帰還②
彼等と別れたティオロは、ずっと座ったまま落ち込んでいるリーミアの手を引っ張り、ギルド集会所を出て、宿屋へと一緒に歩いてく。
彼が手を話すと、彼女はそのまま地べたに座り込んでしまいそうな程、元気を失って居た。
「何時まで落ち込んでいるんだよ…全く」
「うん…」
リーミアは小声で返事をした。
(ここまで来ると、相当重症だな…)
呆れた表情でティオロはリーミアを見た。完全に正気を失っているかの様な彼女を見ながら、彼は宿屋の前まで彼女を連れて来た。
「ほら、宿屋に着いたぞ。さあ中に入ろう」
ティオロは宿屋の扉を開けた。すると…宿屋の中は物凄い賑わいだった。
「いっ!何コレ?」
ティオロは驚きながら言う。流石に意気消沈として居たリーミアも少し驚いた表情をした。
彼等が戻って来たのに気付いた宿屋の女将ルナが「あら、お帰りなさい」と、声を掛ける。彼女は忙しそうに、宿屋のホールを走り回って居た。
「どうしたの、コレ?」
自分達が出掛ける前まで、店に客等1人も居なかった…。と、言うよりも宿屋の客は自分達だけで、店は物抜けの空だったのに…彼等が出掛けて帰って来ると、まるで別の建物になったかの様に、宿屋は繁盛していた。
「ちょっと、待ってね。アニー、リーミアちゃんを、例の部屋に案内してあげて!」
「は~い!」
奥から小さな少女が現れて「おかえりなさい、こっちよ」と、彼女はリーミアの手を引っ張って階段を上がって行く。
彼女達は4階まで上がると、目の前に大きな扉が見えて来て、アニーと言う少女は鍵を取り出して扉を開ける。
「ここは、リーミアちゃん専用の部屋よ。好きなだけ使ってね。勿論宿代は永久無料よ」
そう言って彼女は扉を開き、中の部屋を見せる。
「うわー!」
付き添っていたティオロが大声を出しながら驚いた。目の前に現れた部屋は宮殿の様な室内だった。美しい刺繍で彩られた絨毯や、カーテン付きの華やかな高級ベッド。天井にはシャンデリアが飾られ、更にタンスやクローゼット、ソファーまでも取り揃えてあった。
「何コレ、凄いじゃないか!僕の部屋も、こんな風になっているの?」
「こちらが、貴方の部屋よ」
ティオロは、部屋番の掛かれた鍵を渡されると、急いで部屋に向かって中を見た。すると…部屋の中は、出掛ける前と同じ殺風景な空間だった。
「ちょっと!」
ティオロは、不機嫌そうに戻って来て言う。
「何で、僕の部屋は前のままなんだよ!」
「え…?だって、あのお金、リーミアちゃんのお金なんでしょ?」
「そうだけど…でも、僕にも少し位は残して欲しかったね。大体幾ら使ったのだよ?僕のお小遣い分くらい残って無いの?」
「あるわよ、少しくらいは…」
アニーが金貨の入っている袋を見せる。彼は急いでそれを受け取り、中を見たら…袋の中には金貨が2枚しか無かった。
「あんなに沢山あったのに…全てお店と、この部屋につぎ込んだの?」
宿屋に戻ったら、しばらく遊び回ろうと予定して楽しみにしていた。リーミアがフォルサ達に奨励金を全て分配されても、帰って来ればお金があると、楽しみにしていた為、ギルドでは何も言わなかった。しかし…当初の計画は予想外の方向に資金が使われてしまった為、自分の手元には残った金貨2枚だけだった。
ティオロは愕然として、その場に座り込む。
「あ…ちなみにティオロさんの宿泊代は別料金なので、期限が切れたら、しっかり払って貰いますね」
「なんか…扱いの差が酷くない?」
「そんな事ありませんよ。ティオロさんが同じ金額を出せば、同じ様に接しますよ…払える金額があれば…ですが」
アニーと言う娘は、ニヤけた表情でティオロを見下ろした。その表情に彼はこの宿屋から抜け出したいと本気で思った。
結局、帰宅したその日は、ティオロは楽しみにしていたお楽しみが無くなり宿屋で一晩過ごす事になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます