相談

 〜翌日……


 ティオロは、目を覚まして4階のリーミア・ルームへと向かった。


 「おはよう」


 彼が部屋に入ると、意気消沈したままの彼女が、ベッドから起き上がり、ボサボサの髪のままベッドの端に座り込む。ティオロはだらし無さそうな彼女の姿を見て、少し胸が苦しかった。


 「ギルド集会所に行くか?」


 彼の言葉に彼女は無言で首を横に振る。


 「今は、何もしたくない。お願い1人にして……」


 「そうか、分かったよ。だけど……僕も遊びたいけど、お金が無くてね……」


 「お金ならやるわ、幾ら欲しいの?」


 そう言って、彼女は少しだけ袋から金貨を出そうとしたら、ジャラジャラ……と、少し大目に金貨を出してしまって、自分の腰の上に落としてしまう。


 ティオロは、その金貨を拾い上げて袋に入れる。


 「じゃあ、取り敢えず、出掛けてくるよ」


 「うん……」


 リーミア返事をすると、そのままベッドに横たわる。


 生きる気力を失ったような彼女を見るのはティオロは辛かった。彼女と出会った時や湿地帯での活躍からは、とても予想出来ない程の落ち込みにティオロは慰めの言葉が無かった。


 どう対応して良いか分からず、そのまま宿の広間まで降りて来た。


 自分達が出掛ける前と違って、広間には数人の客達の姿があった。


 店も人を雇ったらしく、店内で食事を運んでいる姿も見受けられる。


 「おはよう!」


 ラミウがティオロに向かって威勢良く挨拶する。


 「どうだリニューアルしたウチの店は?君達には色々サービスさせてやるぞ、特にリーミアちゃんには特別待遇を用意してあるんだけど、今日はまだ起きて居ないのかね?」


 ラミウの言葉に、ティオロは少し戸惑った様子だったが、隠しても仕方ないと思った彼はラミウと彼の妻ルナの前で、事の詳細を伝えた。


 「そっか……色々と大変だったな」


 話を聞いたルナは、腑に落ちない箇所があるらしく、考え込んで居る様子だった。


 「どうしたんだお前?」


 「ねえ、リーミアちゃんて、転生者で魔法剣を持って居たのよね?」


 「そうだけど……」


 「もしかして、自らの命を犠牲にしてエルテンシア国を救ったて言う、伝説の王女様の生まれ変わりなの?」


 「可能性は否定出来ないけど、本人は違うって言っているよ」


 それを聞いたラミウは、彼女が名前を書いた時、彼女がワザと誤魔化す振りをした事を思い出す。


 「そうか……リムア姫に名前が似ているな……と、思ったんだよな」


 「ちょっと!」


 ルナが慌てた素振りで亭主の胸倉を掴む。


 「どうしたんだよ、いきないり」


 「貴方、何呑気にしているのよ。ウチの宿にお姫様が泊まっているのよ!しかも…伝説の王女様の生まれ変わりが!これって名誉な事だけど、変に彼女の機嫌を損ねると、お店が経営にも響くわよ!」


 (そんなに気にすることは無いと思うけどな……)


 ティオロは、彼女が自分が王女様だと自覚があったら、これまでの彼女に対する行動から、とっくに極刑ものだと感じた。


 「まあ……これからはリーミアちゃん、じゃなくてお姫様に対して相応の振る舞いで接しないとね」


 ルナは愛想笑いしながら言う。


 話が一段落するとティオロは軽く食事を済ませて市場へと出掛けた。


 彼は居酒屋へと行き果実酒を呑んだ。久しぶりの酒に満足したが…何故か、美味く感じられなかった。


 一日飲み屋をはしごしようと歩くが……何故か気分が乗らなかった。


 市場を歩いていると、彼は果物屋の前で足を止める。


 (そう言えば……しばらく顔を見せて無かったな……)


 裏通りの一角にある小さな扉の通りを越えて、建物の中に入ると細い造りで出来た木の階段を上って、小さな個室の様な部屋の扉をコンコン……と叩くとドアが開き長い赤毛の少女が扉を開ける。


 「あ、あなた……!」


 少女はしばらく振りに現れたティオロに対して少し驚いた様子だった。


 「こんにちはメイミ、どうしたの?」


 メイミは、ティオロを部屋に入れず外に出て彼と話す。


 「どうしたんだ、深刻な表情して……」


 「もう!何日も連絡しないで!心配してたのよ!」


 彼女は軽く彼の身体を叩く。


 「ご、ごめん……」


 「貴方が役人に捕まったかと思って、私はずっと心配してたのよ……ずっと」


 「これからは、ちゃんと連絡するよ」


 「本当?約束よ」


 「ああ、約束するよ。ところで差し入れ持って来たんだ」


 彼は果実の入ったバスケットをメイミに差し出す。


 「ありがとう!」


 彼女は嬉しそうにバスケットを受け取った。


 「そういえば……以前話してた女の子は、どうしたの?英雄リムア姫の生まれ変わりの子……」


 それを聞いたティオロは、少しもどかしそうな表情で、どう対応して良いか迷った様子でメイミの前で立ち止まる。


 「ねえ、メイミ……その事でちょっと相談したいんだけど……」


 「なあに?」


 2人はその場に腰を降ろして、これまでの事をティオロは彼女に伝える。事の詳細を聞き知ったメイミは深刻そうな表情で頷いた。


 「そう、そんな事があったのね……」


 「どうすれば、良いのだろう?」


 「ねえ…」


 メイミがティオロに声を掛ける。


 「良かったら、そのお姫様の生まれ変わりを連れて来てくれない?」


 「え、何で?」


 「だって、一度会って見たいんだもん。本物のお姫様って」


 「ごく普通の子だよ。君と同じ」


 「でも、いずれは。大きなお城に住む事になるのでしょう?だったら、今のうちに握手とかして置いた方が良いでしょう?」


 メイミの誘いを断れないティオロは「分かった」と、言って腰を上げる。


 「取り敢えず、誘って見るけど……期待しないでよ」


 「平気よ。まあ……ダメだったら、私達が宿屋に行くから」


 「了解」


 そう言ってティオロは一旦、メイミと別れた。

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