帰還①

 馬車が進むと次第に彼等は純白城を目の当たりにする。その城を取り囲むように城壁が見えて来た。市場に戻るとフォルサ達一同は数日振りギルド集会所に顔を出した。本来なら湿地帯の主まで倒して意気揚々と凱旋する筈が、リーミアの落ち込んだ様子に集会所に居る人達は不思議な表情をしていた。


 受付担当のレナは狩場での報告や、敵の遺品等を受け取り、ギルドの事務所に鑑定を依頼した。しばらくして鑑定結果が報告された。一番の功労者はリーミアで、水晶の称号を授与された。


 「たった一週間ちょっとで、ここまで特進出来るなんてすごいわね」


 レナは驚きながらリーミアに水晶のペンダントを差し上げる。


 「ありがとう…」


 暗い表情で、リーミアはペンダントを受け取る。


 「どうしたの?もっと喜びなさいよ?普通の人なら水晶の称号まで到達するのに2年以上掛かものなのよ」


 「はい…」


 俯きながら、彼女は近くの椅子に腰を降ろした。


 その傍らで、フォルサがカルファに声を掛ける。


 「なあ、お前…水晶の称号を受け取るまで、どれ位掛かった?」


 「俺は3年だったかな?水晶の称号を頂いた時は、嬉しくてはしゃいで、その日の晩は嬉しくて眠れなかったなあ…フォルサは?」


 「4年近く掛かったかな?授与された時、当時の仲間と一緒に盛大にパ―ティをして一夜を過ごしたんだが…」


 そう話している横でアメリが「ウウ…」と、悲しそうにハンカチを咥えなながら嘆いていた。


 「どうしんだ?」


 「私、ギルドに登録してもう3年になるのに、まだ灰色の称号なのよ。なのに、あの子は私よりも階級が上に行ってしまったわ…」


 「まあ、仕方ないさ…あんなハチャメチャな戦い方だったら、直ぐに金の称号まで行けてもおかしくはないさ」


 その傍らで、フォルサはリーミアを見た。


 (今後は苦しい戦いになるだろうけど…)


 レナが他のメンバーの報告に来た。


 「フォルサさんとカルファさんは、もう少しで銀の称号に辿り着けるわね。アメリさんは、あと少しで白よ」


 それを聞いていたティオロがレナに「ねえ俺は?」と、声を掛ける。


 「君は、もう少し頑張った方が良いわね」


 階級上げの報告がされず、ティオロはガックリと肩を落とす。


 「お前は、湿地帯で5匹くらいしか魔物倒して無かっただろう?」


 カルファが呆れた声でティオロに言う。


 「あと…奨励金を配るわね」

 

 レナは最初にリーミアに奨励金を持って行く。すると彼女はレナに向かって、何か話をしていた。


 「え…?そうなの、分かりました」


 レナは一旦事務所に戻ると、改めてフォルサ達の方に来て、奨励金の入った袋を差し出す。


 「彼女から、貴方達3人に分けて欲しいと言われたの…」


 「?」


 フォルサは、何時もの小銭が入った重い袋でなく、軽すぎる袋を持って中を見て驚いた。


 「お…おい、金貨が3枚も入っている!」


 「わ…私もよ!初めてだわ、こんな大金!」


 フォルサ達は、人一倍戦っていながら、奨励金を受け取らない少女を不思議な眼差しで見た。


 「お前、何で奨励金を受け取らないんだ?」


 「私は平気よ。貴方達全員でそのお金を使って」


 気落ちしながらもリーミアは笑顔で言う。


 「そうなのか、すまないな…」


 フォルサが戸惑いながら礼を言う。


 「大事に使わせてもらう」


 カルファが、軽く一礼してリーミアに言う。


 「ありがとう、嬉しいわ」


 アメリはリーミアに握手しながら礼を述べた。


 不思議な少女を目の当たりにして戸惑いを隠せないフォルサは、今後リーミアとティオロはどうするのか尋ねる。


 「俺達と一緒に行動するか?それとも一旦除隊にするか?」


 その問いにティオロはリーミアを見つめた。


 「一旦除隊の方が良いね、元気を取り戻すのにも少し時間が掛かりそうだし…」


 「分かった。では…その様に手続きを済ませて置くよ、ちなみにアメリちゃんは、どうするのだ?」


 「私は…少し前、他のギルドに居る時に、メンバーの人に付き付き纏われて嫌になって脱退したのよ。真面目なチームを探している所だったのよ」


 「そうか…俺は女房持ちだし、カルファも恋人が居るから…その辺は大丈夫だが、お前が他を探すなら構わないが…どうする?」


 「そう言う事なら、こちらでしばらく一緒に行動しても良いわよ」


 「分かった、では、アメリは引き続き一緒に行動と言う事で…」


 話が纏まると、フォルサはリーミアとティオロを除隊させて、カルファとアメリと一緒に行動する事になった。


 「じゃあ、彼女が元気を取り戻したら、また声を掛けてくれ」


 そう言ってフォルサ、カルファ、アメリの3人はティオロに軽く手を振りながら、ギルド集会所を出て行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る