王立図書館

 ~エルテンシア城 王立図書館


 エルテンシア城の隣に儲けられた王国の図書館、建国からの蔵書が収められていて、更に王国以前の書物や太古に書かれたと思われる書物まで保管されていた。その数はおよそ数百万部あると言われ、1人の人間が一生掛けても王立図書館全ての書物を読むのは不可能とまで言われている。


 王立図書館へと通じる長いレンガ状で出来た屋根付きの回廊を白髪で白い長いヒゲを生やした年老いた男性と、杖を付いた老婆が歩いていた。


 男性は老齢であったが、その立ち振る舞いから高貴な雰囲気が彼の身体から感じさせられていた。


 「そうであったかレンティ…、貴女の処に彼女が来ましたか」


 男性は少し嬉しそうな表情で頷いた。


 「いやぁ…それにしてもアルメトロス殿、まさか貴殿に呼ばれるとは思っておりませんでしたよ」


 「いえ…最近巷で、テリオンの剣の噂が聞こえてましてね。私達は以前から、それについて色々調べ物をしておりました。それを貴女にお伝えしたく思いまして…」


 「今更何をお気になさるのです?神殿も修道院も、彼女にかなり有利になる道具類を持たせているでは無いですか!位置情報が確認出来る地図や、無限に溢れ出る金貨の袋等…それだけでも充分に彼女1人で直ぐに金の称号を得られるに余裕では無いですか?」


 「確かにそれは有りますね。ただ…貴女を今回招くのは、それ以外の事であります」


 「そうでありましたか…」


 アルメトロスは笑いながら答える。


 2人は図書館の中枢部である大広間に入る、周辺では趣味で本を読む人や、文献を探す人の姿が大勢見受けられた。


 「ところで…彼女は生前の事に関しては何も知らなかった様ですが、何故…修道院は彼女の生前に付いて教え無かったのですか?」


 「自身が王女の生まれ変わりと幼初期に教えて、いずれ自分は王女になる身だと知っていたら、彼女は若い時期から苦労を知らずに大人になると思います。王家や神殿もその様な輩に王位を授けたく無いのが真実です」


 2人は中央の広間を通り抜けて長い廊下を歩いて行く。


 「それとは別に、実はですね…リムア姫に伝わる話ですが…世間で囁かれている噂は、本当の内容と少し食い違いが少しありまして、貴女にそれをお見せしたいと思います…」


 「ほお…そうなのですか?」


 アルメトロスは地下へとレンティを案内させた。


 「ここから先は、王国でもごく僅かな人でしか入れない領域です」


 アルメトロスは入口に立っている見張りの人に頼んで、入口の扉の鍵を開けて貰う様に頼む。扉が開くと、その先は真っ暗闇の世界だった。


 アルメトロスは衣服に掲げられた皮の袋から水晶の玉を取り出し、呪文を唱えると、玉は宙に浮き、更に眩い光を放つ。


 「こちらにある全ての書物は、全部古代文字の本です。一般に公開しないのは、古代文字の文献を読み解き、それを悪用させない為です。リムア姫も生前は…こちらにある文献を熱心に熟読し、彼女にしか扱えない究極魔法を開発し、更に聖魔剣を手に入れる事にも成功したのです」


 「なるほど…噂には聞いてましたが、本当にこの様な場所があるとは思って居なかったです」


 「一部の人でしか立ち入る事を禁止しておりますので、世間ではあまり知られていない場所です。こちらには様々な時代の、色んな言語の古代書物が在ります。古代の魔術から神聖な物、闇の魔術に関する禁書等…全てが揃っています。不心得な輩が立ち入り危険な魔術を読解され、国が転覆してしまわない為にも常に厳重な警備の元…管理させているのです」


 アルメトロスは、ある場所まで行くと、本棚から大きな本を取り出し、近くにある机の上に置き項目を開いた。


 「こちらの文献です。ここに書かれている行をお読み下さい」


 アルメトロスが指した行を、レンティは虫眼鏡石を取り出して古代文字を解読しながら読み始める。


 しばらくして、彼女は突然震えだした。


 「こ…これは、まさか!」


 レンティは、顔を上げてアルメトロスの顔を見る。


 「ここに書かれているのは真実です、そしてそれを裏付ける内容も在ります」


 彼は、エルテンシア王家の歴史にまつわる文献の項目を開いて、レンティに見せる。彼女はその文献を手にして内容を読んだ。


 「こ…これが本当だとすると…姫の転生は計画的だったのでは?」


 「可能性は否定出来ませんが、王家も彼女の行動を見計らって、その一旦を担っていたとも伺えますね」


 「何とも…我が身を犠牲にした、悲劇の王女伝説の一面に意外な裏側があったとは…」


 レンティは、文献を手にしながら震えが止まらなかった。

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