暗闇の中で…

  ~別の場所…


 カツン…カツン…


 薄暗い洞穴の中を鉄製の靴音が歩く音が響き渡る。

洞穴の中を歩く者は、松明を片手に奥へと歩いて行く。陽の光が届かない暗闇の洞穴は肌寒く、湿気が酷く周囲から水の滴る音が響いて来る。


 やがて、前方から蝋燭の炎の明かりが見えて来た。


 数本の蝋燭に灯された場所に、一人の老婆の姿があった。老婆は猫背の様な姿で、赤黒いローブを羽織り、顔はシワだらけで、右目は大きく見開いているが、左目は細目だった。


 ニヤニヤと薄気味悪い笑いをする口元からは、歯が数本しか無かった。


 老婆の前には木製の台が置かれていて、台の中央には大きな水晶の玉があった。


 「俺ヲ呼ンダカ、メヌザ…」


 漆黒の甲冑に身を包んだ男性がぎこちない言葉で話し掛ける。


 「ケケケ…ようやく来たかルディアンス、待ちくたびれたぞ」


 「今回ノ魔法剣使イハ、殺スノニ少シ手間取ッタ」


 「まあ…良い、それよりもラトム・ギルド集会所に忍ばせて置いた、仲間からの情報だ。これを見ろ!」


 ルディアンスは、メヌザと言う老婆が映し出した景色を眺める。


 そこには野営地で、4人程の若者達が魔物達と戦っているのだが、1人だけ異常に戦闘が優れた人物の姿が映し出される。可愛らしい顔で凛として美しく整った顔立ち…それに釣り合うかの様に大きな瞳、長い黒髪は風に靡かせている。


 ルディアンスの目は、その少女が持つ剣に目が行った。


 「コ…コノ者ノ剣ハッ⁈」


 剣が鞘から抜かれる度に、形も長さも異なる魔法剣にルディアンスは驚かされる。


 「間違いなくテリオンの剣だ。しかも…それを所有している事は」


 「リムア姫ノ生マレ変ワリカ?」


 その言葉にメヌザは頷く。


 水晶から映し出される景色を見ていたルディアンスはグヌヌ…と興奮した様子を見せる。


 「欲シイ、俺ハ…コノ少女ヲ殺シテ、魔法剣ヲ手ニ入レル!」



 ~山小屋…


 眠っていたリーミアも目を覚まして、山小屋にある食堂で皆は食事を済ませる。


 一息着いた後、フォルサは北部の山の峰に小さく見える砦を眺めた。


 「どうしたフォルサ、ラムトレンに何か想いがあるのか?」


 カルファが少しからかう様に言う。


 「いや…そうでは無いが、近いうちに囚人が首を斬られると聞いてね…」


 「そうなのか…」


 「今年になってから、もう何人目になるのかな?」


 「昨年も結構居たらしいな。今では空中回廊の呼び名も『処刑回廊』と、言う異名で呼ばれているようだし…」


 「空中回廊で処刑を提案したのはリムア姫だったけど、生前彼女が王位を即位している間、囚人で処刑された人が居なかったと言う逸話が残っているようだけど…実際の処、彼女は何を考えて居たのだろう?」


 「本人かもしれない人物に聞いてみたらどうだろう?」


 カルファは店から出て来るリーミアを見て言う。彼女はアメリとティオロの三人で楽しそうに会話をしながら歩いていた。


 「なあ…リーミア、少し聞きたいのだけど…」


 「はい?」


 「もし…君が罪人とかに判決を降す立場になったら、どんな悪人でも処刑するかね?」


 フォルサの言葉にリーミアは少し考えたが、直ぐに答えをだした。


 「罪人と言えども、人の子です。先ずは罪を償わせ、対価を支払せるのが先決ですね。どんなに悪人でも生きる権利はありますから…処刑や斬首は本人の判断に委ねますわ」


 「へえ…じゃあ、仮に君の恋人が浮気や不倫しても許すのかね?」


 カルファがリーミアに向かって言う。


 「浮気や不倫が発覚したら、容赦無く打ちのめして、相手の体に恐怖を植え付けますわ!私以外の女と仲良くしたら、地獄が待っていると脳裏に焼き付けてやります」


 リーミアの微笑み方が少し不気味に感じた。


 近くに居たティオロは、アメリに向かって言う。


 「アイツはこう言う事を本気でやるから、怖ろしいよ」


 それを聞き耳立ててリーミアはティオロを睨みつける。


 「ねえ…ティオロ、ちょっとアメリに接近し過ぎじゃない?」


 薄気味悪い笑みを浮かべながらリーミアは、魔法の杖を軽く掌で叩いている。それを見たティオロは、慌てて急いでアメリから離れた。


 彼等の他愛無い雰囲気を見ながらフォルサはアゴヒゲを撫でながら少し考え込む。


 「どうしたの、まだ気になる事があるのか?」


 「いや…別にそうでは無いが、ただ…少し思い出した事があってね」


 「何か?」


 「今の嬢ちゃんの言葉、あれは…生前のリムア姫が書き残した文面と、ほぼ同じ一致している。姫は『どんな悪人で在ろうとも生きる権利ある』…と書き残していたのを思い出した」


 「まさか!彼女はそれを読んで知っていたとか?」


 「さあね、その書物は城にしか保管されていないし、俺もたまたま城に招かれた時、彼女の生前の手記の書物を見て知った一文だ。彼女が俺達の何気ない質問に対して、事前に危険を冒してまで城に潜入するとは思えないけどな…」


 「では…やはり彼女は?」


 「どうかな…?」


 フォルサは少し笑いながら、荷馬車の方へと歩いて行く。


 ちょっとした会話の後、彼等は再び荷馬車へと乗り込む。一同を乗せた荷馬車は再び走り出し、森の奥地へと向かう。


 前方に小さな桟橋が見え、その桟橋付近でフォルサは荷馬車使いを止めさせる。


 「ここから少し歩く事になる」


フォルサは皆を降ろして、男性達は荷物を持つ。ティオロは「ふええ…聞いてないよ。こんな事~!」と、不満を言いながら、大きな荷物を抱えて歩かされる。

彼等は森の中を少し歩く、ティオロがヒィ…ヒィ…と、息を切らして歩いていると、アメリが、彼に手を差し伸べる。


「大丈夫?疲れたなら荷物少し持つわよ」

「え、本当?」


ティオロは嬉しそうに返事をした瞬間だった。彼の少し後方に居るリーミアから怖ろしい殺気を感じた。


「うッ!ご…ごめん、大丈夫…まだ頑張れます」

「そ…そう?」


少し不安そうにアメリは言う。彼女がティオロを気遣う傍らで、リーミアがアメリの側へと近付く。


「ねえ…アメリ、胸のネックレス綺麗ね」

「え⁈ありがとう、これは形見なのよ」

「へえ~、そうなの!」


アメリとリーミアは、楽しそうに歩き出してティオロは置いてきぼりを喰らった。


「ちょっとォ~、置いてかないでよ~…」


ティオロの悲痛な叫び声が森の中にこだまする。

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