。未那ちゃん、よく告白されてたからてっきr……』


『も、もちろんいるよ! 2歳年上の彼氏がさっ!』


 なるほど。見栄を張ってしまったのだな。


「見栄張って悪かったわね!」


 おっと、声に出てしまっていたようだ。


「まぁそういう理由なら、お兄ちゃんが最適だよな」


「そんなの、お兄ちゃんとしか……」


「?」


「何でもないっ!」


 駅前付近に着くと、手を振っている女子とその隣にポケットに手を突っ込んで立つ男が見えた。


「未那ちゃん! こっちだよ〜」


「栞! ごめん待った?」


「ううん、待ってないよ。私たちも今来たところ」


 お互いに手を握り合いキャッキャっと盛り上がる女子ズ。


 俺はその彼女の隣にいる爽やかボーイくんと目が合い、軽くお辞儀。


 今日は電車を取り継ぎ、隣町にある遊園地に行くらしい。


 俺も前2人についていことした時、ふと、未那が俺の右腕に抱きついた。

 巨乳とはいえないが、それでも女の子らしい柔らかさを持った胸が腕に当たりドキッとする。


「あの、未那……さん?」


「きょ、今日は恋人設定なんだし、スキンシップ多め……でいく。じゃないと疑われるでしょ?」


「それもそうだな……。うむ、存分にくっつきたまえ」


「ちょーし乗んなし! ……少しくらいドキドキしてよ、ばかっ」


「……」

 

 平静を装いつつ対応するが、実際は心臓がバクバクだ。

 

 腕に当たるおっぱいの感触もそうだが、何しろ未那の顔が近すぎる! ただでさえ可愛いのに、ファッションに合わせてメイクをしていて、いつもと雰囲気が違う。


 だが、ドキドキさせられっぱなしで終わらないのがお兄ちゃんだ。


 反撃しよう!!


「なあ、未那。今日は俺、未那の彼氏なんだろ。だったら、未那は俺の彼女だよな」


「そ、そーいう事になるね……」


「だったら、お兄ちゃんって呼ぶのはおかしくないか? 名前で呼んでくれ」


「えええっ!!」


 反撃成功。

 未那は赤面し慌てふためいている。

 せっかくの大人の雰囲気が崩れてしまったが、これはこれで可愛い。ツンデレ妹可愛い。


「でもブラコンな未那ちゃんは無理でちゅよねー。あーあー即バレで終了かな〜」


「い、言えるし……! 馬鹿にすんな! ……ずっと陰で練習してきたんだから……」


 未那は一息入れた後、俺の顔をマジマジと見上げて……


「じゃあ言うよ? その……しょ、翔太郎……くん?」


 ぐふう!!!!! 

 くん? なんですかその可愛いハテナはぁぁ!!!

 腕におっぱいが当たっているのと、上目遣いという最強コンボに俺の理性は撃沈寸前……本当に惚れてしまうやろが!!


 表向きは冷静さを保ってはいるが、今日1日大丈夫なのか。バレるバレないよりも、もっと大変なんじゃ……。


 頑張れ俺! 頑張れ翔太郎!









「あれって……。ふーん……人の恋路は邪魔して自分はノコノコ彼女とデート……。ふふっ、許すわけないじゃない」

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