第4話 ああ、モブはクソビッチと言った
放課後。3階の空き教室にて待っていると、七香が来た。
「差し出し人を書いていないと思ったら……貴方でしたか」
「へぇ、顔を覚えてくれてるんだな」
「当たり前じゃないですか。先輩の前で私とどっちが好きとか聞いてきたんですから」
ニッコリと微笑む姿はもちろん可愛いが、この様子だと怒ってるよなぁ。
「いやー、悪い悪い。あの時の俺はもしかしたら振られたショックであんな事を言ってしまったかもしれない。ここは振られた敗北者に免じて許してくれ」
「その振られた敗北者が今度は何のようです? 私、これでも忙しいんです。あっ、もしかしてぇ〜、腹いせにここで私を襲っちゃうとかぁ〜? きゃー怖い〜」
「はいはい、ぶりっ子したいならしとけ。あと録音録画もご自由に」
好きな人に話しかける態度じゃない俺に、さすがの七香も気づいたようだ。
胡散臭い笑顔が消える。
「へぇー……やはり、あの告白は私を邪魔するものでしたか」
「当たり前だ。単刀直入に言おう。俺はお前の寝取りを阻止しに来た」
「へぇ……貴方みたいなポッと出てきた人がですか」
七香は口に手を当て、嘲笑うように笑う。
ならば俺も挑発してやろう。
「ああ、そうだ——クソビッチ」
俺の声が耳に届いた途端、七香の表情は怪しく変化した。
「今クソビッチって言った?」
彼女は俺が放った言葉を復唱した。
「ああ、言った。人の彼氏を寝取るとかクソビッチ以外の何者でもないだろ?」
俺の言葉に七香は何故か激しく動揺し、怒った。
「っ……貴方に何が分かるの! じゃあなんなの! 指咥えてアイツらが幸せになるのを見とけって言うの! そんなの、そんなののするぐらいなら私は奪う! 好きなモノを自分のモノにして何が悪いのっ!」
恋は平等だとかどこかで聞いたことがある。だが、それは人のモノになっていないのに限る。その枠を越えてしまえば、浮気やら不倫やらやっちゃいけない事になるからな。
つまり、平等平等とか言いながら実は不平等。世の中そんなのばかり。
「でもその寝取りは誰かが泣く事になるんだぜ? 恨まれたり、悲しんだり……そんな事が起きても、なおお前は寝取るのか?」
「当たり前よ、初恋を叶えて何が悪いのっ!」
ここで一旦会話が途切れる。
まぁ簡単に「ああ、寝取るのやめますー」とは言わないわな。
このまま七香の邪魔をすれば、怒りを買い、俺に無理やり襲われたー、などというデマを流されるだろう。
んじゃ、怒りを買わない、安全対策のこれで一旦締めますか。
俺は七香に指を差し、宣言する。
「俺はなぁ、寝取りが大っ嫌いなんだよ。安易に人の恋人を寝取って、その行為に満足した後はポイっ。それが何より許せねぇ……。だからお前のその初恋が本気なのか見せてくれ。場合によっては俺は手を引く。
(七香side)
瀬尾七香は男を誘惑するのは得意だけど、男と付き合ったことがなかった。
当然、処女。
これまで何度も告白されたがまったく興味がすべて断ってきた。
だからこそ、こんなに意識させられた男は勇臣が初めてだった。
自分をナンパから助けてくれた彼に。
噂なんて関係なしに接してくれる彼に。
彼女持ちでも気にかけてくれる彼に。
————惚れた。
彼の隣にいたい。恋人になりたい。
なのに……なのに邪魔をする奴が2人いる。
1人は彼女の遥。もう1人は——告白してきた男。
(なんなのこの男……初恋が本気が見せてみろ? 寝取られるか、それを阻止するか……どっちのルートにいくか、勝負だ? ……私の恋を馬鹿にしないでッ)
「いいわ、やってやるわよっ!」
七香の返事に掛かった、と翔太郎はニヤリと笑った。
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