湿地帯②

 「ヒイイ…何て言う数だ」


 ティオロが震えながら言う。


 「ヤレヤレ…コレじゃあ逃げ出すのも難しいぞ…」


 フォルサは頭を掻きながら言う。


 「ねえ、こう言う時の戦法とかは無いの?」


 「流石にコレは予想外だ、一目散で逃げても負傷は免れ無いな…運が悪いと御陀仏だ!」


 皆が諦めムードの中、1人何か考え事をして居るリーミアが居た。


 彼女はその場に座り込む。アメリは流石の彼女も諦め掛けたのか…と感じた。


 『貴女の中に眠る秘めた力を…』


 誰かの声が呼び掛けて来る。リーミアは、微かに蘇る前世の記憶を思い出し始めた。


 ~遥か過去の記憶…


 体格の大きい男性が大広間の中央に立ち、その傍らには女神官が立っていた。


 その中央に幼い少女が立っている。


 「我が王家は常に『秘めた力』を持った者に王位を授ける。兄や姉達では無く、御主に王位を継承させるのも、御主が秘めた力を発揮出来ると見込んでの事。秘めた力とは…故に光の魔法。魔を追い払い、治癒を行い、暗闇を照らす効果がある。だが、これは…選ばれた者にしか扱え無い奇蹟(きせき)と言うに相応しい力である。その効果を発揮させる為には、あらゆる武芸も魔術も、人並み以上の実力が必要になる。それを受け入れる覚悟は有るかリムアよ」


 幼い少女は無言で頷いた。


 女神官が少女の側へと近付き少女の額に手を当てる。


 「貴女に眠る『秘めた力』を…それを目覚めさせるのよ。そうすれば、如何なる困難な状況でも乗り換えられるわ。洗礼に認められし時、貴女のその額には光の紋様が刻まれるでしょう」



 その後…少女は近衛と一緒に湿地帯で魔物達と戦う。少女は見慣れない不気味な存在に怖気付き、身を縮めていた。


 「どうしたのです姫様、こんな下級程度の魔物に怯えていたら、『秘めた力』なんて目覚めさせる事出来ませんよ。どんな状況も回避出来る術を身に付けないと…」


 ~現在…


 スッと起き上がったリーミアは、アメリを見る。


 「結界を代わりに張ってくれるかしら?」


 「え…良いけど、どうしたの?」


 「私がコイツ達の相手をするわ」


 その言葉に皆は驚いた。


 「コイツ達って、全部で200匹以上はいるぞ!」


 「平気よ、直ぐに片付けて見せるわ」


 「チョット待て、お前は正気か?幾ら何でも無茶だ!」


 「辞めろカルファ!」


 フォルサが、カルファを止める。


 「勝てるのだな?」


 フォルサの言葉にリーミアは黙って頷いた。


 「転生者の本領発揮か…?」


 フォルサは小声で呟く。


 リーミアは、額飾りを外し腰に付けた魔法の袋の中に入れると、スウッと息を吸い込む。すると彼女の全身から気力の様な物が発生する。


 その瞬間、魔物達はビクッと反応した。


 「結界の張り替えお願いね」


 「分かったわ!」


 リーミアは結界を解き、アメリが代わりの結界を張る。その時、リーミアだけ外に出た。


 彼女は、魔法の杖を地面に突き刺して、両手で波動を放つ。


 ドンッ!


 地面が軽く揺れて、周囲の魔物が数メートル弾かれた。


 直ぐに彼女は、魔法の杖を掴み上げ、杖を天高く掲げる。


 「雷電ー!」

 

 彼女の言葉を発すると同時に激しく眩い稲光が走る!


 カッ!ドガァーンッ!


 激しい落雷が落ちて、一瞬にして数十匹の魔物が焼け死んだ。


 周辺には落雷によって発生した煙が立ち昇って居た。


 「何て威力なの!こんな強力な魔法初めて見たわ…」


 皆は驚いた表情で見ていた。


 更に沼地へと飛び込み、魔法の杖を沼に刺す。


 「渦潮!」


 ドバーン!


 激しい濁流が押し寄せ、周辺の魔物が波に飲み込まれる。


 一瞬にして、周辺の魔物の数が減る中、離れた位置からリーミアに向けて弓矢が飛んで来た。


 「危ない!」


 しかし…彼女は、身構える事無く聖魔剣を抜き、飛んで来る矢を切り落とした。


 短剣が鞘から抜け出た時、剣の刃が長剣の形になっていたのを見て、フォルサ、カルファ、アメリが驚く。


 (やはり…あの短剣は魔法剣…聖魔剣と呼ばれる武器だったのか、だとすると、あの嬢ちゃんは…)


 たった1人で、周辺の魔物達と戦うリーミア、彼女が前に進む度に魔物の頭数は減って行く。


 後方から高くジャンプしてリーミアに襲い掛かろうとした魔物、シュッと剣を振り落とし真っ二つに切り裂く。


 前方から襲って来る魔物の群れをリーミアは剣を構え、カマイタチを放つ。


 カマイタチの空気の刃が、数匹の魔物の胴体を同時に切り落とした。


 リーミアは更に見張り台に向けて魔法の杖を構える。


 「火球ー!」


 巨大な火の玉が見張り台に向けて放たれた。


 ドーン!


 見張り台が激しい炎に包み込まれた。


 彼女が出て、僅か数分で200匹以上居た魔物の群れは、数える程にまで減った。


 「転生者の前では、下級の魔物の群れがどんなに集まろうとも、数のうちに入らないか…」


 フォルサは、次元の違う戦いに少し呆れ返っていた。


 見張り台から飛び降りて来た、群れの大将と思われる魔物が勢いよく走って来て、リーミアに向けて刃を振りかざす。


 リーミアは下級の魔物とは違う相手との戦闘に、数合…刃を打ち合いをした。


 しかし…次の瞬間。彼女が剣を鞘に入れて、剣を抜き出す時だった。長さが違う短剣が現れた時、魔物が大きく空振りしてしまう。


 一瞬の隙をリーミアは逃さなかった。彼女は短剣に威力を込めて、大きく突き出した、すると剣から空を貫く疾風が現れ、魔物の大将の体を甲冑ごと貫いた。


 大将が倒れた事により、周辺の魔物達は完全に怖気付いてしまった。


 戦闘が終了したと感じると、アメリが結界を解き、皆はリーミアによって助かったと感じて、彼女の前に集まる。


 「ありがとう、助かったよ」


 フォルサが嬉しそうに言う。


 「奨励金独り占めしやがって…。まあ、助かったのは感謝する」


 カルファが顔を背けながら言う。


 「ありがとう…リーミア」


 アメリは頬を紅く染めながら言う。


 「凄かったよ、感謝する」

 

 ティオロが珍しくリーミアを褒めた。


 皆は、戦闘が終わった湿地帯から魔物の武具等の回収し始めようと、湿地帯を歩き始める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る